つり合いという現象

私は ルネサンス期の1500年代中頃に誕生した ”オールド・ヴァイオリン” は 1650年から1750年頃ヨーロッパ各地で盛んに製作されたものの、 1800年頃にはその製作者が激減し‥ ついには絶えてしまったと考えています。

この投稿は その失われた ”オールド・ヴァイオリン” の 音響システムについてのお話しです。

現在、私たちは ヴァイオリンネック材として ヘッド部がこの状態まで加工されたものを ¥5,000 以下で購入出来ます。

まあ‥ 機械加工のものや「工場制手工業」タイプなどいろいろですが。

また下写真の 英国にある製作学校系統の人達のように‥ 敢えてネック部が全体価格の20%だと換算すると‥ ヘッドを削りあげた状態でそれが おおよそ¥100,000 を超えると考えられる製作者も 大勢います。

当然ですが 前者の無頓着さと比べて 後者はとても丁寧に削られているので、工芸品としてのヒエラルキーは 十分成立しているようです。

しかし残念なことに 音響上の特性においては、この両者にほとんど差はないのではないかと 私は考えます。

それは この製作工程では『 原則に従うことで ヴァイオリンの諸部分が相互に補完しあう、バランスのとれた楽器 』は製作出来ないと考えられるからです。

そこで まずこの点について レオポルト・モーツァルト著の書籍( 翻訳版 )により検証してみたいと思います。

レオポルト・モーツァルト( 1718-1787 )は 息子のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが誕生した年である 1756年の秋に『 Versuch einer gründlichen Violinschule( ヴァイオリンの基礎的入門の試み ) 』を出版しました。

この書籍は 日本でも 塚原晢夫氏が翻訳したものが 全音楽譜出版社から1974年に『 バイオリン奏法 』として出版されています。

ところがこの翻訳底本は 1951年に出版されたクノッカーの英語版の改訂版であったため、私たちの間では ながらく原典版の翻訳が待ちのぞまれていました。

そうして時が経ちましたが‥‥、 今年5月に 同じ全音楽譜出版社から 原典版である「初版」がついに レオポルト・モーツァルト『 ヴァイオリン奏法 』新訳版( ISBN978-4-11-810142-2  C3073  ¥3800E )として出版されました。

これは音楽学の久保田慶一氏が 初版( 1756年 )、第2版( 1770年 )、第3版( 1787年 )、第4版( 1800年 )などを検証した上で 「初版」を底本として翻訳したものだそうです。

献呈文に続く「はじめに」の部分に書かれたあいさつ文の署名は
” ザルツブルク、1756年7月26日 モーツァルト ” となっており( P.XX )、そのあとに『 ヴァイオリン奏法への導入 』として 第1節が  『 弦楽器、とりわけヴァイオリンについて 』のテーマで 7項目に分けて並べられていて(本文 P.1~P.11)、 全文は 295ページです。

そこで18世紀半ばの弦楽器製作を考証するために この翻訳本の一部をここに引用させて頂きたいと思います。

【  第1節    弦楽器、とりわけヴァイオリンについて  】

第3項目

Füssen trained maker.  

『  (中略)‥‥ ヴァイオリン製作者は、カタツムリのような優雅な曲線や 巧みに彫られたライオンの頭などを最後に装着して、楽器を完成させる。

彼らは楽器本体よりも こうした装飾にしばしば手間をかけるのだ。そのためにあろうことか、ヴァイオリンは 外面的な虚飾という、俗に言うごまかしの犠牲になってしまうのである。


Salzburg,  1713年

鳥を羽でもって、馬をブランケットでもって評価する人は、きっとヴァイオリンも、色艶やニスの色でもって判断して、本体部分の状態を詳しく調べたりはしなであろう。

またこのような人たちすべてが、頭脳ではなく、 見た目 )を判断基準にしているのである。ぼさぼさ髪のカツラをかぶったところで、生身の人間の頭がよくならないのと同じように、美しく彫られたライオンの頭がつけられても、ヴァイオリンの音はよくならないだろう。

こうは言っても、多くのヴァイオリンは見た目のよさだけで評価されるのである。身なりのよさや 金を持っているだけで、そして華やかで巻き毛のカツラをかぶっているだけで、多くの人々は、やれ学者だの、助言者だの、医者だのと思ってしまうのである。

それにしても、私は何の話をしているのだろうか!うわべの見かけだけで判断してしまう習慣を嫌うあまり、脱線をしてしまったようだ。』

そして、第5項目では

『  とりわけ嘆かわしいことは、今日の楽器製作者たちが、自分たちの仕事に対して あまり努力していないことである。注( 3 )

では何が必要なのだろうか? ひとりひとりが 自分なりの考えや 想像で仕事をしていて、楽器の諸部分についての確かな基準を持っていないのだ。

例えば、側板が低い場合には、胴は高く湾曲させなくてはならない、しかし反対に、側板が高くても、表板を少しだけ湾曲させて高くするだけで、音の通りがよくなる

注)JIYUGAOKA VIOLIN

【  所有者の依頼により、自由ヶ丘ヴァイオリンで 側板の高さを増やしたオールド・ヴァイオリンの事例  】

注( 3 )
楽器製作者は今日でも たいていは生活のために仕事をしている。ある点で彼らは批判されるべきではないだろう。それというのも、人々はいい仕事を求めるが、それに対して多くを支払おうとしないからだ。

―― 要するに、音は側板の高さからは それほど悪い影響は受けないという原則を、ヴァイオリン製作者は 経験から得ているわけである。

さらに裏板となる木は 表板の木より強くなくてはいけないこと、そして表板も裏板も周辺よりも中央部分で厚くなっていること、さらに次第に薄くなったり厚くなったりするにしても、木の厚みにはある一定の均一性がなくてはならないことを知っていて、このようなことを 外側カリパス( 訳注:厚みを計測するはさみ尺のこと )を使って検査するのである。

● どうして ヴァイオリンは ひとつとして同じではないのだろうか?

●  どうして あるヴァイオリンは大きな音が出て、別のヴァイオリンは小さな音しか出ないのであろうか?

● どうして ある楽器は、いわば鋭くとがった音がし、別の楽器の音は響かないのだろうか?

●  荒々しく叫ぶような音がしたり、悲しく押し殺したような音がするのは、どうしてなのだろうか?

これ以上 問うのはやめよう。

これらすべては 楽器製作者のやり方の違いに起因しているのだ。ある製作者は目分量で 高さや厚さなどを決めていて、十分な確固とした原則に立っているわけではないのである。

そのために、ある人にはうまくできるのに、別の人には まずい結果に終わるのである。このことこそ、音楽から 多くの美しさを現実に奪っている諸悪の根源なのである。

 

そして 第6項目では

『 (中略)‥‥ それよりも、私たちがいい楽器にあまりに出会わない、そして出来映えも不揃いで 音質もさまざまであるということを、もっと真剣に考えた方がいいのではないだろうか?

そうすれば 学者先生たちの研究の力を借りて、もっと進展だってできるであろう。

○  例えば、どんな種類の木が弦楽器には適しているのか?
○  そのような木をどうすればうまく乾燥させられるのか?
○  製作にあたって、表板と裏板とで木の年齢が違うとうまくいかないのではないだろうか?

注)JIYUGAOKA VIOLIN
これは 1998年にロンドンで Peter Biddulph さんが出版した ジュゼッペ・ガルネリ( 1698-1744 )の原寸大写真集 ” Giuseppe Guarneri del Gesu “の 161ページから引用させていただきました。

年輪年代学の研究者である ピーター·クラインさんが 25台の ガルネリ・デル・ジェスのヴァイオリン表板を研究した結果を表にしたものです。

現代ではヴァイオリンを製作する場合‥ 材木のスプルースを上からみて放射状に切断して、その板の外側どうしをジョイントすることで左右対称の木組みが なされているために、表板の年輪は左右で違ったとしても数本以内で製作される場合がほとんどです。

ところが ピーター·クラインさんの研究では、これら25台のガルネリ・デル・ジェス( ロワー・バーツ部での左右の年輪合計は 131本から 260本です。)のうち 16台が ジョイントされた左右の年輪数が 10本以上( 10~63本 )も違うことが指摘されています。

これに 年輪年代学 の材木の時代考証をあわせて考えると、ガルネリ・デル・ジェスは 積極的に” 木伏技術 ” として左右が非対称の表板によってヴァイオリンを製作したと考えられます。

私も オールド・ヴァイオリンの年輪などを調べたことが何度もありますので、左右の材木が違う組み合わせで製作されたヴァイオリンなどを 何台も知っています。


客観的に考えれば 一枚板で柾目( まさめ )だけでなく板目の木取りをした弦楽器がいくつも残っているのですから、 なんの不思議もないはずですが、19世紀あたりからの ”習わし“を学んだ『 専門家 』には頭が痛い技術です。

【  一枚板で製作された ヴァイオリン表板  】

私は、ジュゼッペ・ガルネリは 表板に” 木理 ”を考慮して別々の時期に伐採された木材をジョイントした” 疑似的な一枚板 ”を 強いねじりを生みだすために使用していたと思っています。

 

○  どうしたら 木の気孔はうまく埋めることができるのだろうか?
○  そのために内側にもニスを塗るべきなのかどうか、そして どのようなニスが適しているのか?

○  さらに大切なこととして、表板、裏板、そして側板がどのくらいの高さや厚さであればいいのだろうか?


最後の 第7項目では

『 とにかく研究熱心なヴァイオリン奏者というのは、弦、上駒、魂柱を改良しては、自分の楽器をできる限りいいものにしようと努力している。

ヴァイオリンの胴が大きければ、確かに太い弦がいい効果を生むだろう。反対に小さければ、細い弦を張らなくてはならないだろう。

魂柱は高すぎても低すぎてもいけないし、駒の足の下の少し右側に置かなくてはならないだろう。魂柱を正しく置くことのメリットは決して小さくない。

かなり大変ではあるのだが、ときどき魂柱の位置を変えるべきだろう。そのつどすべての弦でいろんな音を出して、楽器の響きを調べ、いい音の状態が見つかるまで、これを繰り返し続けてみるとよい。

駒もまた大いに役にたつ。例えば、音が荒々しくて刺すような、言うなれば、鋭くて、心地よく響かないときには、低い、幅広の、いくぶん厚めの、とりわけ下部を少し切り抜いた駒を使うと、少しはましになる。

音そのものが弱く、静かで、沈む場合には、薄い、あまり幅広でない、そしてできることなら、下方だけでなく中央部も大きく切り抜かれた駒を使うとよくなる。

しかも このような駒の材料は総じて、とても木目が細かくて、気孔のない、よく乾燥した木でなくてはならない。この駒は、表板のローマ字のf形に切り抜かれたふたつの孔の間に置かれる。

注)JIYUGAOKA VIOLIN

また 音が沈まないようにするために、弦が固定されエンド・ピンにつけられた、一般には狩人たちの言葉で「緒留め」と呼んでいるテールピースを置くにしても、下方の細くなった端が ヴァイオリンの表板から突き出したり、はみ出したりしないよう、表板と同じ高さになるようにうまく調節しなくてはならない。

最後に、自分の楽器はいつもきれいにしておくように。特に演奏をはじめる前には、弦と表板にある ほこりやコロフォニウム( 訳注:松ヤニのこと )は取り除いておかなくてはならない。

ものごとがしっかりと考えられる人には、とりあえずは この程度のわずかなことで十分であろう。やがて私の望みどおりに、私のこの小さな試み( 訳注:この「ヴァイオリン奏法」のこと )を さらに広げて、すべてのことがらを 正しく規則として示してくれる人が、きっと現れるだろう。』

( 引用終了 )

[  Small size violin of Wolfgang Amadé Mozart  ]
Andreas Ferdinand Mayr  1746年頃
Worked for the Salzburg Court ( 1720-1764 ).
[  Concert violin of Wolfgang Amadé Mozart  ]
until November, 1780.
Klotz family of violin makers in Mittenwald.

私は この 1756年に出版された レオポルト・モーツァルト著『 ヴァイオリン奏法 』において音楽家の立場から弦楽器製作者に対し 怒りが込められた意見や疑問が記されていることは重要と考えています。

これは 弦楽器の専門家として 私自身が ”オールド・ヴァイオリン” を検証した結果とも符合しているからです。

私が知る限りでは‥‥ 弦楽器製作や整備に関するこのようなネガティブな情報は、弦楽器マーケットの情報発信役となった楽器商の「顧客に対する忖度などにより‥」社会に報告されることはほとんどなく、結果として混乱状態のまま革命と大規模な戦争の時代に 進んでいったようです。

また、音楽の世界も 世俗音楽の領域をこえた市民階級の進出により 、宗教音楽や宮廷音楽でさえもスタイルを変化させながら より広域化しましたので、その移ろいのなかで 弦楽器製作や整備に関する領域は 社会的に より共有されにくくなったと考えられます。

18世紀の音楽ホール事情

ところで下の画像は 私が 大切にしている新聞記事です。
私はこれを 17年前に目にして警鐘ととらえ、この予言通りにならないように 努力してきました。


「 過去へ 」と題されたこの記事の終わりには
『 ‥‥ そう考えると、私たちの日常はだんだん貧しくなっているようにも思える。極端な例では、あの輝かしい音を響かせるバイオリンの名器は、18世紀からあと二度と私たちの手から生まれなくなった。今後、あの音は失われてゆくだけだ。』と書かれています。

ジャーナリストであり西洋音楽史の研究者でもある 梅津時比古さんは、現在 桐朋学園大学学長でもあるようですが、この時の 梅津さんのパンチは 私にとっては強烈でした。

また、レオポルト・モーツァルトの『 弦楽器製作者は 十分な確固とした原則に立っていない。このことこそ、音楽から 多くの美しさを現実に奪っている諸悪の根源なのである。』とのことばも 私には応えました。

ご存じな方も多いでしょうが 現代の弦楽器製作者が製作したヴァイオリンのほとんどが‥ これは 当時の私を含めてですが‥ とにかく鳴りません。

しかし、皮肉なことに その私達が専門家として ”オールド・ヴァイオリン” の修理や整備をおこなっている現実がありました。

ですから 自分が製作したヴァイオリンと弾き比べを行えば  ”オールド・ヴァイオリン” の響き方と まったく違うことはすぐに確認できたのです。アイロニー( irony )ですね。

とにかく‥この頃になって、私は ”オールド・ヴァイオリン” の特質は『 原則に従うことで ヴァイオリンの諸部分が相互に補完しあう、バランスのとれたシステム 』にあると考えるようになりました。

2003年 9月29日  16:45頃

そして再度  ”オールド・ヴァイオリン”に関する状況証拠を検討したのちに、 私は「 失われた ”オールド・ヴァイオリン” の 音響システム 」を ガリレオ的手法により解明できると確信して、2004年11月11日に本格的な研究と製作に着手しました。

Violin –  Joseph Naomi Yokota ,  Tokyo  2008年

この研究は “オールド・ヴァイオリン” や “オールド・チェロ” などを精査し、仮説を立てそれを製作に反映し‥ その結果から 再び検証と仮説を進めるもので、あくまで楽器としての性能の復元をめざしました。

まあ‥今となっては 本当に長かったとしか 言いようがありませんが、 結果としてこの研究は 2015年12月26日まで続きました。

さて 前文が長くなりましたが、私はこの投稿で その 11年間に及んだ弦楽器研究で得たことを いくつかお話ししようと思います。


“オールド・ヴァイオリン”の 音響システム

【  ネックとヘッドの関係について  】


私は ”オールド・ヴァイオリン” のスクロールは 響胴と接続されている ネック端部と対となってゆれる仕掛けとなっていると考えています。

基準振動として区別していくために これを【 mode 1 】とします。

【 mode 1 】

この 振動モードは明解です。上図のように 線分ab を天秤として N字型に立ち上がったスクロール部( 線分ac )と 指板、裏板ボタンを含んだネック端部( 線分bd )が 天秤部を軸として激しく揺れるように設定されたととらえるものです。

因みに 私は 線分ac と 指板、裏板ボタン部を含んだ線分bd は、この図のように同じ長さ( 幅 )であった可能性が高いと思っています。

この設定で大切なのは、 ヘッドを含むネック部は スクロール部( 線分ac )と ネック端部( 線分bd )との間で 「ニュートンのゆりかご」のように エネルギーを受け渡しながら、揺れが持続できるようになっているという事です。

この両者の関係をイメージさせるものが、たまたま‥  Facebook で『 事故映像 』として貼られていましたので、パラパラ連続写真にして下にならべさせていただきました。

若者が ヴァイオリンネック端部を 二度ほどハンマーでたたいた顛末‥ です。


彼のヴァイオリンは 完成する前に修理をすることになったようです。お気の毒でした‥。

しかし 彼のおかげで 、ヴァイオリンのネック端部に ハンマーで入力されたエネルギーが大きいと、木理に沿って折れるほど激しく反対側のスクロールを揺らすということを 皆さんに理解していただけたと思います。

【  ネックの重心と ねじりの中心について  】

ヴァイオリンやチェロに親しむ方は 下写真のように指板がネック側からはがれてしまう事があるのをご存じだと思います。私は それが 二つのタイプに分かれていることに気がつきました。

私の経験では “オールド・ヴァイオリン”はもちろんですが、クオリティーが高い弦楽器のほとんどが、指板が剥がれる場合は このようにネックの中央付近で剝がれた事例がほとんどでした。

また、新作イタリア製を含む 重たい工場製品や「硬い弦楽器」、そして”オールド・ヴァイオリン”であっても 極端に厚い指板に交換されている場合などでは 下写真のように ネック端部がはがれるパターンで 私はたくさんの修理依頼を受けました。


私は この2種類の指板剝がれのうち前者は ”オールド・ヴァイオリン” 型の 音響システム がそれなりに機能していたので生じた可能性が高いと考えています。

この音響システムの設定は 点に指板、ヘッドを含むネック部の重心があること。( ネックの重心 


そしてネック部が強いねじりを生むように響胴表板の接着面である基準面( ホリゾンタル )と 指板、ヘッドを含むネック部の軸が 点e で交わっていることが基礎となっていると思います。( ねじりの中心 

私は “オールド・ヴァイオリン”では【 mode 1 】のようなねじりを、 ネックの重心と ねじりの中心の間が “節”として機能することでスムーズに なお且つ持続しやすく設計されたと考えています。


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T『 原則に従うことで ヴァイオリンの諸部分が相互に補完しあう、バランスのとれた楽器 』の製作は、ネック部の重心をコントロールするために 先ずは指板の製作からはじめます。

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Antonio Stradivari    violin 1712年 “Schreiber”  Vibration modes

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では‥ ここからチェロの指板を具体例として 製作工程をご説明したいと思います。


まず 指板のネック端にあたる部分に鉛筆でしるしをつけます。

指板を取り付ける響胴の『 くせ( 剛性 )』を考え重心の位置を決めます。 18世紀に製作されたチェロの特性を持たせた私の自作チェロの場合は、さきほどのネック端のラインを『 重心( Center of gravity )』としています。


指板の黒壇は当然ながら自然素材ですから指板材の個体差がかなりあります。 そこで 下の写真のように『 重心( Center of gravity )』をもって指板を水平にして振ってみます。

 


こうして振ったときの指板のゆれ方の変化を読み取りながら、削り工程のプランを考えて 指板のゆれ特性を整えていきます。


指板材ははじめは厚いですから‥ かなり重いですね。 因みに このチェロ指板は 440.0g もありました。この荒削りのときに指板裏の彫り込みは 両側にあるへり部分より少し中央部が薄くなるように意識しながら丸刃などでしっかり彫り込みます。


そして、また振ってみます。そうすると裏の彫り込みによって揺れ方が変化するのが左手の感触で分かります。


ほどほどに窪みの中央部を削りこんでから また振ると 指板の両側へり部の重さが 『 V字状 』に感じられるようになります。 そこで両側へり部の彫り込みをすすめ 指板をゆらした時に『 中央の尾根部( Center line )』に重さがくるように軽くしていきます。


専門店で使用される市販の指板の裏側彫り込みの奥部にある『 基準線( Reference line )』は ネック端ラインよりかなり手前で、その間に『 スペース 』が設けられています。最初にご説明したように 指板を取り付ける響胴がゆれやすい特性があるようでしたら 少しずつ『 基準線( Reference line )』を移動して 『 スペース 』を減らしては‥ 振ったときに軽やかに指板がゆれるように作業をすすめていきます。逆に響胴が” 頑固 “なようでしたら 用心して適度に 『 スペース 』を残す方針で‥ その量を探っていきます。

そして適度な揺れが起るようになってきたと判断したら整形工程にはいっていきます。これは指板の駒側部が『 中央の尾根部( Center line )』を軸として 下写真の模型のようなイメージに曲がるように加工していく工程です。

これも指板を振ってみると判断は簡単で‥ 上写真の ⓐ部をまず削りそれから確認のために指板を揺らし そしてもう一方のⓑ部を彫り込み、また 揺らす手順で進めます。 ここは指板の両側へりのつけ根にあたるため それぞれのへり部の揺れをつかさどります。ですから削り込みを進めると 指板駒側ゾーンのヘリ部分のゆれが大きくなるのが 確認できます。


こうして指板裏の両側へり部分と付け根部を削ったら、また 尾根部裏側窪みの中央( Center line )を削る‥ といった具合で彫り込みをすすめながら 随時 ゆれ方を確認します。

これらの彫り込みによって 指板の駒側部センター・ラインに『 尾根状の変形 』が生じるようになると、揺らした際に 重さが『 中央の尾根部( Center line )』から指板重心付近にコンパクトにまとまって来た感じがすると思います。


指板をゆらした際の変形は 裏側彫り込み部中央をすこし薄くしたうえで、写真の『 円部 』を削ると割と簡単に生じます。


ここは先にお話しした『 関節部 』の役割をはたしますので 私は丸刃などでしっかり彫り込むことをお奨めいたします。


私はこれらの経験則によって『 ゆらした際に 中央尾根部の軸と重心部の狭いゾーンに重さがコンパクトに集まり、それでいて良く揺れる指板 』が良い響きを生みだすと考えています。


初めにお話しさせていただいたように 今回製作した自作チェロは 18世紀に製作されたオールド楽器の特性を取り込んでいますので 指板裏側部の彫り込みはネック端のラインを『 重心( Center of gravity )』として削りあげました。 この時点でこの指板の重さは 216.0g となりました。

指板のネック端部に『 関節的な自由度 』を設定する弦楽器製作者は現代でも少数ながら存在しています。 例えば下写真の Hans Weisshaar 氏はスクエアーに近い彫り込みの指板も製作しているようです。

ともかく 古( いにしえ )の弦楽器製作者はこれらの条件を十分把握してヴァイオリンを製作したようで‥ 当時のヴァイオリンをよく見ると下の写真のように指板先をV字型にカットしてあったり指板の厚みをG線側とE線側で変えることでゆれを誘導してあったり、バロック・ヴァイオリンの指板のように意図的にネック端部の指板を加工することで 指板のゆれが響胴に対して不要な応力をくわえないように工夫したあとを見ることが出来ます。

            

下写真の2台のガダニーニに取り付けられた指板は ネック端と裏側彫り込みとの間にスペースをもうけてあるようです。上段は裏側彫り込みを急激に深くしてあり( Steep slope )、下段の指板は 緩斜面( Gentle slope )として彫り込んであるのが分ります。

指板を削る見本として挙げさせていただいた自作チェロの指板はこれらを判断した結果 下写真の設定で仕上げました。これはネックに仮貼りの後に 表側のスロープを整形し、それから指板のゆれが細やかになるようにオイル仕上げ‥ 今回はリンシードとあと2種類を使用してみがきあげながらフィニッシュします。

ヴァイオリンなどの弦楽器専門家として指板をみるとき 響胴といかに調和させる工夫がされているかは必ずチェックしています。 この投稿のはじめに過去例としてあげさせていただいた 1年2ヶ月ほどで剥がれた指板は すこし頑固な胴体のドイツ製ヴァイオリンに取り付けられていました。 そのため接着面積が少なかった事もさることながら、どちらかといえば胴体のゆれと指板の特性が合わなかったことが早期の脱落につながったと私は思っています。

このタイプの指板は まれにですが オールド・ヴァイオリンとみごとに適合して何十年も剥がれないで使用されたケースを私は知っていますので その判断の誤りを残念に思います。

指板の設定では他にもだいじな事がいくつもありますが 、今回はここまでとさせていただきます。

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【 mode 1 】

さて ここで、ヴァイオリン製作にとって重要なことを 一つ記憶しておいてください。

先程 、天秤の役割をもつ 線分ab から N字型に立ち上がったスクロール部( 線分ac )と ネック端部( 線分bd )が 天秤部を介することで揺れると指摘しましたが、この時に ネック端部には響胴までが含まれているということです。


それを上図で A部とB部として示しましたが、私は この両端部が対となって揺れるという仕組みが『 確固とした原則 』の 一つであったと考えています。

弦楽器製作者の立場から別の捉え方をすると 、スクロールやヘッド部の設定により 響胴のゆれ‥ そして響が ある程度 コントロール出来るということです。

それから私は、下の動画で 水鳥の白い羽を スクロールに見立て、それを支える4~5本からなる一方の端部を ヴァイオリンのヘッドとみなし、それが 反対側の二股となっている端部とつりあう様子からヴァイオリンの響胴をイメージしてみるのをお勧めします。

私は このように  “オールド・ヴァイオリン” の音響システムは『 原則に従うことで ヴァイオリンの諸部分が相互に補完しあう、バランスがとれた仕組 』にその特質があると 思っています。

なお バランスを取るうえでは 重心が 大切になってきます。
このように、石にしてもヴァイオリンにしても重心が存在します。

重心を中心線状にならべる石積み遊びをしている 彼は‥ これが趣味とのことで、ここのところ何年間も 思い立つ度にトライしているそうです。

彼くらい熟練して来るとこのくらいの作品でしたら数分間で 一気に立てられるとのことでした。

【 mode 2 】

さて、私はこの投稿の冒頭で ヘッドが削ってあるヴァイオリンネック部‥ ¥5,000以下 タイプと¥100,000以上タイプを例示したうえで音響上の特性においては、この両者にほとんど差はないと考えている趣旨のことを書きました。

それは”オールド・ヴァイオリン”を検証した結果、弦楽器製作は 現代の弦楽器製作学校で教えられているやり方とは まったく違うシステムに基づいて製作された可能性が高いと 私は考えるに至ったからです。

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私は 弦楽器製作と 修理や調整をおこなっていますので、それらの特性やバランスをイメージするために 弦楽器のジャンルをこえた さまざまな事象の記憶を大切にしています。

たとえば 私が大学生だった 36年ほど前にはじめて目にして 感銘を受けた下の写真もそうです。

皆さんは このブロー・ノックス・デュアル・キャンチレバー・タワー 、別名 ダイヤモンド・アンテナ( Blaw-Knox dual cantilevered towers /  “Diamond antenna” )をご存じでしょうか。


これは 1933年にハンガリー・ブタペスト( Lakihegy )に建設された ダイヤモンド・アンテナを撮影したものといわれています。

この塔の高さは 314.0m もあり建設当時はヨーロッパで最も高い構造物だったようです。ライバルである エッフェル塔は 1889年の竣工時は『 世界一 』の高さを誇っていましたが 旗部を含んでも 312.3m でしたので 抜かれたわけですね。

因みに‥ エッフェル塔は 1940年代になって放送用アンテナが設置された事で結果として 現在の 324.0m になりました。

1933年にこの ダイヤモンド・アンテナ( Lakihegy )が竣工した時点ではすでに エッフェル塔が保持していた『 世界一 』の座は ニューヨークにある クライスラー・ビルなどに奪われていましたが、ヨーロッパ地域ではエッフェル塔が最も高い建造物とされていました。

クライスラー・ビルは 1930年 にマンハッタン・カンパニー・ビル( トランプ・ビル )の 284.0m を抜く 319.0m( 283.0m )として竣工しました。 しかし その翌年の1931年にエンパイア・ステート・ビルディング( 381.0m –  1950’s 電波塔増設  443.2m  )が完成した事によりひとまずこの競争は終結したかのような状況となっていました。

 


私には これらの建築物が長期間にわたって自らの荷重や強風、落雷などの影響を克服していることがとても興味深く思えます。

具体的に見ていくと‥ 高さ314.0mの ダイヤモンド・アンテナ( Lakihegy )と 312.3mの エッフェル塔のどちらも基礎には大きな荷重をささえる工夫がされています。

とくにエッフェル塔は おおよそ4000t といわれている東京タワーの2倍位はあるそうです。資料集ではエッフェル塔は材料の錬鉄だけで約7300t とされ、すべて合わせると約9700t から10,000t と推定されています。


この高さと重さを支えるために基部は4脚あわせると そこそこの面積が確保されているのが上の写真からもご理解いただけると思います。

 

また‥  エッフェル塔の基礎部分には面積のほかにも慎重な配慮がなされています。とくに軟弱な地盤であるセーヌ川に面する2脚の基礎工事には 1841年にロワール川の砂洲でフランスの M.トリジェールが世界ではじめて鉄筒( 鉄製ケーソン )と圧気を利用し20mの深さまで掘削・沈設に成功し その後 改良された『  潜函工法(ニューマチック・ケーソン) 』が採用されました。

  

この工法はアメリカ合衆国 セントルイスで 1874年に完成した イーズ橋や 1883年竣工のブルックリン橋 主塔基礎工事、そして1890年に建設されたイギリスのフォース鉄道橋の基礎などでも採用されました。

エッフェル塔は この潜函工法が優れていたことと、塔の基部に水平に保つためのジャッキが組み込まれたことなど‥ 多くの工夫により工期2年2ヶ月と5日で竣工したそうです。

さて‥ もう一方の ブロー・ノックス社が建設した ダイヤモンド・アンテナの場合にも その独特なフレキシブル・ベースには過酷な荷重がかかっています。

   

 

なお、1933年にハンガリー・ブタペスト( Lakihegy ) に 竣工した 初代のダイヤモンド・アンテナ  は 戦時下でドイツ軍により破壊されたため、現在のダイヤモンド・アンテナは 1946年に再建されたものです。

下の図面は アメリカで 1933年に 取得された  ダイヤモンド・アンテナ( Blaw Knox-Antenne )の特許(  USA, No.1897373 )の公開図面で、発明者の Nicholas Gerten さんはペンシルバニア州 ピッツバーグにあるブロー・ノックス社の社員とのことです。

1927年頃にこの構造からはじまったブロー・ノックス・アンテナは改良を重ね 1931年頃には冒頭の写真にあるタイプとなり 1936年の特許( U.S., No. 2116368 the inventors Edward J. Staubitz )のころには全米各地で盛んに建設されました。

それは 1958年にブロー・ノックス社がこの部門を廃止するまで続いたそうです。

 

この設計図のベース部はゆれにくい構造だったようですので、私は 強風や落雷などの影響で初期フレキシブル・ベースは破損が生じたり、想定以上にタワー部がゆれたりして‥ 設計変更がおこなわれたと推測しています。

因みに 1933年に製作されたこの図面に近いのは ノースカロライナ州シャーロットの WBT- AM ラジオアンテナです。

このブロー・ノックス・アンテナは高さ 130.0m( 428 ft ) だそうです。


These towers come down to a small point at the bottom.

設置時から3本で 中央がオリジナル、 左右のアンテナは 1989年9月22日のハリケーン被害により再建されました。

WBT tower :  Charlotte, North Carolina / Three towers 130 m each.

September 22, 1989  :   WBT transmitter towers just after Hurricane Hugo.

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[ 恐縮ですが ここから書かけです。]


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浅草寺五重塔    1855年
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落雷
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1936年 Radio transmitter in Belfast, Northern Ireland  ( 54°29’23” N, 06°03’37” W  –  Elevation / Airde  44.3 m )Tower height  108 m( 354 ft )← 144.8m( 475 ft )

The height of a Blaw-Knox radiator is related to the frequency( or wavelength ) of the service transmitted, and for maximum efficiency should be exactly one half wavelength. Its height was originally 144.8 m, but it was shortened when the station’s broadcast frequency was changed.

Similar masts in Europe can be found nowadays only at Lakihegy, Hungary, at Riga, Latvia, at Vakarel, Bulgaria and at Stara Zagora, Bulgaria; in the US: WFEA tower in Manchester, New Hampshire, WBT-AM tower in Charlotte, North Carolina, WSM-AM tower in Nashville, Tennessee, WLW-AM tower in Cincinnati, Ohio

それから ”Lakihegy” タワーが 314.0m ( 1,031 ft )で竣工した翌年である 1934年にアメリカ・オハイオ州 メイソンに WLWアンテナとして建設されたブロー・ノックス・タワーも参考事例としてあげておきたいと思います。WSMのブロウ・ノックス・タワー

WLWアンテナは高さが 831フィートで竣工し その後の事情で 747フィートに改造されて現在にいたります。そのアンテナ重量は 約 136t だそうです。



上部にある “ダイヤモンド・アンテナ” のおよそ 136t の荷重はこのフレキシブル・ベースの一点で支えられています。このために台座側は 300t 以上の負荷がかかっても破損しないように設計されているそうです。




現在、北アメリカにはブロー・ノックス社が建設した “ダイヤモンド・アンテナ” が 8基残されています。
その中で最も高いのが 1932年にテネシー州ナッシュビル郊外にWSMラジオ・タワーとして竣工した下の写真の塔で、竣工時には高さが 878フィートあったそうです。
これは1939年に受信状況を改善するために 246m( 808フィート)に改築され現在に至っています。このラジオ・タワーの建設以降 ブロー・ノックス社は全米各地からの受注が相次ぎます。 こうして10年後の 1942年には米国内のすべてのラジオ塔の70%がブロー・ノックス社が建設したものという状況を生みます。


   

このWSMラジオ・タワーは 計算値で 約300t の重さとされ、それを支えるベース・インシュレーター( porcelain insulators / 磁器ガイシ )は600tまで耐えられるように設計してあるそうです。

因みに 1932年10月にブロー・ノックス社  “ダイヤモンド・アンテナ 建設チーム” はテネシー州ナッシュビル郊外でこのWSMラジオ・タワーを竣工させるとすぐに 前出のオハイオ州メイソンにあるWLWラジオ・タワーの建設現場に移動し1934年4月14日には それを完成させていますので、工期は1年5ヶ月といったところのようです。



私はこの”ダイヤモンド・タワー( Blaw Knox-Antenne ) “のつり合い方やゆれ方‥なかでも回転運動などの要素が ヴァイオリンと類似していると思っています。
あご当ても含んだヴァイオリンの重さは およそ450g位で全長が590mm前後なのに対し、WSMラジオ・タワーの 300t ほどの質量と 246mの高さは直接比較してもあまり意味はないと思いますが、力学的に考えてみると‥ いろいろ思い当たる事柄があるからです。私は “ダイヤモンド・タワー “の写真を見たときから『 ヴァイオリンの質量の中心はどの位置におかれたか?』について考え‥ 現在も その検証を続けています。

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下のリンクは Tobias Hutzler – ” BALANCE  / バランス・パフォーマンス” です。
(  5分44秒 )

節を重心近くに集めれば、操縦の特性はよくなります。

つり合いという現象

 

 

大型旅客機の重心位置は機体のどの辺にあるのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B747 を例に取りますと重心位置は MAC(Mean Aerodynamic Chord:平均空力翼弦)の 10~31% の間に維持しておかねばなりません。MAC の翼弦長は 327.8inch ですので、その 21% は 68.8inch=1.75m となり、重心位置の許容範囲は大型機でも意外と狭い言えます。その位置は赤い線で示しました前から3番目のドアの所になります。

また重心位置を挟むように重量物である前後のエンジンが配置されてるのが分かると思います。
因みに人間が一人、一番前の席から一番後ろの席まで移動しますと重心位置が約12mm 変化します。

重心位置は離陸時の Stabilizer Trim Setting にも関係しますが、B747 にはノーズギアにセンサーが付いてまして、重心位置が前寄りにあるのか後ろ寄りにあるのかを感知しております。その測定結果と Stabilizer Trim Setting の間に矛盾があると警報を発します。

よほど偏った乗り方をしない限り乗客や燃料による重心位置の変化はそれほどではありませんので、重心位置の調整は主として貨物で行っております。

時々貨物の搭載場所を変えて調整したりしておりますので貨物の搭載管理もなかなか大変な仕事のようです。

【スネーキング現象の特徴】

スネーキング現象とは急制動や速度超過などをきっかけにヒッチボールを
支点として連結車両が屈曲運動を起こして操縦不能になる現象のことで
キャンピングトレーラーなどに起こりやすい現象のこと。
一度起こってしまうと道路に横倒しに横転してしまって2次的にも
重大事故になりがちな傾向があります。
ことが非常に多い危険な事象のことです。
名前の由来はその時のトレーラーの状態が蛇のようにうねって
蛇行運転状態にあることからそのように呼ばれています。

 

 

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