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● モダン弓の製作方法が “簡略化”された時期と、その後について
1. 響胴の共鳴振動について
● 目視できる共鳴現象
弦楽器の特質を考えるときには、まずは 弦が “ゆるむ” ことで波のような “運動”をし、それが進行波、反射波となり振動するということが 基礎条件として思い浮かびます。
ですが、ヴァイオリンや チェロなどの弦楽器においては 共鳴音( レゾナンス )こそが “歌声”そのものである。と認識する必要があると 私は思います。
シンバルの”縁”の弛みかたは 直感的な理解を助けてくれます。
● 開口部が “弛む”ことで生じる現象
Singing Bowl ( 音を出す器 )と Stick( 棒 )
シンギングボウルは、スティックを用い、縁を叩いたりこすったりすることで共鳴現象によって独特の響きを生じさせます。
Singing bowl with water filmed and recorded in Slow motion.
また、シンギングボウルに水が入っていると 吹きあがるように飛び散る様子が観察できます。
最初にスティックで叩いた音よりも、擦られて縁の”ゆるみ”が大きくなることで音量は増していきます。

“固定端”の振動モード
“自由端”の振動モード
マリンバの音板は 2本の吊りひもで 空中に浮かんでいます。




マリンバは 振動するときに、音板を吊り下げる紐が 重要な役割を果たしますが、ヴァイオリンやチェロなどの場合は “¹ 胴長の1/3となるアッパー矩形( くけい )部上辺”と “² ロワーコーナー部より少し下( 胴長1/3 )”に位置する水平方向の直交線が、表板がゆるむ際には 大切な役割を担います。

そこで 最初の問いかけは、固定端や自由端という条件から考察して、ヴァイオリンやチェロの演奏弦端を どのように判断すればよいかということです。

私は それらの”響き”は、駆動部であるナット端と駒に挟まれた領域( 演奏弦 )と対をなし、演奏弦と弓状に並列する 従動部が、”固定端”や”自由端”ではなく “自由端的” に振る舞うことによって生じていると思っています。



思い出してください。駆動部である弦の振動には下記の特徴があります。
● P波 = 一次波( Primary wave : プライマリー波 )
速度が速く、最初に到達し、縦波であり、波の進行方向に縮んだり( 圧縮 ) 伸びたり( 膨張 )する動きをします。これは 固体、液体、気体のすべてを伝わります。
● S波 = 二次波( Secondary Wave : セカンダリー波 )
速度が遅く、P波の後に到達し、横波であり、物質を上下に揺らす動きをします。基本的には固体のみに伝わります。
つまり、ヴァイオリンなどの弦楽器は、一次波である”縦波”の圧縮、膨張によって響胴の”変換点”にあたるゾーンが弛み、それに二次波が”協同”することによってレスポンスやキャリング力がある響きを発生させていると思われます。
私はこれらの緩みを生みだす仕組み、つまり“ねじりという運動”を “自由端的”と捉えています。



なお、ここでいう高性能弦楽器( High performance stringed instruments )とは ピリオド( period )状態でなく、ヴァイオリンが誕生した1550年頃から1890年頃まで続けられた改良を反映したものを指します。
具体的に表現すれば、レゾナンスにキャリング力があり 演奏者のインスピレーションを助ける素早いレスポンス性能も兼ね備えた弦楽器です。


そこで まず、 振動を目視できるチェロの表板で、共鳴部のひとつ( +位置 )が “弛んでいる”ことを確認してください。


参考とするのは 下のリンク動画で『 0:41』の位置から『 1:24 』までの部分です。( なお Facebook動画下部右メニューの”設定”で画質を360P→720Pに変更すると見分けやすいと思います。)
www.facebook.com/CellistAmitPeled/videos/498893131566443


私は 表板のこのような現象が、大切と考えています。

● 重要 このGIF動画のヴァイオリンで ネック・ブロック部をしばらく観察してください。X-rayである関係で 左右反転していますが、回転運動を反復していることがわかります。
また、このような表板の”弛み”は、響胴部がネック部を介して対をなすヘッド部と連動して それぞれの部材が”ねじり”つまり回転運動をおこすことによって誘導されていると、私は 理解してます。

響胴は箱状のものですから、ルービックキューブで言えば X軸、Y軸、Z軸により対とされる”それぞれの面にある中央ブロック”のふるまいと同じように、響胴でも 対をなす6面の中央あたりに位置する3本の軸上で回転運動を反復しているといったイメージです。


これは、チェロやヴァイオリンのニスに入ったひび割れで確認できます。因みに‥ 私がこのように考えるようになったのは 2003年9月29日の16:45頃からとなります。
それは、長女が使っていた 1/2サイズのヴァイオリンを 7歳の次女が使いたいと言い張ったので、その準備として 弦などの交換を検討するために 工房の入り口に立ってこのヴァイオリンをチェックしている時のことでした。
風もなく空が晴れわたったおだやかな夕方で 私が立っている工房の入り口には まだ日差しがさしこんでいました。

そのとき、ニスのひび割れが キラッ ! と蜘蛛の糸のように光ったのが目にとまりました。はじめは『 なるほど、分数ヴァイオリンでもフルサイズとおなじ入り方をするんだ。』と思いながら観察していたのですが、私が記憶していた他の事例と驚くほど合致していることが分かりました。
私はこのとき 戸惑いながらも楽器の角度を変えたりしながら観察して、頭に浮かんだ 響胴の振動モードに誤りがないかを検討してみました。
その最中のことです。 私が表板側と側板に気をとられてよくみていなかった 裏板がレイヤー映像のように頭のなかに浮かんだのです。『 表板がこう振動して側板はブロックによって こう動き‥ということは裏板のここら辺りにこういう形状のニスひびが‥』と 独り言をいいながら 裏板を見るために ヴァイオリンをひっくり返しました。
いまでも その瞬間をときどき思い出します。
とにかく感動しました。 私が予測したとおりの形状の小さなニスひび割れが 裏板の推定した位置に 入っていたのです。
下の図は その1/2ヴァイオリンのニスひび( 表板側 )を 2005年になって 私のノートに記録したものです。
この時、私がはじめに気がついたのは下幅広部に真横に入っているニスひびが テールピースの下で繋がっておらず 魚のウロコ状のニスひびとなっている事でした。
それで私は このニスひび a. は、エンドブロックの端付近( 高音側 )の点から ゆれがはじまる”ねじり”によるものと判断したのです。その証拠に反対側のネックブロック部をみると左回転のねじりによるニスひびがはいっています。
また、“¹ 胴長の1/3となるアッパー矩形( くけい )部上辺”で右上がり斜めの線状で見てとれる空白域と、 “² ロワーコーナー部より少し下( 胴長1/3 )”に位置する水平方向に直交する空白域“は、このラインが “折れ目”としての役割をはたしていた痕跡だと思われます。
そしてロワー1/3ライン右側から³ 斜めに左下がりで線状をなす空白域も重要です。
このように ニスに刻まれたひび割れは、弦楽器の”ねじり”に関する 決定的な状況証拠といえるのではないでしょうか。


“Varnish crack” Cello, 1970年製 / 2006年撮影


それから、他にチェロの実例をあげたいと思います。
私はこの”X状”のニスひび割れは響胴が左右にねじりを繰り返しながら揺れたことで生じ、その 回転中心には X軸が位置していると思っています。





また、ネック接続部の側面だけでなく、C字部コーナー側面にも同じような”X状”のニスひび割れパターンが確認できたりします。これは、Z軸と想定できます。


“Varnish crack” Cello, 1970年製 / 2006年撮影



このように”X状”のニスひび割れから、響胴が”ねじり”を反復しながら揺れたことと、対をなす面の中央付近に”軸”があると考え、6面が相互に関係するイメージとして整理すると 響胴における”ゆるみ”のメカニズムは理解できると思います。
Baroque neck block. It is asymmetric. it’s beautiful!



April 16, 2024 11:48
なお、“自由端的” という概念は定型化し難いので、念のために 弦楽器においての経験則としてお話ししておきたいと思います。



Andrea Amati ( ca.1505–1577 ) Violin, “Charles IX” 1564年
たとえば、オールド・ヴァイオリンでは 駆動部 ( 演奏弦領域 )の上端となるナット( Nut )が、黒檀でなく 象牙を用いて製作されたものがあります。

私も それを検証してみました。
なお、象牙は木材と同じように縞目があります。これは外側ほど粗く、中心部に近づくほど細かくなり、材質的にも中心部に近いほど緻密で上質です。
ですから ナット材とした印鑑用の象牙は、象牙の外側に近い「表皮層」とよばれる部分から採られた印材と「中心層」とよばれる部分から採られた印材とに区別されおり、下のヴァイオリンでは高価な「中心層」材を用いました。 
November 20, 2013
そして 予想したように、ナット( Nut )材に 黒檀でなく象牙を用いると、弦の”しなやか”な振る舞いが増して響きは良くなりました。


これは、ヴァイオリンや チェロのナットにある溝に、弦の滑りを良くするために 鉛筆( 5B )やローソクを塗ることでも体験できます。
なお、ナット溝のメンテナンスとしては鉛筆が一般的ですが、蜜蝋入りロウソクの方が より効果が大きいようです。
私は「山田念珠堂 / 蜜蝋入りローソク あさみどり3号」を使用しています。

試すときは、まず 弦楽器の響を 4本とも確認します。
それから、ヴァイオリンやチェロのナットにある 4本の弦溝のうち 4番線( 一番左側 )の溝だけ 弦の滑りを良くするためにローソクを塗り その後また調弦します。
そして、もう一度 響を確認してください。すると‥ ローソクを塗った4番線だけでなく他の3本も含めて 鳴り方が改善しているのが分かります。
これは4本のうち1本のナット溝だけ塗ったことで ヘッド部の”ねじり”が大きくなり、それが響胴の共鳴に影響したためと考えられます。

この後で 他の弦のナット溝にも1本づつローソクを塗って確認すれば、よりヘッド部のゆれ方に関しての条件が理解していただけると思います。
Gioffredo Cappa ( 1644-1717 ) Cello, “Jean-Guihen Queyras” Saluzzo 1696年頃
ジャン=ギアン・ケラス( Jean-Guihen Queyras, 1967- )さんが使用しているチェロのナット溝にも鉛筆が塗ってあるようです。

Gioffredo Cappa ( 1644-1717 ) Cello, “Jean-Guihen Queyras” Saluzzo 1696年頃

なお、この実験は弦の状況でも結果にある程度の差が生れます。
例えば、上写真のチェロに張ってあるスピロコアーC線のように芯弦のケーブル 注)1 の上を ナイロンの中間材でさや状に包み、その外側に銅色の丸い金属線が巻いてあり( ラウンドワウンド )、それにまた 白銅色の丸い金属線が巻きつけてあり、最後に平たいベルト状の白みがかった金属が巻き付けてあるフラットワウンド弦で、ある期間使用し‥ 少ししなやかさが失われかけたものは、劇的に改善がみられるようです。
注)1
写真では解いていませんが この弦は 中央に2本のピアノ線がねじって糸状にされ、それを包むように6本のピアノ線が強く編み込まれて合計8本で線状ケーブルになっています。つまり、このスピロコアーのC線は 中間材のナイロン部を一つとして数えると12本の線材などで作られています。
私の経験では、ヴァイオリンやチェロで一般に使用されている弦はフラットワウンド弦が多いので 、張ってから時間が経つと内部のずれなどの影響で一番外側の平らなベルト状金属に隙間ができてしまい、駒の弦溝やナットの弦溝部でのすべりが悪くなっていることが 多いようです。

過去の広告ですが、トマスティーク社のドミナント弦の広告で、伝統的な手作業でフラットワンド加工をしている写真が貼られていました。

“BASS VIOL Neck and Head” Late 17th century – early 18th century, Paris.
それから、ネックと”ナット接着部”の面積も 弦楽器の響きに大きな影響をあたえています。
なお、指板端との接着面積も同様ですが これは指板条件の項目で触れることにいたします。

The Tartini’s Violin Nut ( Ebony / Probably about 4mm thickness ).
先ずは、トリエステの音楽院に収蔵されている タルティーニさんが使用したストラディヴァリウスから外された 厚さ 4mm程のヴァイオリン・ナットから、ヘッド接続部の面積を想像してみてください。
4 × 23.0 = 92
私が調べた限りでいえば、現在の弦楽器製作学校などのテキストにあるヴァイオリン・ナットの厚さ”6mm”は、1929年から始まった”世界恐慌”や”世界大戦”に起因した混乱期に有名楽器商の工房で 用いられはじめ、1945年以降である「 戦後 」に結果として普及してしまったもののようです。
6 × 24.0 = 144 ( 56.5%増し )
たとえば、日本での時代区分である”昭和”は 1926年12月25日~1989年1月7日の期間ですが、それより前の1890年( 明治23 )に量産を開始し、1930年に鈴木バイオリン製造株式会社と改組 、1935年には大府工場を設け規模拡大した “Suzuki Violin Co., Ltd.” が海外輸出向けとして1930年頃 名古屋で製作したバイオリンが手元にありますが、ナットの厚さは 4.0mm、幅 21.0mmです。
4 × 21.0 = 84

7.0 × 45 = 315
11 × 45 = 495 ( 57%増し )
また、同じように 今日 製作されているチェロ・ナットの厚さは10mm~11mmとなっていますが、ヴァイオリンと同じように薄かったという状況証拠は、まだそれなりの台数が遺されています。

Antonio Stradivari (ca.1644-1737 ) Cello, “Ex Cristiani” 1700年

因みに、パリの楽器博物館に収蔵されている マッテオ・ゴフリラが製作したとされるチェロに取り付けられた 厚さが 7.2~7.5mm のナットが、私に最初の気づきをもたらしました。

Matteo Goffriller (1659–1742) Cello, Venice 1710年頃 , Collections of the Music Museum – Philharmonie de Paris.
Goffriller’s cello nut thickness seems to be 7.2~7.5 mm.

Division Viol ( Body length 647mm ) , “School of Tielke” 1720年頃
Giovanni Francesco Pressenda( 1777-1854 ) Cello, Torino 1828年~1830年頃
Giovanni Francesco Pressenda( 1777-1854 ) Cello, Torino 1828年~1830年頃
Just Derazey( 1839-1890 ) Cello, Mirecourt 1875年頃
Nut 7.1 × 43.5 = 308.85
フランスで製作された このチェロは 7年程前に日本に輸入され、2026年1月5日に私が販売しましたが、製作時である1875年頃のネックがそのままで保存されていました。
入荷した際に、取り付けられていたナットが 厚さ 7.1mmで幅 43.5mmであったことに大喜びしました。
Francesco Guadagnini ( 1863-1948 ) Cello, Turin 1888年
Francesco Guadagnini ( 1863-1948 ) Cello, Turin 1888年
Annibale Fagnola ( 1865-1939 ) Cello, Turin 1904年
そして 私が知る限りでは、トリノ派として名を残した ファニョーラさんが 1904年に製作した チェロの 厚さ 5.5mm というナットが最も薄い事例となります。
Annibale Fagnola ( 1865-1939 ) Cello, Turin 1904年
彼の探究心を 私はリスペクトします。

Alessandro Gagliano (1640–1730) Cello, Napoli 1724年

Alessandro Gagliano (1640–1730) Cello, Napoli 1724年
February 20, 2026 12:55
Francesco Bissolotti Cello (757mm) Cremona, 1991年





Antonio Stradivari( ca.1644-1737 ) Violin, “Sunrise” 1677年
Andrea Amati ( ca.1505–1577 ) Violin, “Charles IX” 1564年頃 Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Cremonese” 1715年


Johann Ulrich Eberle ( 1699-1768 ) Violin, Prag 1750年
Gabriel David Buchstetter ( ca.1752-1771 ) Violin, Stadtamhof bei Regensburg 1769年
Johann Friedrich Reichardt ( 1752-1814 ) Violin, IAR 1787年
Johann Friedrich Reichardt ( 1752-1814 ) Violin, IAR 1787年
Carolus Helmer ( 1739- ca.1811 ) Violin, Prag 1797年
Joachim Tielke (1641-1719) Violin, 1685年頃
Joachim Tielke (1641-1719) Violin, 1685年頃
Johann Ulrich Eberle ( 1699-1768 ) Violin, Prag 1763年

“VIOLIN TENOR” Total length 885mm / 18th century
Viola head
Cello with a lion’s head
Pieter Rombouts Cello, 1720年頃

Antonio Stradivari( ca.1644-1737 ) Violoncello, 1707年

Gennaro Gagliano ( ca.1740-ca.1780 ) Cello, Naples 1765年頃

The double bass he used in 1799.
Gennaro Gagliano Double Bass, “Ex-Dragonetti” Naples, 1764年頃
Dragonetti stopped by at Beethoven’s house in Vienna in 1799 and used this very same instrument to perform Beethoven’s most recently published cello sonata – the Sonata Op.5, No2 with Beethoven accompanying him on the piano.
“ねじり”に関して優れた特性をもつ梯子状ペグボックス弦楽器のなかには、下のヴァイオリンや チェロのように”オープン・ペグボックス”で作られたのに、現代に至るまでのどこかの時点で 塞がれてしまった事例もあります。
18th century Italian violin


“Retrofit floor”


“Retrofit floor”
以前、東京都交響楽団の首席奏者が使用していた このチェロは、ご覧の通り、ハッキリとした非対称ヘッドのすばらしいチェロです。

なお、この “オープン・ペグボックス”の歴史は 紀元前までさかのぼれます。日本の中で例をあげれば、東大寺 正倉院の収蔵品で 1280年程前に製作された「 螺鈿紫檀五弦琵琶 」がそうです。


「 螺鈿紫檀五弦琵琶 」 700年 ~ 750年頃 ( 全長108.1cm、最大幅30.9cm )
螺鈿紫檀五弦琵琶は 奈良時代 ( 710年-794年 )に 多治比広成 ( たじひ の ひろなり : 大使 ) と、中臣名代 ( なかとみ の なしろ : 副使 ) が遣唐使として派遣された際に奈良にもたらされたと考えられます。
そのころ 唐は 玄宗皇帝の治世‥ 後に「 開元の治」と呼ばれる繁栄の時代で、このような状況から考えると、この螺鈿紫檀五弦琵琶は 長安か 洛陽あたりで製作されたのではないかと 私には思われます。

この「 螺鈿紫檀五弦琵琶 」の弦楽器としての特質は 、”ねじり”を素早く生じさせるための 徹底した非対称性にあると思います。

「 螺鈿紫檀五弦琵琶 」 700年~750年頃 ( 全長108.1cm、最大幅30.9cm )


この琵琶は、頸 ( けい = Neck ) から絃蔵を経て修復部も含めた海老尾までの全てが紫檀で作られており、裏板にあたる槽 ( そう ) も「直甲」といわれる一木の紫檀材だそうです。
また、表板である腹板 ( ふくばん )は ヤチダモ またはシオジ材が用いられ 非対称の「三枚接ぎ」で製作されています。そして、このような 非対称性は 螺鈿の形状や配置などにも 見ることができます。

そして念を入れるように‥ 紫檀材で製作された 転手 ( 絃巻き = ペグ ) の配置も 海老尾の方から 左( P3 )・左( P4 )・右( P2 )・左( P5 )・右( P1 )の順で 強い非対称設定です。
“Mandora” 1420年頃 / L 360 W 96 D 80 ( 83 ) / Wt.255g

CISTRE GUITERNE / 16th century, France.






“Viola d’Amore” Tomaso Eberle, 1750年頃

“Viola d’Amore” Tomaso Eberle, 1750年頃
エ
● 太鼓などにみられる共鳴音を豊かにする工夫

“小鼓”は、2枚の馬革と、桜の木をくぬいた胴を、調緒(しらべお)と呼ばれる麻紐で緩く組んだ楽器です。
左手で持って右肩の上に構え、右手で打ちます。
“大鼓”に比べて音は柔らかく、調緒を緩めたり締めたりすることで数種類の音色を打ち分けるほか、調子紙(ちょうしがみ)と呼ばれる和紙の小片を裏革に付けて振動をととのえ、革に息をかけて湿気を保つなどして、音色を調節します。”大鼓”とともに、ひとつの曲が進行するのを司る要の役割を演じます。
ところで、”ねじり”などによって響胴を変形させ、共鳴音を豊かにするという仕組みに着目すると、世界各地でその知見があったことを理解することができ、興味深く感じられます。


たとえば、インドが起源とされ、中国を経て雅楽の楽器として日本に伝わり、室町時代( 1336-1573年)に大成した「能楽」に用いられる”小鼓(こつづみ)”があります。
外見上の静かな佇まいと 打って変わって内側は振動を誘導するための彫り込みなどが見られ、ゆたかな響きを追い求めた製作者の息遣いが伝わります。





材木となる”桜”は”旋回木理”といいますが、幹が捻じれていることで知られています。まあ、樹木の幹が捻れているのは”ソメイヨシノ”に限らず、程度の差はあるとはいえ多くの植物種に見られる現象ではあります。しかし響胴材として考えれば、その”ねじり”特性が音色にはたす役割は大きいと思われます。

そして このような彫り込み加工は、ギニア、セネガル、マリ、コートジボワールなどの西アフリカ諸国で かなり昔から受け継がれている、”ジャンベ”と呼ばれる太鼓の、内部に精巧に彫られた螺旋模様とも共通しています。


“ジャンベ”は鼓面の直径が30~35 cm程度、響胴の高さが55~65cm位で下端が開口部となっていて、内部を下からのぞくと 内壁に螺旋状に彫り込みを見ることができます。

響胴には”Djalla”と呼ばれるセンダン科アフリカマホガニー属の木、”Dugura”と呼ばれるマメ科コルディラ属の木、”Gueni”と呼ばれるマメ科のアフリカローズウッド、”Gele”と呼ばれるマメ科ネムノキ亜科の木、”Iroko”と呼ばれるクワ科ミリキア属の高木ミリキア・エクスケルサなどの木が用いられています。これらは、いずれも木理のクセが強い樹種だそうです。
片喰紋蒔絵太鼓胴( かたばみもんまきえたいこどう ) 元禄5年(1692年) / 直径266mm / 高さ145mm / 重さ807g 
響胴内側のこのような特徴は 日本で使用される太鼓にも見ることができます。
たとえば、能楽で用いる打楽器である”太鼓”は、胴、革、調べ緒からなり、木製の台に掛けて2本の撥(ばち)で演奏します。胴は直径26cm程、高さ15cm程で 欅(けやき)や 栴檀(せんだん)で作られ、革は牛革を用い、胴と革は 調べ緒で連結され、きつく締め上げられています。この”太鼓”の内壁にも 個々に程度の差はありますが、螺旋状の彫り込みを見ることができます。

また、日本の”琴”や”三味線”の内側に施される彫り込みも同じ目的で彫られています。”琴”は桐材を加工して製作し、全長は約182cmで幅が約25cm、重さは約5.5kgぐらいです。それから、”三味線”の響胴は 紅木(こうき)、紫檀(シタン)、花梨(かりん)などで製作されています。

● “ねじり”変形による「ゆるみ」と響き
このように楽器を観察すると、響胴内部に”ねじり”を誘導したり振動を複雑化させる工夫を見ることができますが、”機能”として 厚さの差を設定し”ねじり”に反映させている鍵盤楽器の”響板”は より明快だと思います。

“Harpsichord” Soundboard thickness contours” for the 1640b Ar double-manual Harpsichord ( 独:Cembalo / 仏:Clavecin ).
その例として、ベルギー、アントウェルペンで1579年設立のハープシコード工房で有名なルッカース工房の、3代目アンドレアス ( Andreas Ruckers 1579-1645 )が1640年頃に製作したハープシコード響板の厚さ配置図をみてください。この響板は “ねじり”が誘導されているのが分かりやすいと思います。

ハープシコードなどの響板も複雑な”ねじり”変形でゆるみが生じ、それにより共鳴音がします。それは多種類の振動モードに区別できますが、一例としてその4分割振動モードをあげさせていただきます。
このような機能を発揮するために、鍵盤楽器においても 響胴自体のしなやかさが大切な要素となります。
Lute / CHRISTOPH KOCH 1654年
それに対する気配りとして、リュートやマンドリンのような平面響板弦楽器では、表板内側にいれられたバスバー端がサイド側と接触しないように製作されます。

そして、響胴自体に”ねじり”が生じやすくするために スペースを設け、サイド側と接合させないやり方はハープシコードにも見ることができます。


“Mandolin” / Castello Sforzesco ( Milan ) ,inv. No. 212 from 1759.
また、この X-ray画像で 弦方向に直交する関係とされたバスバーなどがそれぞれ適度に傾斜していて”非平行”に取り付けられていることも重要です。
これは ヴァイオリン属も含めた多くの弦楽器が”非対称”で製作された理由を象徴してもいます。これによる響きの豊かさが 「弦楽器的」特徴でもあるからです。

この映像では 箱体部のバランス設定が見えます。なお、横木端には下写真の製作中の横木とおなじようにスペースを設け、側板と接続することで剛性があがりすぎて”ねじり”が阻害されることのないように工夫されています。


上のマンドリン内部のバスバーは小部品ですから多少傾斜していても“非平行”であっても 、一見しただけでは 大きな意味を持っているようには見えません。
それに比べて、ハープシコードの横木には その曖昧さがありませんので、意識的に横木端にスペースが設けられたり”非平行”とされたことが理解できます。
こうすると、響胴はより激しく”ねじり”を生じさせながら振動するからです。そして、それにより 共鳴音が 増加します。

自然現象である振動現象はランダム( 不規則 )であることがその特質につながっています。
ですが、楽器の響胴のように箱状剛体で振動などのエネルギーが伝わっていく現象をモデル化することは難しいようです。
そこで、私はこのように波が進み それが合成されることで共鳴音が生じているイメージに置き換えることにしています。
Visualization of three-dimensional acoustic radiation of Stradivari and Guarneri violins.
そして、”非平行”であるリュートやマンドリンの力木や、ハープシコードの箱体にある横木配置は 平行していない”梁”のようなものとしてこの運動を誘導していると考えることにしています。
ルネサンス期の鍵盤楽器を評して”弦楽器的”ととらえる考え方がありますが、Andreas Ruckers ( 1579-1645 )が 1640年頃に製作したハープシコード響板などは、まさにそれが具現化されていると感じられます。
“第 187 回 アメリカ音響学会”
2024年11月18-22日 / 音楽音響 : 論文 1aMU1 より引用
Quoted from 187th Meeting of the Acoustical Society of America
18–22 November 2024 / Musical Acoustics: Paper 1aMU1
Proc. Mtgs. Acoust. 55, 035001 (2024)
Visualization of three-dimensional acoustic radiation of Stradivari and Guarneri violins
4. Acoustic radiation simulation results for “Willmotte” Stradivari.














Visualization of three-dimensional acoustic radiation of Stradivari and Guarneri violins
5. Acoustic radiation simulation results for “Plowden” Guarneri.














この視線で チェロやヴァイオリンなどを見ると、不連続面を組み合わせた立体的特徴と、表板などの複雑な板厚などに その要素が反映されていることがわかります。
Old Italian Cello, ca.1700
Old Italian Cello, ca.1700. ( 外側から見た景色にするため、左右反転した”鏡像”にしてあります。)
● 青線は厚さ5.0mmで 青色部はそれより厚い部分で、最厚部は5.5mmとなっています。なお、最厚部はこの表板の重心となっており、表板を水平にして ここをペン先で支えると表板は静止しました。
● 赤線は厚さ3.5mmで 赤色部はそれより薄い部分を意味し、最薄部は2.1mmです。

このチェロの場合で見れば 青色部平行四辺形の上下斜線のうち“上斜線”は C “ネックブロック”と、そして“下斜線”は D “エンドブロック”と対となり、はさみこんだ E アッパーバーツとF ロワーバーツ・ゾーンを”折れ線”として その側のゾーンを緩める仕組みになっているようです。
“Thickness” Giovanni Battista Guadagnini Cello, 1757年
表板厚のバランス配置には、後代の仕事で消えてしまったものも多いですが 製作者の意図が残っている場合は、考察するのが楽しめます。
“Thickness” Giovanni Battista Guadagnini Cello, 1743年頃
その視点で、1733年頃製作されたストラディバリウス・ヴァイオリンと 1736年頃のストラディバリウス・ヴァイオリンで 表板の厚さを比較すると、同一の製作者がであっても、後者が”ねじり”を大胆に取り込む改変を試みていることが判ります。
● 青線は厚さ2.8mmで 斜線部はそれより厚い部分です。
● 赤線は厚さ2.3mmで 斜線部はそれより薄い部分です。
Stradivari violin “Thickness ca.1733 ( Soundpost Position – Right side )
● 青線は厚さ2.8mmで 斜線部はそれより厚い部分です。
● 赤線は厚さ2.5mmで 斜線部はそれより薄い部分を意味し、その内側赤塗り部は2.3mm以下を示しています。
Stradivari violin ” Thickness ca.1736 ( Soundpost Position – Right side )
但し 上図は、表板の板厚であって、 共鳴システムとしてそれに”ねじり”を生じさせるために”バスバー”と”魂柱”が加わることで、やっとキャラクターが設定されます。

そしてこれは、応力変形の”痕跡図”となります。

ヴァイオリンやチェロの表板はこのように “ねじり”により変形することは、計測機器の普及もあり 検索すると動画で見ることができる時代となりました。
例示した このモード図で魂柱横の黒線が示すように、魂柱は表板の左右が斜めに”ねじり”を生じながら変形するときの”折れ線”となっています。
● “箱状”で 7つの柱と 2つの開断面があるということ
Old Italian Cello, ca.1700
Nicola Albani Cello, Worked at Mantua and Milan 1753-1776


Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Cello, “de Barjansky” 1690年頃
May 30, 2025 16:06 Joseph Naomi Yokota Cello, Tokyo anno 2025

このように、ヴァイオリンやチェロなどの響胴は、固定式の6個の柱(ブロック)と”ねじり”を誘導するための1つの移動式柱( 魂柱 / Soundpost ) で 合計7個の柱、そしてF字孔とよばれる2つの”開断面”で構成されています。
そして、魂柱の位置( Soundpost Position ) は、「 1700年頃まで製作されたフラット・バック型弦楽器の 裏板中ほどのサウンドポスト・クロスバーが全長の1/2から エンドブロックにより近い位置まで対応できるように“幅広”であった事実が暗示するように 」駒に対応したのでなく裏板によって規定されています。
“Treble viol” Brescia

しかし、サウンドポスト・クロスバーが幅広だと剛性が上がりエネルギー消費が大きいので、1700年頃になると下写真のように魂柱をエンドブロック寄りの狭いゾーンだけに絞った”幅狭型”あるいは“下方設定型”へと移行していきました。
“Sound-post cross bar” 1780年頃


このような 魂柱位置設定の工夫は、先ほど”表板等厚線”で 例示させていただいたストラディヴァリウスの”裏板等厚線”で、魂柱位置を意味していると考えられる1733年頃の最厚部 4.6mmと、1736年頃の最厚部 4.4mmの位置を確認すれば 明解だと思います。
Stradivari violin “Thickness ca.1733 ( Soundpost Position – Right side )
Stradivari violin ” Thickness ca.1736 ( Soundpost Position – Right side )
一人の弦楽器製作者が、ヴァイオリンの魂柱位置を “中点( 上下全長の1/2位置 )設定型”で製作した数年後に、“下方設定型”を製作している意味は深いのではないでしょうか。
Jacob Stainer( ca.1617~ca.1683 ) Bass Tenor Viola da Gamba 1673 年
◎ “中点( 上下全長の1/2位置 )設定型”
◎「 1737署名」”下方設定型”

◎ ヴァイオリンのためのプラン
Antonio Bagatella (1716-1806)、 “ヴァイオリン、ヴィオラ、チェッロ、ヴィオローニ製作技法” Padua、1786年出版

◎ Giovanni Battista Ceruti ( 1756-1817 ) 工房の ヴァイオリン設定
“Sketches from the Ceruti workshop” ( MS 714 )






“Sketches from the Ceruti workshop” ( MS 714 )
また、不連続面で構成されたアーチも”ねじり”を誘導しています。

私は、チェロやヴァイオリンの表板は 5階建ての”ペンデンティブドーム状”の不連続面構成体だと思っています。


Joseph Naomi Yokota Cello, Tokyo anno 2025


Matteo Goffriller ( 1659–1742) Cello, 1722年 “Wolfgang Boettcher ( 1935-2021 )”
Old Italian Cello, ca.1700


“K.S.H Holm” Cello, Copenhagen DENMARK 1791年
“Antonio & Girolamo Amati” Cello Cremona 1622年

Tommaso Carcassi Violin, Firenze 1786年
Tommaso Carcassi Violin, Firenze 1786年 


Andrea Guarneri ( 1623-1698 ) Violin, Cremona 1686年
“Lira da braccio” Francesco Linarol ( 1502-1567 )

“Lira da braccio” Francesco Linarol ( 1502-1567 )
Andrea Amati ( ca.1505–1577 ) Cello, 1572年頃



Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Alsager” 1703年


Old Italian Cello, ca.1700
Old Italian Cello, ca.1700

Andrea Amati ( ca.1505–1577 ) Cello, 1572年頃
また 木伏(きぶせ)といいますが、 このアマティ・チェロのように 4枚( 6枚 )接ぎや、2枚接ぎ裏板でありながら、片側をひっくり返して接合することで 樹木の木理により”ねじり”が強化されたチェロや、ヴァイオリンなどの存在は重要です。
Nicola Albani ( Worked at Mantua and Milan 1753-1776 ) Cello, Milan 1770年頃
Gagliano cello – Amarilis Dueñas



Matteo Goffriller( 1659–1742 ) Cello, Venice 1700年



Matteo Goffriller (1659–1742) Cello “COLLECTIONS DU MUSÉE” Venice, 1710年頃
そして、”倒置型幅はぎ加工”であるだけではなく、キャラクター差を強化し複雑化させた、例えば パリの博物館に収蔵されている4枚( 6枚 )接ぎ合わせ裏板のゴフリラ・チェロや、アマティ兄弟による アッパー・バーツだけ”幅はぎ”されたビオラなどは 見事だと思っています。
“Brothers Amati” Antonio Amati & Girolamo Amati, Viola “EX Curtis” 1616年

Giovanni Battista Ceruti( 1755-1817) Violin, “ex Havemann / Wurlitzer collection” Cremona, 1791年
Giuseppe Guarneri Filius Andreae ( 1666-1740 ) Cello, 1700年頃

Giovanni Grancino ( 1637-1709 ) Cello( Length of back 703mm ), Milan, 1701年
Nicolò Amati ( 1596–1684 ) Cello, “Herbert” 1677年
なお そのような加工は このアマティ・チェロのように、視覚的に違和感がないようにおこなわれたものが多いので 注意深い観察が必要です。



Amati cello


Matteo Goffriller( 1659–1742 ) Cello, 1725年頃
それから、 2枚接ぎの裏板や表板で左右が異なる事例研究は、下記のガルネリ・ヴァイオリン25台で表板左右の”年輪数”と”年輪パターンによる年代推定”を検証したものが知られています。
年輪本数の左右差は63本の 1737年”Stern”が最大で 高音側年輪161本 : 低音側98本とされ、次が43本の 1741年”Kochanski” 高音側77本 : 低音側120本など、ガルネリが2枚接ぎ表板を製作するのに あえて左右違う材木で組み合わせていたという状況証拠となっています。


Andrea Amati ( ca.1505–1577 ) Cello, 1572年頃
最後に このアマティ・チェロと同じような”木伏”で製作された、ストラディバリウス・チェロ “de Barjansky” 1690年頃のCT画像で、反転された木理のようすを観察してみてください。

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violoncello, “de Barjansky” 1690年頃
“木理”の応用で”ねじり”を増加させた反転接合裏板
● サウンド・アジャストの方法
このように響胴に共鳴現象を誘導する工夫は、西欧圏で誕生し普及した ヴァイオリン属でも響板の¹¯¹ 立体的形状や¹¯² 板の厚さ、¹¯³ 2つのF字孔の関係による”ねじり”誘導、固定式柱である²¯¹ 6個のブロック設定、移動式柱である1本の²¯² 魂柱( soundpost )、そして²¯³ 人為的なナイフ痕や不連続凹凸、そして焼いた治具で引っ掻くように入れられた³ 工具痕跡などとして沢山見ることができます。

²¯³ オールド・・ヴァイオリン表板F字孔内側
“Old violin” ca.1650 ( F-stop 182mm / Belly 346-164-107-192 )
³ Nicola Gagliano ( 1675-1763 ) Violin, Napoli 1737年
たとえば、このヴァイオリン裏板外側の”キズ状加工”は、表板を外した状態で仕込んだ内側( 同位置 )のスジ状工具痕跡の効果を、弦を張って 響きを確認したのちに強化するために施されたと考えられます。



³ Nicola Gagliano ( 1675-1763 ) Violin, Napoli 1737年
¹¯¹ Guarneri del Gesù ( 1698-1744 ) Cello, “Messeas” 1731年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 ) Cello, “Messeas” 1731年
Guarneri del Gesù ( 1698-1744 ) Cello, “Messeas” 1731年





それから、ナイフでブロックに切り込みを入れてあるのも 焼き針加工より強いねじりを誘導するための工夫のようです。
“Knife marks” Pressenda Violin 1843年


Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violoncello,”Pawle” Block 1730年頃
このように”ねじり”を誘導する条件として考察すると、弦楽器エンドブロック内側の”逆T字カット”や工具痕跡は、ブロックのねじりを誘導するものだと考えることができるのではないでしょうか。
Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 ) Violin,”Nebel” Turin, 1785年
因みに、オールド弦楽器の側板で この位置の外側にあたるゾーンを確認すると、”WC”などの刻印や”ライン加工”が施されたものが存在します。内側は仕込みで、外側は響きを確認しながらの最終調整の跡と 私は判断しています。
Carlo Bergonzi ( 1683-1747 ) Violin “Cramer-Heath”, Cremona 1732年から1734年頃
“K.S.H. Holm” Cello, Copenhagen DENMARK 1791年
Antonio Stradivari Violin, “Vieuxtemps” 1710年 

また これらの有名なヴァイオリンなどで、アッパー・バーツ( 響胴上部幅広部 )の高音側パフリング外に入れられた”星印”も、焼き針で調整する技法の「強力版」と思われます。







“Stradivari violin front thickness” ca.1733 ( Soundpost Position – Left side )
このような焼いた針などの工具による音響加工は 左右差を誘導するために 表板エンドブロック右側にいれられた工具痕跡のように、一般的な加工技術であったようです。



Carlo Antonio Testore ( 1693-1765 ) Violin, Milan 1740年頃
Joseph Thomas Klotz ( 1743-1809 ) Violin, Mittenwald 1780年頃
Joseph Thomas Klotz ( 1743-1809 ) Violin, Mittenwald 1780年頃
Antonio Stradivari (ca.1644-1737 ) Cello, “Ex Cristiani” 1700年
Andrea Guarneri ( 1623-1698 ) Violin, Cremona 1660年頃
Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Milstein” 1716年
Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “K-T” Cremona 1725年
Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Red Diamond” 1732年

Carlo Antonio Testore ( 1693-1765 ) Violin, Milan 1740年頃
Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 ) Violin, “Ex Joachim” 1775年
Giovanni Francesco Pressenda ( 1777-1854 ) Violin, Torino 1837年
Gasparo Bertolotti da Salo( ca.1562-1609 ) Cello, Brescia 1600年頃
Old Italian Cello, ca.1700
Old Italian Cello, ca.1700

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Cello( Length of back 746mm ), “Ex Pawle” 1730年頃
Antonio Stradivari (ca.1644-1737 ) Cello, “Ex Cristiani” 1700年
Andrea Guarneri ( 1623-1698 ) Violin, Cremona 1660年頃
Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Milstein” 1716年
Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “K-T” Cremona 1725年
Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Red Diamond” 1732年
Carlo Antonio Testore ( 1693-1765 ) Violin, Milan 1740年頃
Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 ) Violin, Piacenza 1745年頃
Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 ) Violin, “Ex Joachim” 1775年
Joseph Thomas Klotz ( 1743-1809 ) Violin, Mittenwald 1780年頃
Giovanni Francesco Pressenda ( 1777-1854 ) Violin, Torino 1837年
Gasparo Bertolotti da Salo( ca.1562-1609 ) Cello, Brescia 1600年頃
Old Italian Cello, ca.1700
Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Cello( Length of back 746mm ), “Ex Pawle” 1730年頃
Antonio Stradivari (ca.1644-1737 ) Cello, “Ex Cristiani” 1700年
“90”刻印と “WC”刻印で”ねじり”のために対とするラインが構成されています。
“44”刻印と “WC”刻印も同じ役割です。
工具痕跡として見落とされがちな”焼き線”加工も 同じ効果を狙っています。
Joann Paul SCHORN Violin, 1710年
Peter Köpf Violin, Munich – Fussen 1647年
Richard DUKE ( 1718-1783 ) Violin, London 1770年頃

Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 ) Violin,” L.A.T” Turin, 1784年
Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 ) Violin Piacenza 1745年頃 
Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 ) Violin, “Ex Joachim” 1775年
Giovanni Francesco Pressenda ( 1777-1854 ) Violin, Torino 1837年

Giovanni Francesco Pressenda ( 1777-1854 ) Violin, Torino 1837年

Ferdinando Garimberti ( 1894-1982 ) Violin, Milano 1925年
Ferdinando Garimberti ( 1894-1982 ) Violin, Milano 1930年
Ferdinando Garimberti ( 1894-1982 ) Violin, Milano 1942年
“Warped violin”



Hieronymus Amati ( ca.1561-1630 ) Violin, Cremona 1629
Old Italian Cello, ca.1700
Matteo Goffriller( 1659-1742 ) Violin 1702年右側F字孔の外側中央にスジ状の”キズ”が見えますが、これも製作者本人が このヴァイオリンを作った時に入れたものです。
この写真でわかるように、”キズ”に見えたスジは傷が最も付きにくい窪みの底にあたる“谷”に入っています。 当然ですが偶発的なものでないと理解していただけると思います。
Giovanni Grancino( 1637-1709 ) Violin, Milan 1690年
それから、先ほど( 2025年11月01日 )盗難にあったとの手配記事で思いだしたのですが、寺神戸亮さんが使用している 1690年製のジョヴァンニ・グランチーノ作 ヴァイオリンも、右F字孔にスジ状のキズ加工がしてあります。
Ryo Terakado’s violin was stolen!
In the train from Breda to Den Haag, on November 1
Probably at the holland spoor station.
It’s a Grancino 1690, with a Hieronimus Amati label 1690. It was in a blue BAM case, with also 2 bows by Eitan Hoffer.
Please keep an eye open!
ともあれ どうか、早期に発見されますよう お祈りいたします。
Giovanni Grancino( 1637-1709 ) Violin, Milan 1690年
Johann Adam Popel( Ende17.-Anfag 18.) Viola、1664年頃
また、このビオラの右側F字孔に 2本のスジ状キズが入っているのも M.Goffrillerと 同じ考えによるものと思われます。
このように、スジ状のキズを入れてある弦楽器は、音響的条件を推測するのに重要です。
Old Cello
Carlo Antonio Testore( 1687-1765 ) Violin, 1740年頃
このヴァイオリンの右側F字孔の”スジ状のキズ”も見てください。そして下に角度を変えて撮影した写真をあげました。
これにより”スジ状キズ”は”谷線”として刻まれていることが確認できます。このようなキズが偶発的にはいることはほとんどありません。
Andrea Guarneri ( 1626-1698 ) Violin, Cremona 1658年頃
Bartolomeo Giuseppe Guarneri ( 1698-1744 ) “del Gesù” Violin, 1740年頃
Andrea Guarneri ( 1626-1698 ) Violin, Cremona 1658年頃
Andrea Guarneri ( 1626-1698 ) Violin, Cremona 1658年頃
“Lira da braccio” Francesco Linarol ( 1502-1567 )


▶ 5. 渦部( Volute ) とペグボックス部の”境界線”について









