1. オールド・ヴァイオリンの製作技法 ( How to make “High performance stringed instruments”. )

● 弦楽器製作者や、演奏者が忘れたこと

さて、そもそも話ですが… 現在、クラシック音楽で使用される楽器の多くが1830年~1860年頃に発明されたり、改変されています。

■  Nicolò Paganini ( 1782-1840 ) 1820年 “24 Capricci” 出版
1831年4月17日( 日曜日) “パリ・デビュー” 1828 Vienna, 1831 London
■  1830年  ベルリオーズ ( 1803-1869 )《幻想交響曲》が初演。


■ 1831年~1847年  ベーム式フルートが発明され普及が始まります。  Theobald Böhm ( 1794-1881 )
■  1835年  メンデルスゾーン ( 1809-1847 )が、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者に就任します。
Friedrich Dotzauer ( 1783-1860 ) “113 Studien” Klingenberg 1837年 
■ 1838年  Dominique Peccatte ( 1810-1874 ) 工房設立 ヴァイオリン弓やチェロ弓を”モダン型”に差し替える流れが始まりました。

■  1814年~1850年  バルブの発明により、ナチュラル・ホルンが次第にバルブ付きのフレンチ・ホルンに置き換えられました。

■  1843年  ベーム式クラリネット開発されました。Hyacinthe E. Klosé ( Louis Auguste Buffet / jeune (

■  1844年  ベルリオーズ ( 1803-1869 ) 「管弦楽法」出版
1855年 補訂版

Lisa Cristiani ( 1827-1853 ) “Cello endpin” 1845-1850年頃撮影( daguerréotype )

Adrien-François Servais( 1807-1866 )
■  1840年~1847年頃  チェロのエンドピンが考案され普及が始まりました。Adrien-François Servais( 1807-1866 ) / Lisa( Elise ) Cristiani( 1827-1853 )
1845-1850年頃撮影( daguerréotype )

■   1840年~1855年  ヴァイオリン顎当ての普及   ルイ・シュポーア( Louis Spohr 1784-1859 )が 考案者であるかは判然としませんが、パブロ・デ・サラサーテ( 1844-1908 ) はパリ音楽院に在籍していた1855年頃には使用していたようです。

■ 1855年  オーボエ / コンセルヴァトワール式 ( Conservatoire system )が普及しました。  コンセルヴァトワール式とは、トリエベール  ( Frédéric Triebert 1813-1878 )が開発し、現在一般的となったオーボエのキーシステムです。
“Oboe vs. Flute”    時代の流れによりオーボエもフルートなどとおなじようにキーシステムを取り入れました。その過程でフルートは曖昧な表情をある程度捨て去ることで成功を得ました。しかし、オーボエは繊細な深さのある表現に最後までこだわりました。機動性を犠牲にしてでも…

オーボエなどの”ダブルリード”菅楽器では、その特質が音色を左右することもあり、多くの奏者が葦材そのものか、半完成品のリードを入手した上でプラークと呼ばれる船型の下敷きをリードの間に挟み、自分に合ったリードに削った上で使用しています。

 

また、シングルリードと異なりダブルリードは演奏の前に水につけてから演奏しますので、奏者は水入れを携帯し 演奏中は少しの休符であればそのままで、多少の乾きは舌で舐めて湿らせ、それ以上に乾いていれば水入れに再度浸してから使用します。

そのリードはケーン( 葦 )という天然素材でできており、使用すると疲労していきますので寿命は短く、一般的には 良い状態で使えるのは約30~40時間程と言われています。また、個体差はありますが 使用できる期間はだいたい2~4週間ほどだそうです。

張りのある状態が完全になくなった時にリードが寿命を迎えたと判断されます。新しいリードは張りが強く、馴染ませないと吹きにくいため、ある程度硬さがとれるように調整します。

ですから 長持ちさせるために、なるべく1本だけ使用し続けるのではなく、3~5本をローテーションして使用するなどしながら演奏されています。

■  1853年  ベルリンに ベヒシュタイン・ピアノ 社 “C. Bechstein Pianofortefabrik” が創業。
■  1853年  ニューヨークに “Steinway & Sons”社が
創業。
■  1830年~1850年  英国において 1830年に開設されたマンチェスター・リヴァプール鉄道にはじまる鉄道開設ブームがおこり、1850年までに営業開始した旅客鉄道のイギリス国内総延長は およそ9656km に達しました。
■  1851年5月1日~10月15日    第1回万国博覧会であるロンドン万国博覧会がハイド・パークで開催されました。
■  1852年  大統領であったルイ・ナポレオンは 前年にクーデターを起こし、独裁体制である「第二帝政」を確立し、1852年に皇帝ナポレオン三世( Napoléon III 1808-1873 )として即位します。
■  1848年~1871年  サルデーニャ王国が主導してミラノ、ヴェネツィアに反乱が起こり、最終段階の1871年に教皇領であったローマを占領しサルデーニャ国王 ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世( 1820-1878 )が統一イタリアの国王( 在位1861-1878 )として正式にローマを首都として定め、近代国家であるイタリア王国が成立しました。

Christian Heinrich Hohmann ( 1811-1861 )
Praktische Violinschule” 1850年以前
Heinrich Ernst Kayser ( 1815-1888 ) “36 Studies Op.20”, 1848年
Jakob Dont ( 1815-1888 ), Vienna / “24 Etudes and Caprices” Vienna, 1849年頃


■  1849年に発明され 176年間変わっていない物

2004年頃のことですが、私は ヴァイオリン響胴の”腹”と”節”について研究していました。

このときに、響胴が振動するための”機能”設定は、表情に富んだ響きやレスポンス、キャリング力といった”性能”から逆リレーションによって決定するものと思い到り、その因果関係を実証する方法を考えました。

そのケーススタディーとして、管楽器は”機能”と”性能”が直結していて分かりやすいと考え、さっそく実験してみました。

因みに、若いころの話ですが 観世流 能楽師の知人から “古管”の能管( 本煤竹樺桜巻 )を貸してもらい 吹いていた事があります。その練習のあいまに 能管をながめていて『全部の孔と孔の間が樺桜で巻かれ漆仕上げとされているのはなぜ?』と 疑問を感じた経験があり、 それが”節”として設計されたことが この時にイメージできたのです。

能楽で用いる能管は、長さ38~39cm程で 竹を素材とし、指孔7孔と歌口を成型したあと、それらの間に樺( 桜の表皮を薄く裂いて糸状につないだもの )を巻き、漆や朱を塗ります。管の内側は、歌口と第1指孔の間に細い竹片(喉)を入れたりすることで、その内径の一部が狭めてあるのが特徴です。

これに対して 下の”Oboe” in C, Jacob Denner( 1681-1735 )と、”Flauto traverso”  Jean-Hyacinth Rottenburgh (1672-1756)は、中央部の指孔が3孔と3孔に分けてあり、 その下の モーレンハウエル社 アルト・リコーダー( ツゲ材 )は Jacob Dennerが 1735年以前に製作したものを参考として2003年頃製作されたもので、6孔のグループと1孔で製作されています。

そこで、能管の 歌口、7指孔の間に巻かれた樺を”節”として考え、その効果を確認することにしたのです。

私が考えた実験は、このモーレンハウエル社 アルト・リコーダー( 472mm / 186.5g )に、輪ゴム( 直径38mm / 0.17g )を“簡易的な節”として6孔の指孔グループを 3孔づつに分けるように巻きつけ、 音階を鳴らしその直後にハサミで輪ゴムを切って外し その状態でまた音階を鳴らして 差を比較するものです。

そして 実験結果は、予想を遙かに越えたものでした。

木管楽器の材質が その響き方に影響することは よく知られていますが、第3指孔と第4指孔間に 輪ゴムを巻いただけで菅体の響き方が明瞭となる変化は、なかなか衝撃的でした。

このように、輪ゴムによる”簡易的な節”で この差が生じるということは、輪ゴムより重さがあるものを巻いたらなお更でしょうし、彫り起こしや、管の内側に挿入して内径を狭めた”節”の効果がどれ程大きいかが分かります。

ともあれ、私は この実験結果により高性能弦楽器( High performance stringed instruments )を 実際に製作できると信じるようになりました。

ところで、楽器にとって固有振動を安定的な響きに役立てるのは、意外と難儀です。

それは 音響機器のスピーカーで 簡単に検証できます。
スピーカーの下に敷くものは、一般に”インシュレーター”と呼ばれています。小さなスピーカーでも 机や床とスピーカーの間にインシュレーターを挟むと音が良くなります。
From a Facebook post dated October 1, 2025

なお、インシュレーターの置き方には4点支持と3点支持があります。4点支持はいうまでもありませんが、3点支持はスピーカー正面に対して次のどちらかを選びます。

  

このような、スピーカーの固有振動を妨げない工夫は 響きを豊かにできるので明解な判断がしやすいと思います。

さて、振動体について このようなイメージがあると、楽器の固有振動に関しての気づきを たくさん得ることができます。

Henry Z. Steinway( 1915-2008 )  /  “Steinway & Sons” Grand piano, ¹ 2005年 ( 1893年頃のモデル複製品  )

当時 91歳となった Henry Z. Steinwayさんは、1955~1977年の間 Steinway & Sons の社長を務めました。これは 2006年に、彼の業績を記念して発売された「ヘンリー・Z・スタインウェイ 限定モデル」の広告写真ですが、あまり見慣れないピアノ足部だと思います。

 “Steinway & Sons” Grand piano, ² 1893年

現在一般的となった D-274のようなグランド・ピアノが製造される以前まで、ピアノの足部は “だいこん足”となっているタイプが主流でした。

グランド・ピアノも多種ありますが、スタインウェイ D-274 は 約500㎏、 ベーゼンドルファー・インペリアル ( Modell 290 / 168 × 290 / 97鍵盤 )は 約570㎏ などと かなり重い楽器ですので、置いてある床と一体化しやすいという問題を潜在的にかかえています。

そこで、先ずは 足部の本体側を太く( 密 )、床に接触する側を細く( 疎 )したり、”節”を組み込んで太さを変化させた設定とすることで、ピアノの振動で床は鳴らすものの、その床の振動が本体側に戻りにくいピアノが盛んに製作されました。

グランド・ピアノに採用された足の数は、スピーカーに敷くインシュレーターの3点支持と似ていると思います。インシュレーター ( insulator )とは、何らかの作用の遮断を目的として用いる絶縁材を意味します。

Piano by “Erard” London, 1802年
Piano by “Erard” Paris, 1818年
Piano by “JEAN-HENRI PAPE” Paris, 1823年頃

■  “Erard” London / “Erard” Paris ピエール・エラール( 1796-1855 )は、創業者セバスチャン・エラールが考案したアクション機構を改良し、現代のグランドピアノの原型となる”ダブル・エスケープメント機構 ( レペティション機構 )”の特許を1821年( ロンドン)、1823年( パリ)で取得しました。

■  1820年ころまでのピアノは 純木製フレームでしたが、棒鋼がピン板と弦プレートにボルトで固定された コンペンセーション・フレームがあらわれ、さらに 1825年頃に開発された 一体成形の鋳鉄フレームの導入が進みます。

Grand Piano by “Pleyel” Paris, 1830年Grand Piano by “Erard” London, 1832年

¹ Grand Piano by “Erard” Paris, 1844年
¹ Grand Piano by “Erard” Paris, 1844年

“The Liszt House” in Weimar / “C. Bechstein Pianofortefabrik” Berlin, 1860年頃   Franz Liszt( 1811-1886 ) / Carl Bechstein( 1826-1900 )



² Grand Piano by “STEINWAY & SONS” North America,1860年
² Grand Piano by “STEINWAY & SONS” North America,1860年Grand Piano by “BLÜTHNER”  Leipzig, 1870年頃Grand Piano by “Maison Erard” Paris, 1891年Grand Piano by “Maison Erard” Paris, 1897年
Grand Piano by “Maison Erard” Paris, 1906年
( Custom-made with the chrysanthemum crest. )
° Grand Piano by “Erard” Paris, 1914年º Grand Piano by “Erard” Paris, 1914年

“Grand piano legs”

³³ “Bösendorfer” Concert Grand – model 280VC ( 奥行280cm / 重さ507kg )  2025年

 

    2.  弦楽器の”ねじり”設定

▶   3.  渦部( Volute )の摩耗加工について

▶    4.  ヘッド部とネック部、響胴の連携設定

▶    5.   渦部( Volute ) とペグボックス部の”境界線”について

▶    6.  ペグ組による機能設定

▶    7.  ペグボックス内側上端部について

▶   8.  ヘッド部と”響き”の因果関係

▶   9.  ヘッド背面の 不連続面設定について

▶  10.「螺鈿紫檀五弦琵琶」の”工具痕跡”が意味することについて

▶  11.  ヘッド下端部の役割について

▶  12.  “Nut”の基本条件

▶  13.  響胴に生じる”回転軸”について

▶  14.  弦楽器が”テンセグリティ構造”であるということ

▶  15.  バスバーについての考察

▶  16.  弦楽器内部の 鍛造鉄釘について