「弦楽器製作」カテゴリーアーカイブ

“伝承”が修正されるべき時が来ています。

■  1830年~1850年  英国において 1830年に開設されたマンチェスター・リヴァプール鉄道にはじまる鉄道開設ブームがおこり、1850年までに営業開始した旅客鉄道のイギリス国内総延長は およそ9656km に達しました。

また、アメリカでも 1830年にボルチモア – メリーランド州エリコット間に旅客鉄道が開業し1850年には国内総延長が13,700kmを超え、1869年にはユニオン=パシフィック鉄道の東西路線がつながり最初の大陸横断鉄道が完成したことで国内総延長は79,000kmを超えました。

ドイツにおいては 1835年に最初の鉄道が開業し、1838年にベルリン – ポツダム間、1839年にはライプツィッヒ – ドレスデン間が開通し1840年頃には総延長469kmとなり、1871年には10,000kmを超えました。ロシアでは、1851年にペテルスブルク – モスクワ間が最初の鉄道開業でした。そして1891年にはシベリア鉄道( 9,000km )が着工されました。これは1913年に開業しました。因みに、日本の鉄道開業は 新橋駅 – 横浜駅間で、1872年のことでした。

■  1851年5月1日~10月15日    第1回万国博覧会であるロンドン万国博覧会がハイド・パークで開催されました。会場として建設されたクリスタル・パレスは 長さ約563m、幅約124mの規模で、1850年7月30日に着工され、1851年1月に完成しました。有料入場者数は 141日間で 6,039,000人におよびました。

■  1852年  大統領であったルイ・ナポレオンは 前年にクーデターを起こし、独裁体制である「第二帝政」を確立し、1852年に皇帝ナポレオン三世( Napoléon III 1808-1873 )として即位します。
■  1853年7月8日  ペリー提督の艦隊( 4隻 )が浦賀沖に来航し、次いで1854年には横浜沖に再来航( 9隻 )しました。これにより 1858年に日米修好通商条約が結ばれました。

フランス帝国とサルデーニャ王国の間で締結された「プロンビエールの密約 ( 1858年 )」で、ニースと サヴォイア地域がフランスに引き渡されるまでの地図

Nicolò Paganini( 1782-1840 ) died in Nice on May 27, 1840 :  in the will drawn up in 1837 he had ordered that the instrument be left to his hometown, Genoa, “So that it may be preserved in perpetuity”. The events surrounding the legacy were, however, complex and concluded only on July 14, 1851, with the delivery of the instrument by Baron Achille Paganini( 1825-1895 ), son of the maestro, to the then mayor of Genoa. 

■  1848年~1871年  「1815年のウィーン議定書で ジェノヴァ共和国を併合したトリノを事実上の首都とするサルデーニャ王国」が主導してミラノ、ヴェネツィアに反乱が起こり、イタリア統一運動( リソルジメント )が本格化し、1859年の第2次イタリア独立戦争を経た 1861年に南イタリアに「イタリア王国」が確立され、そのままサルデーニャ王国と合併します。

そして、1866年には ヴェネツィアを併合、その後 1871年に教皇領であったローマを占領し、「サルデーニャ国王 ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世( 1820-1878 / 在位1849-1861 )」が統一イタリアの国王( 在位1861-1878 )として正式にローマを首都として定め、近代国家であるイタリア王国が成立しました。

■  1851年7月14日 パガニーニが演奏に用いていたとされる「グァルネリ・デル・ジェズ」 “イル・カノーネ 1743年”が、ジェノヴァ市に引き渡されました。

■  1857年頃   前所有者が判然としない 1743年製「グァルネリ・デル・ジェズ」ヴァイオリンが 英国に出現しました。そして購入者である John Tiplady Carrodus( 1836–1895 )が リサイタルなどで使用したことで、このヴァイオリンは”キャロダス ( Carrodus )”と呼ばれるようになりました。

Guarneri del Gesù ( Bartolomeo Giuseppe Guarneri 1698-1744 )  Violin, “Carrodus” 1743年

この両者を比較するときは 対をなすコーナー部の面積差と、コーナーブロック端位置( A,B,C,D )でパフリング外側縁に施された”摩耗加工”を見ると 違いが分かりやすいと思います。

J.T. Carrodus( 1836–1895 ) was an English violinist.
He had the advantage of studying between the ages of twelve and eighteen at London and Stuttgart, with Wilhelm Bernhard Molique( 1802-1869 ). On 1853, Sir Michael Costa got him engagements in the leading orchestras. He was a member of the Covent Garden opera orchestra from 1855. He made his debut as a solo player at a concert given on 22 April 1863 by the Musical Society of London.

キャロダスは、ルイ・シュポーア( Louis Spohr 1784-1859 )に学び シュトゥットガルトと ロンドンで活動したベルンハルト・モーリック( 1802-1869 )の生徒でした。

さて、ここからは私の見解で、現在も その証拠集めをしている途中であることをご承知置きください。

私は、パガニーニが演奏に用いていたとされ、現在も ジェノヴァ市に「グァルネリ・デル・ジェズ」 “イル・カノーネ 1743年”として展示されている楽器は、その規格等の特徴から考えて パガニーニが演奏に使用したヴァイオリンでは無いと判断しました。

Guarneri del Gesù ( Bartolomeo Giuseppe Guarneri 1698-1744 )  Violin, “Carrodus” 1743年

また その視点で、現代に残された Guarneri del Gesù のヴァイオリン達を検証した結果、パガニーニ ( Nicolò Paganini 1782-1840 )が イル・カノーネ ( Il Cannone )と呼んでいたヴァイオリンは、1857年頃に Londonに出現した 1743年製ヴァイオリン”Carrodus”である可能性が高いと考えています。

そもそもパガニーニがサルデーニャ王国のニース( Nice )で亡くなった1840年5月27日から、ヴァイオリンがジェノヴァ市に引き渡された1851年7月14日までの『11年間』遺産相続者である息子の Baron Achille Paganini( 1825-1895 )は不可解な行動を取っています。

私は ジェノヴァ市に遺贈された 1851年( 第1回ロンドン万国博覧会の年 )に、パガニーニのイル・カノーネ ( Il Cannone )は、ドイツ、カッセルの宮廷楽長を1822年~1859年の長期間務めるとともに、ヴァイオリニストでもあった ルイ・シュポーアに内密に譲渡されたと推測しています。

Guarneri del Gesù ( Bartolomeo Giuseppe Guarneri 1698-1744 )  Violin, “Carrodus” 1743年

興味深いことに、1851年にシュポーア ( 1784-1859 )は、雇用者であるカッセルの選帝侯が許可しなかった2ヵ月の旅行に出発し、その後 この期間分給与が未払いとなった事を不服とし、訴訟を起こしています。また、この時期に 財産の整理もしてもいるようです。そして、1857年には 腕を骨折したことによりヴァイオリニストとしての活動を終えているのです。

この ルイ・シュポーア( 1784-1859 )らが指導し、1825年に23歳の若さでシュトゥットガルト宮廷楽長兼コンサートマスターとなり、1849~1866年にはロンドンを拠点とし活動したベルンハルト・モーリック( 1802-1869 )の仲介によりイル・カノーネは 1851年の時と同じように、再び内密にキャロダス( 1836–1895 )に譲渡されたものと、私は 考えています。

この説にもとづき、”Guarneri del Gesù “と呼ばれた Bartolomeo Giuseppe Guarneri ( 1698-1744 )が製作したヴァイオリン“Carrodus” 1743年 の所有者名を “Il Cannone”期から時系列で並べるとこのようになります。

Nicolò Paganini ( 1782-1840 )  … 1840年
Baron Achille Paganini( 1825-1895 ) 1840年~1851年

Louis Spohr ( 1784-1859 ) 1851年~1857年頃 

Wilhelm Bernhard Molique( 1802-1869 )

John Tiplady Carrodus ( 1836-1895 ) 1857年頃~1895年
W.E. Hill & Sons 1895年
Major C. E. S. Phillips 1895年~1909年
W.E. Hill & Sons 1909年
Dr. Felix Landau (Berlin) 1909年~1931年
Margaret Abraham 1949年
Ossy Renardy 1955年
Henry Hottinger (New York) 1965年
Rembert Wurlitzer Inc. 1965年
Dr. Ephraim P. Engleman (San Mateo, California) 1976年
David L. Fulton 2003年~2007年
Anonymous 2007年

因みに、この1743年製 “Carrodus” ガルネリウスは、そう呼ばれる以前から 弦楽器製作者の間では重要なヴァイオリンとして扱われていたようです。

私が このガルネリウスを強く意識するようになったのは 有名な “Wurlitzer collection”のヴァイオリンを販売した時でした。

そのヴァイオリンは、パガニーニ( 1782-1840 )が演奏活動を開始する以前の 1791年にクレモナでGiovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 ) が製作したものでしたが、ヘッドが “Carrodus” 1743年の影響を強く受けていたのです。

ここで 私の過去のブログで”加熱痕跡”に関した投稿の抜粋をあげさせていただきます。

私が “加熱痕跡”の読み方について確信を得たのは 15年程前にヨーゼフ・アントニオ・ロッカ( 1807-1865 )が製作した、このヴァイオリンに出会ったからです。

この楽器は 製作されてから まだ150年程しか経っていませんが 表板、裏板ともに肩の位置などにキズ状の加熱痕跡があったり、顎当て部と右肩部にも大胆な加工がしてありました。

私はそれまでもキズ状のものは全て確認するようにしていましたが、”オールド” に入っているその数は『 数えきれない‥』と思うこともしばしばでした。

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   violin
Cremona 1791年 “ex Havemann”  [ Wurlitzer collection 1931 ]
( Photo : Jiyugaoka violin  1998年 )

オールド・バイオリンを目にした時、頭のなかに『 やはり300年くらい前の楽器は、現代まで受け継がれる間にはひどい目に遭ったはずだから‥』という発想をもつと 単純な思い込みに陥るようです。

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   violin
“ex Havemann” ( Bein & Fushi inc. 1981年 )

その私が はじめてオールド・バイオリンのすり減ったりキズ痕だらけの様子に『 あれっ?』と違和感を感じたのは、26年以上前にクレモナ派の実質的な最後の継承者である G.B. チェルーティが製作した このヴァイオリンを扱ったときでした。

このヴァイオリンは モーツァルトが死去した1791年にクレモナで製作されたもので “ex Havemann”のニックネームを持っていて、すでに 1931年には ニューヨークのウーリッツァー商会が出版し公表した有名なウーリッツァー・コレクションに 写真付きで掲載されている名器です。

私が目にした1998年は、この楽器が 1791年に製作されてから 207年ほど経っていたわけですが、私の知っている どの G.B. チェルーティより”キズ痕”が多い上に、それらは人為的につけられた気配が濃厚でした。

なお、このヴァイオリンには 1939年に発行された レンバート・ウーリッツァー社 ( Rembert Wurlitzer Co.、) の写真添付の正式な鑑定書もついていて、その時点での様子をある程度は推測できました。

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   violin
“ex Havemann” ( William Moennig & Son   1958年 )

また、この他にもフィラデルフィアの著名ディーラーだった ウイリアム・メーニック ( William Moennig & Son ) が 1958年に発行したものと、シカゴの Bein & Fushi inc. が 1981年に発行したものも含めて鑑定書はあわせて3通も付いていました。

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   violin
Cremona 1791年 “ex Havemann” ( Rembert Wurlitzer Co. 1939年 )

それで私は このヴァイオリンの”キズ痕”を順に確認してみました。もちろんですが 1998年は製作されてから 207年、1981年は 190年経過を意味し、1958年は 167年で 1939年は 148年、そして 1931年は 140年しか経っていなかった‥  ということを踏まえた上での話です。

.            1998年 ( 207年経過 )                             1981年 ( 190年経過 )

       1958年 ( 167年経過 )                                  1939年 ( 148年経過 )

さすがに 1939年や 1931年の写真では 外周部がだいぶん不鮮明ですが、それでも駒やF字孔周りの加熱痕跡はしっかりと写真に捉えられていました。

では‥ このイタリア、クレモナで1791年に製作されたこのヴァイオリンの「キズ痕」はいつ入ったのか?

ヨーゼフ・アントニオ・ロッカ( 1807-1865 )のヴァイオリンに出会ったのは、私が  G.B. チェルーティ作のヴァイオリンと出会った後で さらに5年程の歳月があり、その間にも多くのオールドやモダンの弦楽器を目にしたことによって”製作時にはじめから入れられていた”という結論を探っていたタイミングでした。( 抜粋終了 )

下に その Guarneri del Gesù ( 1698-1744 ) Violin, “Carrodus” 1743年のヘッド写真と Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 ) Violin, “Wurlitzer collection-Ex Havemann” 1791年 のヘッド写真を並べました。

そして その右にはマントヴァ派の名工 ステファノ・スカランペラの下で製作を学び工房を受け継いだガエタノ・ガッダ ( Gaetano Gadda 1900-1965 )が 1925年頃に製作したヴァイオリン・ヘッドの写真を置きました。

この 1925年頃製作されたヴァイオリンも、私がヴァイオリニストに販売したものですが、初めて目にしたときに『おそらく前者の、どちらかのモデル‥』と推測しました。

弦楽器製作者が このレベルの模倣をした意味は大きいと、私は考えます。

そういう意味でも Guarneri del Gesù Violin, “Carrodus” 1743年は、音楽史にとって重要だと思います。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

それから、もう一つの黒歴史を挙げておきたいと思います。
日頃から 私は “コーナー先端部の非対称性”についての確認をお奨めしています。

なぜなら、オールド・バイオリンやオールド・チェロでは それらの関係性が 響胴の共鳴現象を誘導する”ねじり”の要となっていると思っているからです。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

先ずは、それを見てください。上図で R1L1 、そして R2L2 とした「一対」の要素をもつ裏板コーナー先端部の面積差と、エッジの摩耗加工の様子をならべ、その下には他のヴァイオリンを列挙しました。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

Andrea Amati ( ca.1505–1577 )   Violin,   “Ex Ross”   1570年頃

Gaspar da Saló ( ca.1540-1609 )   Violin,   Brescia   1600年頃

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 )   Violin,  “Lady Jeanne”    1731年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )   Violin,   “Carrodus”   1743年

観察ポイントは、コーナー先端横の狭隘部にいれた左右の赤点の上下位置関係とそこからの垂線( 赤線 )の外側に突き出た幅、そして水平補助線( 黒線 )から突き出た高さから 相対的に小さくされている様子を観察するだけです。

そして 次に、 裏板を俯瞰しながらコーナー先端部を比較するためにヴァイオリンを年代順にならべました。


Andrea Amati ( ca.1505–1577 )  Violin,  “Ex Ross”   1570年頃

多数のオールド弦楽器を観察すると、 R2 コーナー先端部が相対的に小さくされているのが 裏板のトレンドと考えることができます。 ( R1 が最小の場合もそれなりあります。)

Gaspar da Saló ( ca.1540-1609 )  Violin,  Brescia  1600年頃

 

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  “King Charles Ⅸ”  Cremona  1566年頃

Jacob Stainer ( 1617-1683 )  Violin,  Absam ( Tirol )  1655年頃

Giovanni Grancino ( 1637-1709 )  Violin,  Milan 1702年頃

Giuseppe Guarneri ( 1666-1740 )   “filius Andrea”   Violin, 1703年

Carlo Tononi ( ca.1675-1730 )  Violin,    Bologna 1705年

Antonio Stradivari ( 1644-1737 ),  Violin   “Tartini – Lipinski”  Cremona   1715年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )  Violin,  Cremona
“Goldberg-Baron Vitta”  1730年頃

Antonio Stradivari ( 1644-1737 ) Violin,   “Lady Jeanne”  Cremona   1731年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )  Violin,   “Posselt – Philipp”  1732年

 

Andrea Castagneri ( 1696-1747 )  Violin,  Paris 1742年

Camillo Camilli ( ca.1704-1754 )  Violin,  Mantua  1750年頃

Joseph Klotz ( 1743-1829 )  Violin,  Mittenwald  1760年

Tommaso Balestrieri ( ca.1735 – ca.1795 )  Violin,  Mantua  1770年Giuseppe Antonio Rocca ( 1807-1865 )  Violin, Turin
1845-1850 年頃

Giuseppe Antonio Rocca ( 1807-1865 )  Violin,  Turin  1850 年頃

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 )  Violin “Lady Jeanne” 1731年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )   Violin,   “Carrodus”   1743年

 
Antonio Stradivar( ca.1644-1737 )  Violin, 1721年

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) “F-hole placement template” ( G violin / MS No. 117 )

ストラディヴァリのF字孔型紙を観察すると、任意のコンパス針ポイントから設定された半径距離がみとめられ、当然ながら それらの”点”が 一定の応力に対応したものであることが理解できます。

このような”任意の点”を念頭に置き、対をなすコーナー部の面積差や、パフリング外側縁の特定の場所… たとえばコーナーブロック端位置( A,B,C,D )などに施された”摩耗加工”を検証すると製作者の意図が感じられると思います。

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )   Violin,   “Carrodus”   1743年

このようにヴァイオリン型の弦楽器は 黎明期からずっと、響胴のコーナー部の剛性差を工夫することで”ねじり”が俊敏になるように製作され続けました。

■  1855年  Jean-Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 )が “Messiah violin, 1716″を Luigi Tarisio ( 1796-1854 )の遺族から購入したとして、店の ガラスケースに入れ展示をはじめました。

The world’s most valuable violin? The Messiah Stradivarius
0:57 ” 1716 ‥ It is the only as new Stradivarius ‥”

STRADIVARI’S FABLED “MESSIAH” THREE CENTURIES ON: THE MOST CONTROVERSIAL VIOLIN IN HISTORY?上記の事実により、私は このヴァイオリンは 1854年頃に製作されたものと判断しています。

It was donated to the Ashmolean Museum in 1940 by the firm of W.E. Hill & Sons to become a benchmark for future makers.

“Messiah Stradivarius  1716”  Forged Nails and Round head wood screw

“Messiah Stradivarius  1716”  Forged Nails and Round head wood screw

Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin, No.2209
“Ex Hubermann” 1856年

“Round head wood screw” Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin,  No.2209  “Ex Hubermann” 1856年

“Round head wood screw” Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin,  No.2209 ” Ex Hubermann” 1856年

 

“Forged Nails and Round head wood screw” J.B.Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin, No.2209 “Ex Hubermann” 1856年  –  “Messiah Stradivarius 1716”

“Messiah Stradivarius 1716”  Forged Nails and Round head wood screw

因みに 個人的なことで恐縮ですが、私は この音響的判断基準に関して、上左のオールド・バイオリンの “摩耗部”を観察していて 初めてこれらは 製作時のパティーナ加工であると確信しました。

私もその時まで、ヴァイオリンや チェロの表板、裏板のふちは ヨーロッパの街を囲む城壁のように一定の高さを持たせて連続させてあると思っていました。

ところが、実際のオールド・バイオリンなどでは 赤印を入れた位置のように、 摩耗したかのように削ってあったり、別の木片で継ぎがしてあったりすることに この裏板を観察していてやっと思いが至ったのです。

Walter Hunt ( 1796-1859 ) 1849年       U.S . patent number 6281 on April 10, 1849.

ともあれ、”伝承”に誤りが混入したことは残念でしたが、 インターネットで情報が共有できる時代となりましたので 訂正されるのは時間の問題だと 私は予想しています。

 

Joseph Naomi Yokota

Ⅱ.Technically, a violin is an acoustic resonator.  – 厳密にいうと、ヴァイオリンは音響共鳴器です。

How to make a high-performance violin from the Golden Age ( 黄金期の高性能ヴァイオリンの作り方 ) P.2

ヴァイオリンやチェロの響きは、弦からではなく 響胴内部の共鳴から生じています。

ですから それは、共鳴箱と組み合わされた音叉と似通っています。振動する演奏弦と音叉が 駆動部で、響胴と共鳴箱が従動部だからです。

高性能であるヴァイオリンなどを製作することを目指した私は、そこから始め、最終的に 弦楽器は響胴のバランスが「剛体のつり合い」でいう”安定なつり合い”となれば良いことを理解しました。

 

“第 187 回 アメリカ音響学会”
2024年11月18-22日 / 音楽音響 : 論文 1aMU1 より引用

Quoted from 187th Meeting of the Acoustical Society of America
18–22 November 2024 / Musical Acoustics: Paper 1aMU1
Proc. Mtgs. Acoust. 55, 035001 (2024)

Visualization of three-dimensional acoustic radiation of Stradivari and Guarneri violins
4. Acoustic radiation simulation results for “Willmotte” Stradivari.

Visualization of three-dimensional acoustic radiation of Stradivari and Guarneri violins
5. Acoustic radiation simulation results for “Plowden” Guarneri.

 

テンセグリティ構造のイメージ模型

テンセグリティ構造(Tensegrity : Tension(張力)とIntegrity(統合)という言葉を合わせた造語で、圧縮力と張力のつり合いによって構造が安定するシステム。)

Analytical Drawing

 

How to make a high-performance violin from the Golden Age ( 黄金期の高性能ヴァイオリンの作り方 )

R. Paesold Violin ( Model No. 811 ), Bubenreuth  1992. → “Adaptation” November 27, 2024  Tokyo.

16世紀~19世紀に製作されたヴァイオリンやチェロの中には、楽器として高性能であるものが少なからず存在します。

私は、それらを製作技術の視点から検証しました。

その結果、鍛造鉄釘( Forged Iron Nails )の埋め込みが 彼らが到達した最高の音響加工技術であると考えるようになりました。

その実証は自作弦楽器から始め、その効果に確信が持てるようになりましたので、次のステップとして先日のことですが 普及品としてドイツで製作されたバイオリンにも適用してみました。

なお、鍛造鉄釘は当然ですが 特別注文で製作してもらいました。
今回は 30本で ¥35,860- でした。

研磨加工を前提とした規格で発注していますので、右側に置いた入荷状態の鍛造鉄釘を 3本のフォーメーションを考慮しながら ヤスリで 長さ、頭直径、角部太さ、重量を計測しながら、左側のように仕上げます。

そして、これが 今回のドイツ製 バイオリンのために 私が研磨した鍛造鉄釘の規格です。

因みに、今回は ストラディヴァリの “Soil” 1714年の オリジナルネック釘痕の フォーメーションを参考としました。

釘が準備できましたので、実験ノートに原寸大の平面図を書き 微妙な設定を検討をしているところです。

Forged Iron Nails (  鍛造鉄釘 )  埋め込み計画図

鍛造鉄釘を納める穴成型直前の準備が整った状態です。ガイド穴の位置、角度、深さを確かめるためにツマヨウジが刺してあります。

R. Paesold Violin ( Model No. 811 ) 1992、”Adaptation” November 16, 2024  Tokyo.

April 26, 2025 4:58  /  Positioning of forged nails

April 26, 2025 5:04  /  Location of forged nails

Forged iron nails used in this cello
( Three on the left )

Ⅰ.Thoughts on “Forged Iron Nails” ( “鍛造鉄釘”についての考察 )

なお、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器で使用された 鍛造鉄釘の実際例につきましては、下に並べた資料を参考としてください。

“Forged Iron Nails” / Smithsonian Institute;   Cello ( Joannes Baptista Tononi Bologna 1740 )

“Forged Iron Nail Marks” Bergonzi violin, “Kreisler” 1733年

“Forged Iron Nail Marks” Bergonzi violin, “Kreisler” 1733年

“Forged Iron Nail Marks”  Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Cremonese” 1715年

“Forged Iron Nail Marks”  Visualization of inside of Stradivari 1711年

“Forged Iron Nails” Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 )  Tenor viola

“Messiah Stradivarius  1716”  Forged Nails and Round head wood screw

“Messiah Stradivarius  1716”  Forged Nails and Round head wood screw

“Forged Iron Nail Marks” Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Tuscan”  1690年

“Forged Iron Nail Marks” Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Tuscan”  1690年

“Forged Iron Nail Marks” Stradivarius violin  Original Neck,  “Brancaccio – Carl Flesch” 1725年

“Forged Iron Nail Marks” Stradivarius violin  Original Neck,  “Brancaccio – Carl Flesch” 1725年

“Forged Iron Nail Marks” Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Dragonetti” 1700年, Original Neck / 日本音楽財団

“Forged Iron Nail Marks” Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Soil” 1714年

“Forged Iron Nail Marks” Stradivari violin – Neck block

“Forged Iron Nail Marks”  Lady Blunt Stradivarius 1721年

“Forged Iron Nail Marks” Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Sarasate” 1724年

Antonio Stradivari Violin, “Sarasate” 1724年

“Il Cannone”  violin  1743年

“Il Cannone  violin  1743年”  /  weight of 434 grams (including fittings).

“Il Cannone  violin  1743年” / 1937年修理 資料 “Forged Iron Nails”

“Forged Iron Nails” Amati viola

“Iron Nail Marks” Jacob Stainer (1617-1683 ) Violin, Absam 1650年以降

“Iron Nail Marks” Jacob Stainer (1617-1683 ) Violin, Absam 1650年以降

“Iron Nail Mark” Jacob Stainer (1617-1683 ) Violin, Absam.

“Forged Iron Nail Marks”  Santo Serafin( 1699-1776 ) Violin, Venice 1732年

“Forged Iron Nails” Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 ) Violin, “Wurlitzer – Perriere” 1780年

“Forged Iron Nail” Giovanni Baptista Guadagnini ( 1711–1786 ) Violin, “Lachmann – Schwechter” Turin 1776年

“Forged Iron Nail Marks” Guadagnini Violin, “The Lachmann Schwechter” 1776年

“Forged Iron Nail Marks” Hieronymus Amati ( ca.1561-1630 ) Violino piccolo, Cremona 1613年

   

“Forged Iron Nail Marks”  Pietro Giacomo Rogeri,  Violin,  Brescia 1710年

“Forged Iron Nail Marks”  Pietro Giacomo Rogeri,  Violin,  Brescia 1710年

“Iron Nail Mark” Jacob Steininger  Violin, Aschaffenburg 1804年

“Iron Nail Mark” Old German violin

“Forged Iron Nails”  Andrea Guarneri  /  Tenor viola 1664年

“Forged Iron Nails”  Andrea Guarneri  /  Tenor viola 1664年

“Forged Iron Nails” Jacob Stainer Violin,  Absam 1679年

ピエタ慈善院付属音楽院の楽器
“Ospedale della Pietà” ( オスペダーレ・デッラ・ピエタ ) –  Antonio Vivaldi ( 1678-1741 ), 1703-1713.
『 Musical Instruments of the Institute of Pieta of Venice 』Venice – May 14, 1990 / Marco Tiella, Luca Primon

Diagrams of the joints between Body and Neck
No.9  /  Violin – Mathias Hornsteiner  Mittenwald an der Jsar.795. /  Terminus post quem 1709.

Diagrams of the joints between Body and Neck No.8  /  Violin – Petrus Guarnerius Filius Joseph, Anno 1751.

Diagrams of the joints between Body and Neck No.10  /  Violin – Andrea Guarnieri   Cremona,  Anno 1654.

Diagrams of the joints between Body and Neck No.16  /  Viola – Senza etichetta – Terminus post quem 1717.

“Forged Iron Nails” Thomas Balestrieri  Violin, Mantua 1777年

“Forged Iron Nail” An ancient Violin from Mittenwald.

“Forged Iron Nail” Joseph Klotz II ( 1771–1831 ) Violin, Mittenwald 1821年

R. Paesold Violin ( Model No. 811 ), Bubenreuth  1992年、 “Adaptation” November 16, 2024,  Tokyo.

右側3本( 2.5g )が ドイツ製バイオリンに埋め込んだもので、左側3本が 現在 製作している自作チェロのために 規格を決定し削った鍛造鉄釘です。やはり、チェロ用は 最小限としても 3本で6.1gと、それなりの重さとなります。

また 余談ですが、19世紀初頭から 鍛造鉄釘の役割を “木ネジ”に代替させた弦楽器製作者が現れました。

彼らが 改作や修理をした弦楽器の中には『メシア・ストラディヴァリウス』のように、複雑な状況となっているものがあります。

“Wood Screw”  Giovanni Battista Ceruti  Violin, Cremona 1805年

“Round head wood screw” Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin, No.2209 “Ex Hubermann” 1856年

“Round head wood screw” Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin, No.2209 “Ex Hubermann” 1856年

“Round head wood screw” Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin, No.2209 “Ex Hubermann” 1856年

 

“Forged Nails and Round head wood screw” J.B.Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin, No.2209 “Ex Hubermann” 1856年  –  “Messiah Stradivarius 1716”

“Messiah Stradivarius 1716”  Forged Nails and Round head wood screw

“Messiah Stradivarius 1716”  Forged Nails and Round head wood screw

“Wood Screw” Ludovico Rastelli ( 1801-1878 ) Violin, Genoa 1870年

“Wood Screw Mark” Pietro Messori (1870-1952) Violin, Modena 1927年

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Neck Pattern, “Viola da Gamba”  1701.

“Forged Iron Nail”  Henry Jaye, Bass Viol ( 6 strings ), London 1619年

“Forged Iron Neil Marks”  Bass viol, John Pitts 1675年

“Bass viol” Michel Colichon, Paris.  1687年以降

“Forged Iron Nails” Bass Viol ( 6 strings ),  Barak Norman, London 1718年

“Cittern” possibly by Petrus Rautta, England  1579年

Gasparo da Salo( ca.1542 – ca.1609 ), Brescia ca.1560

“Orpharion” Francis Palmer, London 1617年

“Orpharion”  back

“Cittern” Rafaello a Urbino, 1538年頃

“Cittern” Rafaello a Urbino, 1538年頃

“Forged Iron Nails” Smithsonian Insti / Cello ( Joannes Baptista Tononi Bologna 1740 )

“Forged Iron Nail” Mandolin – Castello Sforzesco ( inv No.212 ), 1759年以前

“Forged Iron Nail”  Matheus Buchenberg, Brussels 1570年

“Forged Iron Nail”  Matheus Buchenberg, Brussels 1570年

2024-8-01 16:55 The finished cello top weighs 439g.

Antonio Stradivari (ca.1644-1737 )  Violoncello  “Stauffer / ex Cristiani” 1700年

 

The bass bar is high, like that of Antonio Stradivari’s “Stauffer/ ex Cristiani” cello.

2024-8-01 16:55     The finished cello top weighs 439g.

2024-7-27 18:07     395.3g

2024-7-27 17:45     395.3g

2024-5-04 12:06     1496.2g

 

 

 

2024-8-01  16:55    JIYUGAOKA VIOLIN

『 巾接ぎ( はばはぎ ) 』で製作されたチェロが、教えてくれること。

ヴァイオリンの表板や裏板に見られる『巾接ぎ(はばはぎ)』より、概して チェロのそれは 大胆です。

Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello, Milan “表板6枚接ぎ合わせ”

Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello, Milan 1696年

●1  “Brothers Amati” ( Antonio Amati ca.1540-1607 & Girolamo Amati ca.1561-1630 ) Cello, Cremona 1622年

●1  “Brothers Amati” ( Antonio Amati ca.1540-1607 & Girolamo Amati ca.1561-1630 ) Cello, Cremona 1622年

●2  Andrea Guarneri(1626-1698) Cello, “David Soyer” 1669年

●2  Andrea Guarneri(1626-1698) Cello, “David Soyer” 1669年

●2  Andrea Guarneri(1626-1698) Cello, “David Soyer” 1669年

●2  Andrea Guarneri(1626-1698) Cello, “David Soyer” 1669年

●3  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Cello ( LOB 765 – 369 – 265 – 473 ), “Harrell – Du Pre –  Guttmann” 1673年

●3  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Cello ( LOB 765 – 369 – 265 – 473 ), “Harrell – Du Pre –  Guttmann” 1673年

●3  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Cello ( LOB 765 – 369 – 265 – 473 ), “Harrell – Du Pre –  Guttmann” 1673年

●3  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Cello ( LOB 765 – 369 – 265 – 473 ), “Harrell – Du Pre –  Guttmann” 1673年

●4  Nicolò Amati(1596–1684) Cello, “Herbert” 1677年

●4  Nicolò Amati(1596–1684) Cello, “Herbert” 1677年

●4  Nicolò Amati(1596–1684) Cello, “Herbert” 1677年

●4  Nicolò Amati(1596–1684) Cello, “Herbert” 1677年

●5  Francesco Rugeri ( ca.1645-1695 ) Cello, Cremona  1678年

●5  Francesco Rugeri ( ca.1645-1695 ) Cello, Cremona  1678年

●5  Francesco Rugeri ( ca.1645-1695 ) Cello, Cremona  1678年

●5  Francesco Rugeri ( ca.1645-1695 ) Cello, Cremona  1678年

●6  Girolamo Amati Ⅱ (1649-1740) Cello ( 739mm ) “Ex Bonjour” Cremona 1690年

●6  Girolamo Amati Ⅱ (1649-1740) Cello ( 739mm ) “Ex Bonjour” Cremona 1690年

●6  Girolamo Amati Ⅱ (1649-1740) Cello ( 739mm ) “Ex Bonjour” Cremona 1690年

●6  Girolamo Amati Ⅱ (1649-1740) Cello ( 739mm ) “Ex Bonjour” Cremona 1690年

●7  Giovanni Grancino(1637-1709) Cello ( LOB 703mm )
Milan, 1701年

●7  Giovanni Grancino(1637-1709) Cello ( LOB 703mm )
Milan, 1701年

●7  Giovanni Grancino(1637-1709) Cello ( LOB 703mm )
Milan, 1701年

●7  Giovanni Grancino(1637-1709) Cello ( LOB 703mm )
Milan, 1701年

●8  Giuseppe Guarneri “Filius Andreae” ( 1666-1740 ) Cello,  Cremona  1700年頃

●8  Giuseppe Guarneri “Filius Andreae” ( 1666-1740 ) Cello,  Cremona  1700年頃

●8  Giuseppe Guarneri “Filius Andreae” ( 1666-1740 ) Cello,  Cremona  1700年頃

●8  Giuseppe Guarneri “Filius Andreae” ( 1666-1740 ) Cello,  Cremona  1700年頃

●9  Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello, Milan 1710年頃

●9  Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello, Milan 1710年頃

●9  Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello, Milan 1710年頃

●9  Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello, Milan 1710年頃

 

因みに 下写真は、現在 私が『巾はぎ ( 平はぎ ) 』で製作しているチェロの 表板と 裏板です。

   

オールド・チェロに使用されている木材を観察してみると、チェロ用として幅が足らない材木を使用した様子はほとんどありません。

その点から考えても・・・『巾はぎ』は、”木伏”せとして用いられたと考えるのが妥当だと思います。

Amit Peled (born 1973 – )

Matteo Goffriller(1659–1742) Cello, “Pablo Casals” 1700年頃

しかし、分かっていても・・そのままで使用できるヨーロピアン・スプルースを切り落とすのは、多少 覚悟が必要です。

私の場合も 熟慮の末に、 現在製作しているチェロの『巾はぎ』外側材として、ヴァイオリン用ヨーロピアン・スプルースで 635gの比較的に軽やかで年輪のキャラクターが立っているものを選びました。

   

   

Wolfgang Boettcher(1935-2021)
Cello / Matteo Goffriller(1659–1742) 1722年

私が受注製作しているこのチェロは”オールド”の製作技術を参考にしており、特定ものをコピーしているものではありませんが あえて言えば、表板は ヴォルフガング・ベッチャーさんが使用していた マッテオ・ゴフリラーの 1722年製のイメージに近いかもしれません。

判断したのには いろいろ理由がありますが、このチェロでは 表板は アッパー端、ロワー端の両側、裏板はロワー両端で『 巾はぎ 』を施しました。特に、裏板両端の楓材は 長期間( 50年間程 )寝かせてあった古材を用いています。

   

●1  “Brothers Amati” ( Antonio Amati ca.1540-1607 & Girolamo Amati ca.1561-1630 ) Cello, Cremona 1622年

●2  Andrea Guarneri(1626-1698) Cello, “David Soyer” 1669年

●2  Andrea Guarneri(1626-1698) Cello, “David Soyer” 1669年

●3  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Cello ( LOB 765 – 369 – 265 – 473 ), “Harrell – Du Pre –  Guttmann” 1673年

●3  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Cello ( LOB 765 – 369 – 265 – 473 ), “Harrell – Du Pre –  Guttmann” 1673年

●4  Nicolò Amati(1596–1684) Cello, “Herbert” 1677年

●4  Nicolò Amati(1596–1684) Cello, “Herbert” 1677年

●5  Francesco Rugeri ( ca.1645-1695 ) Cello, Cremona  1678年

●5  Francesco Rugeri ( ca.1645-1695 ) Cello, Cremona  1678年

●6  Girolamo Amati Ⅱ (1649-1740) Cello ( 739mm ) “Ex Bonjour” Cremona 1690年

●6  Girolamo Amati Ⅱ (1649-1740) Cello ( 739mm ) “Ex Bonjour” Cremona 1690年

●7  Giovanni Grancino(1637-1709) Cello ( LOB 703mm )
Milan, 1701年

●7  Giovanni Grancino(1637-1709) Cello ( LOB 703mm )
Milan, 1701年

●8  Giuseppe Guarneri “Filius Andreae” ( 1666-1740 ) Cello,  Cremona  1700年頃

●8  Giuseppe Guarneri “Filius Andreae” ( 1666-1740 ) Cello,  Cremona  1700年頃

●9  Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello, Milan 1710年頃

●9  Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello, Milan 1710年頃

 

●   ヴァイオリンや チェロの、豊かな響きについての考察

ヴァイオリンや チェロの、豊かな響きについての考察

ヴァイオリンや チェロの 豊かな響きについて知りたいと熱心に調べてみても、ルネサンス以前は弦楽器に関する直接的な資料は 楽器以外ではほとんど残っていません。

たとえば 13世紀では カスティーリャ王国の アルフォンソ10世の宮廷で出版された頌歌集に、挿絵として何種類かの弦楽器があるのを確認できるくらいにとどまります。

聖母マリアの頌歌集 (Las Cantigas de Santa Maria)1221年~1284年頃

そして、15世紀になると オランダ、ツヴォレ出身で フランス宮廷で活躍したアンリアルノー( HenriArnaut de Zwolle ca.1400 Zwolle–1466 Paris)の「楽器の設計と構造に関する論文集」などが出てきます。

Henri Arnaut de Zwolle(ca.1400, in Zwolle-1466 in Paris)

ただし 残念なことに、この資料は 楽器においての比率に関しては意味深いものですが、それ以外の弦楽器の特質には 踏み込んでいません。

Henri Arnaut de Zwolle(ca.1400, in Zwolle-1466 in Paris)

また、ヴェネツィアの音楽家で器楽に関する重要な論文の著者となった Silvestro di Ganassi dal Fontego(1492-1565)が、1542年に Viola da gambaに関する研究書として出版した”Regola Rubertina”と、1543年刊の”Lettione Seconda”にも、振動比に関して興味深い事柄があらわされています。

Silvestro di Ganassi dal Fontego(1492-1565)

Silvestro di Ganassi dal Fontego(1492-1565)Venice, 1543年頃

しかし、この資料も比率に関しては素晴らしいのですが、弦楽器の具体的特質については ごくわずかな知見が得られるだけです。

結局、現存する楽器を細かく検証する以外に 製作に関しての具体的な知識を得る方法は見いだせませんでした。

そのため、私は弦楽器制作者として、ルネサンス期を中心に ヴァイオリン属だけでなくヴィオールや リュート、マンドリン、ギターなども含めた研究により、いくつかの仮説をたててみました。

ここでは、そのなかでも特に大切と考える『巾はぎ材』の使用について少しお話したいと思います。

●『巾はぎ ( 平はぎ )材』が用いられた弦楽器について

表板、裏板を作るために直径60~70cm以上の原木が必要なチェロだけでなく、小さいので材木が入手しやすいヴァイオリンでも、ロワー・バーツ端や アッパー・バーツ端に別の板を接着した『 巾はぎ( 平はぎ)材』で製作された弦楽器がいくつも残されています。

 

●1  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “Tartini” 1715年

このヴァイオリンは、ヴァイオリン・ソナタ『悪魔のトリル(Devil’s Trill Sonata)』で知られるジュゼッペ・タルティーニ(Giuseppe Tartini1692-1770)が使用したとされるストラディバリウスです。

個人的なことで恐縮ですが、このヴァイオリンのおかげで 私は巾はぎ材』に着目するようになりました。

●2  Andrea Guarneri(1623-1698) Violin, Cremona 1662年

●3  Jacob Stainer(1617-1683) Violin, Absam-Tirol 1665年

●4  Nicolò Amati(1596–1684) Violin, Cremona 1669年

●5  Shop of Amati ( Smithsonian Institution ) Violin 1670年頃

●6  Francesco Rugeri(ca.1645-1695) Violin, Cremona 1675年頃

●7  Francesco Rugeri(ca.1645-1695) Violin, Cremona 1680年頃

●8  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “Ex Stephens – Verdehr” 1690年

●9  Antonio Casini(1630-1690) Violin, Modena 1690年頃

さて、このヴァイオリン裏板は『巾はぎ 材』ではなく、楓材の一枚板です。でも 何もしていない訳ではありません。

なんと・・・8枚組の『巾はぎ』で作られた表板を支えています。

●9  Antonio Casini(1630-1690) Violin, Modena 1690年頃 

●10  Francesco Rugeri(ca.1645-1695) Violin, “anno 1672” 1690年頃

●11  Girolamo Amati II(1649-1740) Violin, Cremona 1693年

そして、フェラーラのAlessandro Mezzadri (fl.1690-1740)は 裏板を4枚接ぎで作りました。

●12  Alessandro Mezzadri ( fl.1690-1740) Violin, Ferrara 1697年

●13  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “Thoulow” 1698年

●14  Giovanni Grancino(1637-1709) Violin, Milan 1702年頃

●15  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, Cremona 1705年頃

●16  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “La Cathédrale” Cremona 1707年

●17  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “Stella” 1707年

●18  Girolamo Amati II (1649-1740) Violin, Cremona 1710年

●19  Vincenzo Ruggeri(1663-1719) Violin, Cremona 1710年頃

●20  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “De Barrou – Joachim” 1715年

●1  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “Tartini” 1715年

●21  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “Smith” 1727年

そして、ストラディヴァリウスの 裏板5枚接ぎがあります。

●22  “Guarneri del Gesù” Bartolomeo Giuseppe Guarneri(1698-1745) Violin, “Ex Zukerman” 1730年頃

●23  Camillo Camilli(ca.1704-1754) Violin, Mantova 1735年頃

●24  “Guarneri del Gesù” Bartolomeo Giuseppe Guarneri(1698-1744) Violin, Cremona 1737年

 

●25  Carlo Bergonzi(1683-1747 ) Violin, “Appleby” 1742年頃

●26  “Guarneri del Gesù” Bartolomeo Giuseppe Guarneri(1698-1744) Violin, “de Bériot”  1744年

●27  Camillo Camilli(ca.1704-1754) Violin, Mantua 1750年頃

●28  Lorenzo Storioni(1744-1816) Violin, Cremona 1769年頃

●29  Tommaso Balestrieri(ca.1735-ca.1795) Violin, Mantua 1770年

●30  Giovanni Baptista Guadagnini(1711–1786) Violin, “Kochanski” Turin 1774年頃

●31  Interesting 18th century violin

●32  Giovanni Battista Ceruti(1755-1817) Violin, Cremona “Ex Havemann” 1791年   BOL 355mm-163mm-113mm-208mm / “Wurlitzer collection” (1931年)

このように 接ぎ材の大きさは色々ありますが、ヴァイオリンの裏板を多数観察すると、ロワー・バーツ端やアッパー・バーツ端に別の木材が接着されたものはいくつも確認できます。

また、『巾接ぎ』は 表板でも同様にみられます。

Carlo Bergonzi(1683-1747) Violin, “Appleby” 1742年頃

Andreas Ferdinand Mayr(1693-1764) Violin, Salzburg 1750年頃

Tommaso Carcassi( worked 1747-1789) Violin, “EX STEINBERG” Firenze 1757年頃

Giovanni Battista Ceruti(1755-1817) Violin, “Ex Havemann” 1791年

これらを観察すると、『巾はぎ』で製作されたヴァイオリンや チェロは 表板と裏板が『対』として考えられていることが見えてきます。

Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “Lipinski-Tartini” 1715年

Carlo Bergonzi(1683-1747) Violin, “Appleby” 1742年頃

Giovanni Battista Ceruti(1755-1817) Violin, “Ex Havemann” 1791年

私は、『巾はぎ』で製作された弦楽器は、そうでないものと比べて より音響的にこだわって製作されたと考えています。

なぜなら、1300年ほど前に製作された 五弦琵琶の最高傑作とされる「螺鈿紫檀五弦琵琶」( 響胴の幅 30.9cm )まで『巾はぎ材』の使用は容易に遡れるなど、多くの弦楽器でそれを見ることができるからです。

「螺鈿紫檀五弦琵琶」700年~750年頃(全長108.1cm、最大幅30.9cm )

●「螺鈿紫檀五弦琵琶」の “工具痕跡” が 意味することについて

“Vihuela de arco” ( around the mid-16th century ) The collection of the Encarnación Monastery in Ávila.

1500年代中頃の製作とされる、スペイン、アビラの修道院にある “Vihuela de arco” の表板は 5枚接ぎのようです。

Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Guitar, 1679年 & 1680年

これは、ストラディヴァリが製作した有名なギターですが、どちらの裏板も 4枚接ぎで製作されています。

   Mandolin, Antonio Stradivari(ca.1644-1737) 1700年~1710年

そして、彼は その後にマンドリンも作りました。

Andrea Guarneri(1626-1698) Viola, “Josefowitz” 1690年頃

Andrea Guarneri(1626-1698) Viola, “Primrose” 1697年

Matthias Albani(1621-1673) Viola( 436mm )

Giovanni Francesco Leonpori( The work of a little-known 18th-century maker ) Viola, Rome 1762年頃

また、『巾接ぎ』で製作されたビオラは、どれも知る人ぞ知る・・・ といった名器です。

“Brothers Amati”( Antonio Amati ca.1540-1607 & Girolamo Amati ca.1561-1630 ) Cello, Cremona 1622年

Steven Isserlis

そして、チェロの『巾接ぎ』は 弦楽器製作者にとって、ある意味で頼りがいのある加工技術だったようです。

Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Cello, “Marquis de Corberon” 1726年

Matteo Goffriller(1659–1742) Cello, Venice 1710年頃 ( Paris, “COLLECTIONS DU MUSÉE” )

Matteo Goffriller(1659–1742) Cello, Venice 1710年頃 ( Paris, “COLLECTIONS DU MUSÉE” )

https://fb.watch/ihSOpziGjq/

●21  Antonio Stradivari(ca.1644-1737) Violin, “Smith” 1727年

『巾接ぎ材』が使用された理由を「材木幅が狭くてたらなかった。」と説明をされる方がいますが、チェロや ギターのような幅の広い弦楽器だけでなく、わずか20cm~21cm位しかないヴァイオリンでも、ダブルで幅接ぎをしてあるものがあり、その最外部の木理を観察してみると、後世の修復による可能性がほとんど無いという状況証拠は重要だと思います。

このように考察した結論として、私は ヴァイオリンや チェロの『巾はぎ』は、豊かな響きを生み出すための“木伏”として用いられたと判断しました。

もっと言えば、『巾はぎ材』で製作された弦楽器は、その境地まで達した人間の豊かさを象徴しているように 私には思えます。

実に、すばらしい事ではないでしょうか。

 

●  『 巾接ぎ( はばはぎ ) 』で製作されたチェロが、教えてくれること。

 

2022-2-07       Joseph Naomi Yokota