弦楽器のヘッド端に与えられた役割について

顎あてを取り付けていないヴァイオリンを 写真Ⓐ のように保持して、軽く振りながらデジタルカメラで撮影すると Ⓑ、Ⓒ のような写真が撮れます。

この写真には 背景とした書籍がハッキリ写っていることから、ヴァイオリンを支えている中央部が “節”となり、その両端であるヘッドと響胴のエンドピン側が “腹”として震えていることが確認できます。

私は こうした方法でヴァイオリンの揺れかたを検証した結果、ヴァイオリンなどの弦楽器は その発明時から ( A ) ヘッド ( B ) 響胴 は”対”でゆれるように設計されていたと考えるようになりました。

また、それらの “腹”に対して相対的な役割をもつネックの重要性を再認識しました。

ストラディヴァリの型紙  ( templates )

余談ですが、ネック条件に関しての探求は、38年ほど前に ストラディヴァリの モールド ( mold ) や 型紙にある重心を示すと考えられる ” (  ) “と 、ネック長の ヴァリェーションの研究から始めたもので、その結論までには 30年程の期間が必要でした。

ストラディヴァリの型紙のうちで、私が最初に着目したのは 対になった ” (  ) ” のうちで 右側の ” ) ” を 塗りつぶしたうえで その右側に移動された ビオラの型紙でした。この ビオラの型紙にある ” (  ) ” は 下図のようにヘッド・ネック部の長さを同一にしてみてみると、ビオラのショート・ネックと チェロのショート・ネックにおいての割合が同じであることなどから 適当に書かれたのではなく 一定の原理に基づいていることが判ります。

古典的なネックは 演奏上の音域構成だけではなく、その響きに大きな影響をあたえる重心位置などに細やかな配慮がなされているようです。

なお、ビオラの型紙に書かれた 右側 ” ) ” が 塗りつぶされてその右側に移動されたのは、ストラディヴァリが 指板の仕様を変更したからではないかと 私は考えています。

こうして考察すると、ほとんどの弦楽器は ヘッド部と 響胴部が 天秤状に”対”でゆれるように設計されていることが確認できると思います。

例として 下にエレクトリックギターの振動モードをあげてみました。

ネックに関する条件設定が すでに失われかけている‥  ヴァイオリン属とは違って、ギター系の弦楽器は エレクトリックギターに至るまで 『 弦長( スケール )は 12フレットまでの長さの 2倍である。』などのように 正確に伝承されています。

また‥ 弦楽器ではありませんが 天秤状態で「 腹 – 節 – 腹 」としてゆれるイメージは ボディーブレードからでも学べます。

BodyBlade( 2分53秒辺りから ボディーブレードが揺れる様子が出てきます。)

 

このように『揺れ』に関する条件を念頭に置き、 ヴァイオリンや チェロなどの弦楽器を考察していくと、上図のように 線分ab を天秤棒として N字型に立ち上がったスクロール部( 線分ac )と 指板、裏板ボタンを含んだネック端部( 線分bd )が 天秤部を軸として激しく揺れるように設計された可能性が高いと考えられます。

そして、それに基づけば、弦楽器にとって ネック部が天秤棒的な条件をみたす事や、その『 接続部 』においてのフレキシブルな要素が重要であると言うことができます。

しかし、このフレキシブル条件の追求は リスクも伴います。このようにヘッドと ネック端の接続部が 実際に折れてしまうと、大修理が必要となり最悪な事態となります。

つまり 弦楽器は この部分が “首”としてフレキシブルに機能するとともに、耐久性もあるように設計されたようです。

Cello head   :   Neck connection point

Cello head   :   Neck connection point

これにつきましては‥  私が 分数ヴァイオリンで確認した 接続部のフレキシブル機構についての投稿が 参考になると思います。

理論上はわかりますが‥ J.T.L. 凄すぎ!

 

 

このような視点から考えると、この投稿のテーマとしてあげさせていただいた 弦楽器のヘッド端部 や ネックから突き出た ヘッド接続部は、スクロール部の軸である線分 a-c のゆれをサポートするための 『 アンカーとしての役割が与えられている。』と考えられます。

 

なお、黎明期からのヴァイオリンや ビオラ、チェロなどを観察すると、上の Tenor viola ( Front L. 469.0mm ) のようにヘッド端部や ヘッド接続部の高さがあるものが 先行し、時間の経過とともに低いタイプが増えていったようです。

また、ネックとヘッドの接続部の設計に関しては 下にあげさせていただいた事例のように、200年程の期間にわたって様々な条件設定が試みられました。

Zanetto Micheli da Montichiari ( ca.1489 – ca.1560 )                           Viola da gamba,   Brescia    1560年頃

Zanetto,  Viola da gamba head ca.1580 fitted to Gasparo da Salò  Cello of similar period.

例えば この Viola da gamba のヘッドは、ネック端のヘッド接続部ヘッド部より小さくしてあることでフレキシブル・ジョイントの要素が強められていることから 揺れやすく、『 疎から密、また 密から疎へ 』の原理から位相のずれが生じやすいことが意識されたと考えられます。

Andrea Guarneri ( 1626-1698 ),   Viola  “Primrose”   1697年

Andrea Guarneri ( 1626-1698 ),   Viola  “Primrose”   1697年

同じく、この ビオラにみられる 二段型と呼べるような ヘッドとネックの接続部設定も、皆さんにとっても 興味深いのではないでしょうか。

 Martin Diehl ( 1741-1793 )    Viola,   Mainz ( Mayence )    1790年

それから、このチェロにある接合部も 同一原理から考えられたものだと私は考えています。Domenico Montagnana ( 1686-1750 )  Cello,  Venezia  1723年

因みに、オールド弦楽器のヘッド端部 や ネックから突き出た ヘッド接続部の角( エッジ )は、上のチェロのように摩耗加工が施されているものが沢山あります。

摩耗したように加工する “パティーナ加工” について

このように、オールド弦楽器は ヘッド接続部の条件設定ひとつとっても繊細です。

皆さん、継ぎネックなどの際は ヘッドのヒール部に気をつけてください。

たとえば 先程 、天秤の役割をもつ 線分ab から N字型に立ち上がったスクロール部( 線分ac )と ネック端部( 線分bd )が 天秤部を介することで揺れると指摘しましたが、この時に ネック端部には響胴までが含まれます。

それを上図で B部として示しましたが、私は 一見して小さく見えるネック端部( 線分bd )に 大きな箱状の響胴部が付属していると考えています。

さて‥長文にお付き合いいただきありがとうございました。
最後に、この投稿のなかで 私が ヘッド端部 ネックから突き出た ヘッド接続部は、スクロール部の軸である線分 a-c のゆれをサポートするための アンカーとしての役割が与えられている。』とのべたことの補足説明をさせて下さい。

私は  ヘッド端部( k ) や ネックから突き出た ヘッド接続部の設定は、スクロール部( 線分ac )が丁度よい揺れかたをするように選ばれたもので、それは まるでトレーラーや けん引車が スネーキング現象をおこさないようにフロントに置かれた重りのようなものだと考えています。

それから、スタビライザー( stabilizer /  安定化装置 )は 船、飛行機、自動車などに取り付けられ 外乱や操縦によって発生する不規則で不要な揺れを抑え、転倒や転覆を防止するための仕組みですが、これと類似した工夫を “Viola d’Amore” や “Treble viol” でも見ることができます。

“Viola d’Amore”   Tomaso Eberle,  1750年頃    “Treble viol”   School of Salomon,    Paris  1740年頃

ともあれ‥ 自動車の運転免許証をお持ちの方はご存じでしょうが トレーラーまたは けん引車で、リアがヘビーな状態だと 下の動画のようにスネーキング現象( Trailer Sway )におちいる可能性があります。

これはトレーラーや けん引車の重心が 積載貨物などにより リア 過重の状態で左右に揺れてしまい横転しそうになるものですが ‥これを ヴァイオリンで例えれば スクロール部が過剰に震える状態と表現できると思います。


このようなイメージから、私は ヘッド端部 や ネックから突き出た ヘッド接続部は スクロール部がバランスのよい揺れかたをするように『 アンカーとしての役割が与えられている。』と表現しています。

また、ヴァイオリンやチェロの 3番線が巻かれるペグは、スタビライザー( stabilizer )として設計されていたと 私は考えています。

この投稿は以上です。ありがとうございました。

 

 

 

 

2019-12-18      Joseph Naomi Yokota