コーナー部差異の検証実例

響きに複雑な表情があり 音の立ち上がりが良い弦楽器を識別するためには『 非対称弦楽器 』の特徴を知る必要があります。

しかし、これらの弦楽器にみられる音響システムは、膨大な条件設定で構成され、同じ製作者でも一台ごとに木材などの特徴も取り込んでいるため パラメータ( parameter は「 変数」のことで シーンによって値が変化したものです。 )も豊富です。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

そこで 、私は 先ずは『コーナー先端部の非対称性』についての確認を お勧めしています。

なぜなら、『オールド・バイオリン』や『オールド・チェロ』では それらの関係性が 響胴の共鳴現象を誘導する要となっていると思っているからです。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

それでは、それを具体的に見てみましょう。最初は 上図で R1L1 、そして R2L2 とした「一対」の要素をもつ裏板コーナー先端部の面積差と、エッジの摩耗加工の様子を観察します。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

Andrea Amati ( ca.1505–1577 )   Violin,   “Ex Ross”   1570年頃

Gaspar da Saló ( ca.1540-1609 )   Violin,   Brescia   1600年頃

Giovanni Paolo Maggini ( 1580 – ca.1633  )  Violin,  Brescia 1620年頃

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 )   Violin,  “Lady Jeanne”    1731年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )   Violin,   “Carrodus”   1743年

Giuseppe Antonio Rocca ( 1807-1865 )    Violin,  Turin   1845~1850年頃

観察ポイントは、コーナー先端横の狭隘部にいれた左右の赤点の上下位置関係とそこからの垂線( 赤線 )の外側に突き出た幅、そして水平補助線( 黒線 )から突き出た高さなどです。

この時にコーナー部の面積差を照らし合わせて 相対的に小さくされているのがどれかを 読んでください。

それでは、 裏板を俯瞰しながらコーナー先端部を比較するための 『オールド・バイオリン』を 年代順にならべてみます。

Andrea Amati ( ca.1505–1577 )  Violin,  “Ex Ross”   1570年頃

多数のオールド弦楽器を観察すると、 R2 コーナー先端部が相対的に小さくされているのが 裏板のトレンドと考えることができます。 ( R1 が最小の場合もそれなりあります。)

Gaspar da Saló ( ca.1540-1609 )  Violin,  Brescia  1600年頃

Giovanni Paolo Maggini ( 1580 – ca.1633  )  Violin,  Brescia 1620年頃

ただし、その例外的バランスで製作された楽器も少数派とはいえ重要だと思います。

ここでは、その中から ねじり設定の応用編といえるヴァイオリンを一台だけ紹介させていただきます。

このヴァイオリンでは 裏板の L1 、 L2 と 表板の E1 、 E2 コーナー部が そのほかのコーナーに対して相対的に小さくされています。

Giovanni Paolo Maggini ( ca.1580 – ca.1632  )  Violin,  Brescia 1620年頃

これは、真上から ( スクロール側からエンドピン方向 )を見たときに四角い断面となっている 響胴の立体的対角を動きやすくすることで一方向の回転運動をアシストするための工夫であると 考えられます。

Giovanni Paolo Maggini ( ca.1580 – ca.1632  )  Violin,  Brescia 1620年

そもそも・・ ヴァイオリンが開発された時期に 表板、裏板の4個2対で 8つの角を持っていたり、響胴の立体的工夫で ねじりを俊敏にした弦楽器が製作された事実があるのです。

例えば、メトロポリタン美術館の収蔵品で 1420年頃に製作されたとされる “Mandora”には 「ねじり」につながる要素が たくさん盛り込まれています。

Boxwood,  Rosewood,  Ebony,  Spruce

Cut from slab sawn block of boxwood; interior entirely gouged out from front to a maximum depth of about 15 mm; dark brown surface richly incised; flat rosewood fingerboard 1 mm thick covers neck cavity; connected body cavity partly enclosed by flat boxwood plate overlapped at top by concave end of fingerboard.
four shallow circular depressions, formerly inlaid, surround slightly concave, pierced spruce Rosette reinforced beneath by 4 transverse ribs partly occluding scrollwork, 3 other ribs bracing the front.

The Metropolitan Museum of Art

“Mandora”  1420年頃     L 360 – W 96 –  D 80 ( 83 ),   Weight 255 g

興味深いのは この “Mandora” は、上図にある正確に四角く並ぶ 4つの コンパス・ポイントが 非対称の起点とされていると考えられることです。

長さ 36cm程の ツゲ材から彫りだされた本体は、この時期に製作された弦楽器における非対称軸組の最高の事例ではないでしょうか。“Mandora” 1420年頃    L 360 – W 96 –  D 80 ( 83 ),   Weight 255 g

Francesco Linarolo ( active in Venice ca.1520-1601  )
“Viola da gamba ( or viol )”   :  SAM 66.  … bent over two transverse ribs into its curved shape.

本物の弦楽器を見分けたい場合には、このような事柄を念頭におき、コーナー部の関係性を観察して ねじりに繋がる要素が意図的であるかどうかを考えることが その早道となるのではないかと思います。

”Treble viol”  Giovanni Maria da Brescia ( 1550-1600年頃  )

ねじりのメカニズムについては、コーナー部がなかったものに表板、裏板に「一対」のそれが加えられ、最終的に ヴァイオリン誕生に繋がったことを念頭に置くと見えるものがあるのではないでしょうか。

“Lira da braccio”  Francesco Linarol ( 1502-1567 )

Giovanni Paolo Maggini ( ca.1580 – ca.1632  )  Violin,  Brescia 1620年頃

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 )   Violin,    “Alsager”  1703年

Nicolò Amati ( 1596–1684  )  Violin,  Cremona  1651年

Antonio Stradivari ( 1644-1737 ),  Violin   “Tartini – Lipinski”  Cremona   1715年

Antonio Stradivari ( 1644-1737 ) Violin,   “Lady Jeanne”  Cremona   1731年

”Guarneri del Gesù ( Bartolomeo Giuseppe Guarneri 1698-1744 )
Violin,  “Carrodus”   1743年

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   Violin, “ex Havemann”
Cremona 1791年

 

 

 

●   パティーナ( Patina ) 加工について