弦を交換する前に 試してみてください。  

 


ヴァイオリンや チェロの響は ヘッドの影響を大きく受けています。そこで私は、その応用で弦楽器の鳴り方を改善する実験をお薦めしたいと思います。

これは ヴァイオリンや チェロのナットにある溝に、弦の滑りを良くするために 鉛筆( 5B )やローソクを塗る 通常メンテナンスを工夫したものです。

一般にはナット溝のメンテナンスとしては鉛筆が普及しているようですが、私は 蜜蝋入りロウソクの方が より効果が大きいと思っています。この実験のために 恐縮ですが それを準備してください。

因みに、私の場合は仕事でお客さんに差し上げたりしていますので  山田念珠堂  /  蜜蝋入りローソク あさみどり3号 54本入り ( 税込3,888円 )を使用しています。

それから、 この実験は簡単ですので 所要時間 1~2分といったところだと思います。


実験は、まずはじめに準備した弦楽器の響を 開放弦程度でかまいませんので4本とも確認してください。

それから、ヴァイオリンやチェロのナットにある 4本の弦溝のうち 4番線( 一番左側 )の溝だけ 弦の滑りを良くするためにローソクを塗り その後また調弦します。

そして、もう一度 響を確認してください。すると‥ ローソクを塗った4番線だけでなく他の3本も含めて 鳴り方が改善しているのではないでしょうか。

これは4本のうち1本のナット溝だけ塗ったことで ヘッド部のねじりが大きくなり、それが響胴の共鳴条件を改善したためと考えられます。


なお、この実験は弦の状況でも結果にある程度の差が生れます。

例えば、上写真のチェロに張ってあるスピロコアーC線のように芯弦のケーブル 注)1  の上を ナイロンの中間材でさや状に包み、その外側に銅色の丸い金属線が巻いてあり( ラウンドワウンド )、それにまた 白銅色の丸い金属線が巻きつけてあり、最後に平たいベルト状の白みがかった金属が巻き付けてあるフラットワウンド弦で、ある期間使用し‥ 少ししなやかさが失われかけたものは、劇的に改善がみられるようです。

 

注)1
写真では解いていませんが この弦は 中央に2本のピアノ線がねじって糸状にされ、それを包むように6本のピアノ線が強く編み込まれて合計8本で線状ケーブルになっています。つまり、このスピロコアーのC線は 中間材のナイロン部を一つとして数えると12本の線材などで作られています。

私の経験では、ヴァイオリンやチェロで一般に使用されている弦はフラットワウンド弦が多いので 、張ってから時間が経つと内部のずれなどの影響で一番外側の平らなベルト状金属に隙間ができてしまい、駒の弦溝やナットの弦溝部でのすべりが悪くなっていることが 多いようです。

つまり、弦を交換する頃が この実験に最もふさわしいのではないかと 私は思っています。

少し前のトマスティーク社のドミナント弦の広告で、伝統的な手作業でフラットワンド加工をしている写真が貼られていました。

 


芯弦( コアー )がナイロンの場合は 当然‥ 不安定要因が多くなりますので、この実験は より効果が分かりやすいかもしれません。

なお、私はこの投稿では 一応「実験」と言う表現を使っていますが この実験の効果は特に一時的なものではありませんので‥ 結果として、弦を使用できる期間をのばせるのではないかと思います。

それから、弦楽器においてのねじり条件をより知りたい方のために、下に別の実験のリンクを貼っておきます。

非対称楽器であるバイオリンの “名器的響き” を楽しんでください。

 以上、ありがとうございました。

 

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2017-7-18               Joseph Naomi Yokota

ヴァイオリンの音は 聴くほかに “見て‥” 知ることが出来ます。

皆さんがご存じなように、弦楽器の表板は スプルース材の年輪がたてになるように使用されています。

そのため縦に割れやすい特性があり それが影響して このチェロの魂柱部には縦方向の割れ( Sound post Crack )が入っていて 表面のニスにも 縦方向のひび割れがはいっています。


私はこのニスに入った縦ひび( a. )はバランスが調和していなかったことで歪みが溜まり 表板が疲労した過程できざまれたものと思っています。

では b. c. そして d. のひび割れはなぜ入ったのでしょうか?
私は この年輪に直交するひび割れは チェロやヴァイオリンに設定された音響システムによって入ったものと考えます。

因みに‥ 私がこのように ニスのひび割れと響きを関係づけて考えるようになったのは  2003年 9月29日 の 16:45頃からです。

長くなりますが、ここで その時のお話をさせて下さい。

それは 2週間前まで 11歳の長女が使っていた 1/2サイズのヴァイオリンを 7歳の二女が使いたいと言い張ったので 、その準備として 弦などの交換を検討するために 工房の入り口に立ってこのヴァイオリンを私がチェックしている時のことでした。

風もなく空が晴れわたったおだやかな夕方で 私が立っている工房の入り口には まだ日差しがさしこんでいました。

そのときニスのひび割れが 『 キラッ ! 』と蜘蛛の糸のように光ったのが 私の目にとびこんできました。 それで私は このヴァイオリンの表板と側板にはいった ニスのひびを確認してみました。 はじめは 『  なるほど。 分数ヴァイオリンでも フルサイズとおなじ入り方をするんだ‥‥ 。』と思いながら観察していたのですが、 当時 私が記憶していた他の事例とあまりにも合致していたので 『  これは‥ もしかして! 』と思ったときに 私の顔色は変ったと思います。

それまでニスのひび割れを特に重大なことと思っていなかった私でしたが、このときヴァイオリン響胴の振動モードとそれが きちんと繋がったのです。 私はこのとき『  ヴィジョンが降りてきた‥‥ 。』感覚のなかで 『  いま自分の頭のなかにうかんでいるヴァイオリンのヴィジョンは本当なのかな? 』と 戸惑いながらも楽器の角度を変えたりしながら観察して、もう一度 頭にうかんだ ヴァイオリンの振動モードに誤りがないかを検討しました。

その最中のことです。  私が表板側と側板に気をとられてよくみていなかった 裏板がレイヤー映像のように頭のなかに浮かんだのです。 『  表板がこう振動して側板はブロックによって こう動き‥ということは裏板のここら辺りにこういう形状のニスひびが‥‥ 。』と 私は 独り言をいいながら 裏板を見るために ヴァイオリンをひっくり返しました。

いまでも その瞬間をときどき思い出します。
とにかく感動しました。  私が予測したとおりの形状の小さなニスひび割れが 裏板の推定した位置に 入っていたのです。 おかげさまで 私は 鉱山技師が鉱脈を発見したような 歓びを経験しました。

下の図は そのニスひび( 表板側 )を 2005年になって 私のノートに記録したものです。


この時に私がはじめに気がついたのは下幅広部に真横に入っているニスひびが テールピースの下で繋がっておらず 魚のウロコ状のニスひびとなっている事でした。

それで私は このニスひびは ボトムブロックの端付近( 高音側 )の点 a. から ゆれがはじまる”ねじり”によるものと判断したのです。

その証拠に反対側のネックブロック部をみると 点 b. 辺りからブロックのねじりによるニスひびがはいっています。


このような ネックブロックのねじりは上の動画で確認できます。
おそらく撮影の都合だと思いますが鏡像になっていますので ネックブロックは手前側が高音でその奥が低音側となっています。

私は これらのニスに刻まれたヒビは弦楽器のねじりについて 決定的な状況証拠となるものと考えています。

“Varnish crack”   1970年製     Karl Hofner Cello( 2006年撮影 )

【  弦楽器のニスに入ったヒビが物語ること‥。】

この投稿はここまでとさせていただきます。

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2017-7-10               Joseph Naomi Yokota