ヘッドは “ネック端上の構築物”であるということ

ネック端から ペグボックス部を製作中の チェロ・ヘッド

弦楽器のネック端 ( Neck end )とリレーションするヘッド基部には、表情豊かな響きのために 緻密な工夫がされていました。

それは、外力が加えられても接合部が変形しない剛接合( 一体化するようにした接合方法。)ではなく、ピン接合( 部材同士を一体化させずに留める接合方法。)のような構造に似せて彫り起すことで、回転運動などの揺れを誘導するイメージであったと 推測できます。

Nicola Albani ( Worked at Mantua and Milan 1753-1776 ) Cello, Milan  1770年頃

そして、引いて言えば・・ ヘッド部においても揺れの基本原理は『ねじり』によるものだということを証しているとも感じられます。

因みに 私はそれを考えるとき、類似した事例として ブロー・ノックス・デュアル・キャンチレバー・タワー 、別名 “ダイヤモンド・アンテナ” ( Blaw-Knox dual cantilevered towers.  A.k.a. “Diamond antenna”. )を思い浮かべます。

“ダイヤモンド・アンテナ”は多数建設されましたが、たとえば 1933年にハンガリー・ブタペスト(  Lakihegy )に建設されたものは 314.0m( 1,031 フィート )という高さで、これは当時のヨーロッパでは 最も高い構造物だったそうです。

その” Lakihegy ” タワーは ドイツ軍により破壊されてしまいましたので、その竣工翌年である 1934年にアメリカ・オハイオ州 メイソンに WLWアンテナとして建設された “ダイヤモンド・アンテナ”を具体例として挙げたいと思います。

この WLWアンテナは 高さが 831フィートで竣工して、その後の事情により 227.5m( 747フィート )に改造されて現在に至っています。

Blaw-Knox dual cantilevered tower, “WLW”.

冒頭にあげさせていただいた、”この ダイヤモンド・アンテナ”の設置作業写真で確認できるように、上部に置かれた 226m程もある構造物 136t の荷重はこのフレキシブル・ベースの一点で支えられています。

このために台座部は 落雷などの厳しい自然現象にも耐え、また 塔全体をアンテナとして機能させるために 地面から絶縁されていなければならないなどの条件もクリアーした上で、300t 以上の負荷がかかっても破損しないように設計されているそうです。

ともあれ・・ ここで 注目したいのは、基礎部が 部材同士を一体化させずに留める接合イメージ( ピン接合 )となっているとき『ねじり』が誘導されやすくなり、対となっている構造物上部の水平変形( 運動 )が 大きくなるということです。

●  支持ケーブル 2段型( “Diamond antenna”, Support cable 2-stage type )

●  支持ケーブル中央型( “Diamond antenna”, Support cable central type )

この時に重要なのは、その “ダイヤモンド・アンテナ”は 支持ケーブルが取り付けられた 支線塔( Guyed mast )であるということです。

下図のように、強風や地震などにより支線塔に生じる 水平変形は『節』となる支持ケーブルの取り付け方で大きな違いがでます。

私は、 2段以上の支持ケーブル付きとして設計された“ダイヤモンド・アンテナ”に生じる『スネークダンス』と言われる変形モードを、特に興味深いと感じています。

ちなみに 五重塔のような多層塔でも、強風や地震時に構造体の上方( 相輪側 )になるに従い揺れが大きくなる基本モードのほかに、地震の揺れが細かく加速度が大きい場合には『スネークダンス』モードを観察できるそうです。

ですが、五重塔は 外見上の印象が似通っている割には『くせ者 』で、 下図のように”心柱”の条件設定ひとつとってもバリエーションが多く、因果関係は判断しにくいと思います。

ついでにもう一項目いくと・・ この表から 先端に行くほど”腹”として揺れるはずの屋根に乗せられた寺社瓦や檜皮、木板などの荷重条件を頭に置いたうえで、そのゆれ方を想像してみてください。難問であることがすぐにわかります。

さて、ここから シンプルな“ダイヤモンド・アンテナ”の変形モードの話に戻りましょう。

私は ヴァイオリンや チェロのヘッドに生じる振動モードのひとつは、取り付けられた複数のペグが 支線塔の支持ケーブルと同じように”節”として機能する『スネークダンス』モードだと考えています。

他のモードを含めて考えても、基礎部となるネック端と ペグボックスが繋がっている部分を『 ピン接合のように・・ 』とまではいかなくとも、多少でも 回転運動が生じやすいような条件設定にするだけで、構造物上部、特に頂点にある渦部( ボリュート )の振動は確実に激しくなります。

まあ・・ 何事においてもそうですが、対となり揺れるバランスは重要です。

Nicola Albani ( Worked at Mantua and Milan 1753-1776 ) Cello, Milan  1770年頃

特に 激しく振動しやすい 大きめの渦部( ボリュート )であった場合で、この Bayern で製作された2017年製チェロ ( アイ幅 68.9mm × 縦幅70.0mm × 奥行き91.5mm / ヘッド本体重量 177.0g ) と同じように、対となる基礎部が 過剰に不安定だと そこから折れたりしますので 意外と判断しやすいと思います。

ヘッド基部では、ネック端 A とヘッド端 Bフロアー面で重なるように接合されていると 見なすことができますので、その断面積で “ピン接合的条件”を反映させることが容易にできます。

たとえば、接ぎネックのために切断された上左の 2011年製チェロの接合部は 広く、上右の 1870年頃に製作されたチェロのそれは 狭く 狭隘部もデフォルメされていることから・・ 不安定です。

   

これは 非常に希な破損事例ですが、ヘッド接続部がネック端面でちぎれてしまったので、緊急修理としてニカワで接着した直後の写真です。

このように、”ピン接合的条件”が 過剰であった場合は、当然ながら破損のリスクは高くなります。

“オールド弦楽器”は それらを心配するあまり、割と最近に指板が厚くされ ナットも変えられた 下写真のアンドレア・ガルネリ作とされる チェロのように、ヘッド端とネック端の接続部が “剛接合”のように改変されてしまうことが日常化してしまいました。

比較すればすぐに確認できるのですが、”接続断面” を最小限とすることで得られる自由度は 音のレスポンスや残響に直接反映しますから、頑丈にされたことによる音響的ダメージは大きいと思います。

しかし、現在では ナットの厚さが 9.0mm以下とされたチェロを目にすることが減ったために、ナットの厚さは 9.0~11.0mm 辺りまでに達し、ナット幅もペグボックス端の幅と同じにされたものが多数派となっています。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 ) Cello, “The King”  1570年頃

Andrea Amati ( ca.1505-1577 ) Cello, “The King”  1570年頃

この他にもいろいろありますが、私は それらを考慮して弦楽器の条件設定を考え、ネック端から 積み上げるように削り進めて、最終的に渦部( ボリュート )までがリレーションするように作っています。

 

●  弦楽器のヘッド端に与えられた役割について

アンドレア・アマティが製作して フランス宮廷に納められた ヴァイオリンと テナー・ビオラの渦部( ボリュート )を、同じ長さとして比較すると、ヘッド長とヘッド端部までのペグボックスが同様の比率とされた事がわかります。

William Forster Ⅰ( ca.1713-1801 )  Violin,  1740年頃

また、ナット端に連なる 両ペグボックス壁の厚さの差は大切です。

ここが ヘッドという構造物の基礎であると考えると、ヘッド端部の角度も 製作者の意図を反映したものであることが想像しやすいと思います。

The Tartini’s Violin Nut ( Ebony / Probably about 4mm thickness ).

それから 現在、トリエステの音楽院に収蔵されている タルティーニさんが使用したストラディヴァリウスから外された 厚さ 4mm程のヴァイオリン・ナットも、非常に興味深いのではないでしょうか。

Antonio Stradivari (ca.1644-1737 ) Cello, “Ex Cristiani” 1700年

Antonio Stradivari (ca.1644-1737 ) Cello “Vaslin – Composite” 1730年頃

また、パリの楽器博物館に収蔵されている マッテオ・ゴフリラが製作したとされるチェロに取り付けられた 厚さが 7.2~7.5mm のナットも 重要だと思います。

Matteo Goffriller (1659–1742) Cello, Venice  1710年頃 , Collections of the Music Museum – Philharmonie de Paris.

Goffriller’s cello nut thickness seems to be 7.2~7.5 mm.

Nicola Albani   Cello, Milan 1770年頃

This cello nut is  L 44.6mm x W 10.0mm x H 9.0mm.

そして このチェロ・ナットは、1900年頃に ロンドン、ヒル商会の工房で作られたと推測されますが、ペグボックス端の幅 48.5mm のところに ナット幅が 44.6mm とされ、ナットの厚さが 10.0mm でも面取で丸くされた形状もプラスとなり、”ピン接合的”要素が 十分確保されています。

この面取加工は ペグボックスの両側壁部と ネック端の自由度を拡大させるので、私も自作チェロで 採用しています。

This is my favorite nut standard. Nut thickness 9.0 mm.

因みに、上の段階で 9.0mmとしたナット基部の厚さは ペグボックスの削り込み工程の角度調整で 8.8mm としながら 渦部( ボリュート )に向かって彫り込んで行き、その後で やっと揺れ方の調整として水平方向の傾きを削り、最後は 8.5mm となります。

Domenico Montagnana( 1686-1750 ) Cello, Venezia  1735年

Domenico Montagnana( 1686-1750 )  Cello,  Venezia 1742年

Division Viol ( Body length 647mm ) , “School of Tielke” 1720年頃

Giovanni Francesco Pressenda( 1777-1854 ) Cello, Torino 1828年~1830年頃

Giovanni Francesco Pressenda( 1777-1854 ) Cello, Torino 1828年~1830年頃

Giovanni Francesco Pressenda( 1777-1854 ) Cello, Torino 1828年~1830年頃

Francesco Guadagnini ( 1863-1948 ) Cello, Turin  1888年

Francesco Guadagnini ( 1863-1948 ) Cello, Turin  1888年

Francesco Guadagnini ( 1863-1948 ) Cello, Turin  1888年

Annibale Fagnola ( 1865-1939 ) Cello, Turin 1904年

私が知る限りでは、トリノ派として名を残した ファニョーラさんが1904年に製作した チェロ・ナットの 5.5mm が最も薄い事例です。

Annibale Fagnola ( 1865-1939 ) Cello, Turin 1904年

Annibale Fagnola ( 1865-1939 ) Cello, Turin 1904年

彼の探究心を 私はリスペクトします。

これが この投稿のテーマである『 ヘッドは ネック端という基礎の上に構築されている構造物に似ている。』という視点です。

それでは  ここから、この条件設定が意識された状況証拠を 幾つかの”オールド・チェロ”で ご覧ください。

Alessandro Gagliano (1640–1730)  Cello, Napoli  1724年

Alessandro Gagliano (1640–1730)  Cello, Napoli  1724年

( 恐縮ですが、これは 書きかけ投稿です。)

 

●  ヘッドとペグ位置の関係

 

2022-5       Joseph Naomi Yokota