木彫技術においての 優劣の見分け方

私は ”オールド・ヴァイオリン”などの中で 高度な彫刻技術を用いて製作された楽器を目にするたびに 本当に感動します。

しかし彫刻技術をご存じない方が それを知るのは難しいと思いますので、 この投稿では 弦楽器を観察するときに大事な 木彫技術においての優劣を見分けるためのポイントについてお話しさせてください。

まず参考のため2台のヴァイオリン裏板画像をごらんください。

この ヴァイオリンは 1620年頃 ブレシア( Brescia )で マッジーニ( Giovanni Paolo Maggini  1580 – c.1633 )  が   製作したものとされています。

Giovanni Paolo Maggini ( 1580 – c1633 ) Brescia 1620年頃 - A MONO

それから、もう一台は   Antonio Stradivari ( c.1644 – 1737 )が  1703年に製作されたとされているヴァイオリンで ” Alsager “と呼ばれているものです。

Antonio Stradivari violin 1703年 Alsager - B L
私は これらを観察するときに大切なのは 着目点としてなにを観察するかだと思います。

たとえば ヴァイオリンの演奏技術の優劣を判断したければ 音楽の特性から考えて一つの響きを『 音の始まり( 音の入 ) 』と『 音の終わり( 音の出 )』とに 意識的に聞き分ければ、十分に 優劣の判断ができると思います。

私は 上質な演奏は『 音の入 』を完全にコントロールできると達成できる可能性が高いと思っています。しかし、真の意味での音楽的に完成された演奏を達成するためには 『 音の出 』のコントロールが必要になって来ると考えています。

つまり演奏技術においては 演奏者が 『 音の入 』をコントロールするより、『 音の出 』( ” 音の始末”とも言います。)をコントロールするほうが はるかに難しいということを念頭において聴けば演奏技術としての優劣判断はほとんどの皆さんが 判断できると私は信じています。

ただし、これは『音楽的であるか』や、それが『ゆたかな音楽であるか』という観点ではありませんのでご理解のほどをお願いいたします。

さてヴァイオリンや チェロなどの木製品の場合です。
重要なのは 彫刻技術の能力は『くぼみを彫る技術 』に現われるということです。

この観点で上のヴァイオリン裏板画像をながめてみてください。
ヴァイオリンなどの観察のはじめは、『 どこが、どのように窪んでいるか ?』という点に着目し観察することが 見極める基本だと私は思います。

残念ながら ヴァイオリンなどの弦楽器において扁平にみえるものは未熟な人が製作した可能性が高いと 私は思っています。 木彫で使用する道具は考えないでもちいると‥ 出っ張ったところが削れます。これが単純化をまねき全体としてでこぼこが少ない扁平な印象の弦楽器の出現につながります。

5 Antonio Stradivari Schreiber - da Vinci 1712 ( c 1644-1737 )

そもそも弦楽器は あの響きがするように工夫されています。
たとえばこのストラディヴァリウスを用いた共鳴モードで裏板部の動きを観察してみてください。

409hz star0409hz 680hz star0680hz817hz star0817hz1690hz star1690hz

私は 多様な音色をもつヴァイオリンは その構成要素となる『 音の数 』を確保するために、複雑なゆれをするように作られていると考えています。

そのために”オールド・ヴァイオリン”などでは 薄板状に加工しても 立体的形状 によって剛性を高める技術として凹凸が『 木伏技術 』として用いられていると私は推測しています。

剛性 立体的形状 - 1 MONO L
この剛性を高める技術は めだちませんが たとえば 現代でも このコーヒー缶のように 用いられています。

さて、私たちは大量生産に適した 単純化されたフォルムをもつ工業製品にかこまれて生活していますので、ともすると 上に参考例としてあげさせていただいたヴァイオリンの裏板を見て 削りそこねた結果と思う方も多いと思います。

果たして それは事実でしょうか?

私は  ”オールド・ヴァイオリン”などを見る際は ”合目的性”ということを念頭に置き『 どこが、どのように窪んでいるか ?』という視線でそれを観察すると 本当に豊かな世界が見えて来ると信じています。

 

以上、ありがとうございました。

2016-7-21    Joseph Naomi Yokota

振動板について

 

1. 平面振動板

この平面振動についてはモーツァルトと同じ 1756年にドイツでうまれた物理学者 エルンスト・クラドニ( Ernst Chladni  1756年 – 1827年 )さんが 1787年に出版した音響学の著書  ” Entdeckungen ueber die Theorie des Klanges( 音響理論に関する発見 )” で発表した平面の振動を可視化する方法でつくられる “クラドニ図形 ” を意識するだけで十分だと思います。 これは振動している膜や板の上に砂を撒くと振動の” 節 “の部分に砂が集まりパターン( 模様 )が出来上がるものです。ご存じない方は次の動画をごらんください。

私は 弦楽器の響きが倍音特性にたよって説明されているのを耳にすると 少し心配になります。 それが重要なのは言うまでもありませんが ‥ 弦楽器は音色をゆたかにするために複数の波源が生じるように工夫されるなど、いくつかの条件の合わせ技でその響きが生みだされているからです。 私はこれらの技術の端緒は 古の弦楽器製作者の日常のなかにあったと考えています。 そこでその一例として皆さんに 硬貨を落としてしまったシーンをイメージしていただきたいと思います。 最初に百円硬貨でいきましょう。 さて‥ どういう音がするでしょう? そして次に五円硬貨を落としました。これはどうでしょうか? これらの音の差をご存じ無い場合は、恐縮ですが 下の動画を参考にしてください。 https://youtu.be/32QUhJjBsx8 この動画でも分かるように 百円硬貨は震え方の違いによりいくつかの振動モードがその響きを生みだしますが、それは主に”外側のへり”から発生しているようです。 ところが穴があいている五円硬貨は”外側のへり”に加えて “内側のへり”も 音を出しているのでそれぞれの振動モードが生みだす二つの音が同時に聞こえると思います。 私は こんなに単純な形状の違いでも 思った以上に明瞭な響きの差につながっている事実が大切と思っています。 https://youtu.be/_X72on6CSL0 https://youtu.be/6JeyiM0YNo4 https://youtu.be/osFBNLA7woY