10. オールド・ヴァイオリンの製作技法 ( How to make “High performance stringed instruments”. )

10.  響胴に生じる”回転軸”について

さて 本題ですが、ここから 響胴に生じる回転運動( ねじりモーメント )の軸を、表板が接着されている基準面( horizontal reference plane ) や、ネック軸などとの関係性で捉える考え方についてお話しさせていただきます。

“Josef Schuster Cello”  Rudolf Schuster 1990年
ニスのヒビ割れ拡大図

ニスに入ったヒビ割れを何台も検証していくと、ネックが接続された部分の側板で、 ニスひび割れが 下写真のような『X型』となっているものに出会います。

“Josef Schuster Cello”  Rudolf Schuster 1990年

“Roderich Paesold Cello” Bubenreuth,  1999年

“Karl V. Schicker  Cello” München,  1991年

“Karl V. Schicker  Cello” München,  1991年

“Karl Hofner Cello”  Erlangen, 1970年頃

私はこの『X型』のニスひび割れは響胴が左右にねじりを繰り返しながら揺れたことで生じ、その 回転中心点に Z軸が位置していると思っています。

また、ネック接続部の側板だけでなく このチェロのようにC字部コーナー側板にも同じような『X型』のニスひび割れパターンが確認できたりもします。

このチェロの場合で言えば、ニスひび割れから推測して 上図赤点位置に X軸が貫通する回転中心点が生じたと考えられます。
( 側板にはコーナー部や F字孔も関与しますので ニスひび割れは複雑ですが、それらの要因を読み解き 区別することは可能です。)

“Karl Hofner Cello”  Erlangen, 1970年頃

このように『X型』のニスひび割れから、響胴がねじり( Twist )を反復しながら揺れたということと、回転運動( ねじりモーメント )の軸がそこにあると考えると、6面が相互に関係するイメージが思い浮かべやすいのではないでしょうか。

私は、響胴は箱状のものですから、ルービックキューブ ( 3×3 ) にある X軸、Y軸、Z軸が繫ぐ『それぞれの面にある中央ブロック』のふるまいと同じように、響胴でも それぞれの軸辺りで “連動”しながら回転運動を反復していると考えました。

■  “回転運動軸”の設定実例

オールド弦楽器は、表板が素速く”緩む”とともに、細やかにモードの反転が起こる条件設定とされており、それにより振動エネルギー消費が抑制され、効率よく共鳴部が歌うことで 豊かな音色を生み出せていると思われます。

これを実現しようとした私は、まず最初に『 音のレスポンスが素速いかどうか。』という要素は、それなりに向上させる余地があるのではないか?と考えました。

そして、回転中心となり”節”の役割を果たすゾーンを、ルービックキューブのように素速くリレーションするように工夫することで 一定の効果があることを確認しました。

Old Italian Cello, 1700年頃 / ネック整備 ( 2023-9-27 JIYUGAOKA VIOLIN )

それでは 響きを改善するための具体的な工夫のひとつを、チェロを例としてあげてみます。

私は、演奏者が敏感に響きのコントロールが出来るように、回転運動( ねじりモーメント )のための Z軸( 下図点E )を 少し裏板寄りの位置に置きます。

  1.  ネック接続部尾根( 下図線分A-B )と 斜めに接合された不連続面が成す( 線分C-D ) の交点Eは、その下の参考図のように 側板高さの 2/3位置が収まりが良いですが、可能であれば その位置より1.0~2.0mmほど表板から離します。( 側板117mmで、基準面から78mmの 下例を削り込み形状を修正し79.1mm程とするイメージです。 )
  2. この時 ネック接続部尾根( 線分A-B )は 上から見て”右回転3.8度”程傾けます。
  3. 響胴との接続部でのネック形状は 上から見たときに “台形”ではなく『 三角形であるかのように 斜めに切断( 線分C-D )された 2つのヴォールト構造物が微妙な角度違いで不連続面として組み合わせてあるかのような形状 』とします。
  4. 裏板ボタン部の幅は 28.0~29.0mmで良いと思います。

Cello neck connection point “右回転3.8度”イメージ図

2017年製チェロ 修理前の設定 ( Neck connection point “右回転1.5度”)

この設定は、ネックの回転運動( 下例で例えればモーター軸 にあたります。)と、響胴側中心軸( 上図点E )の “ズレ”が大きくなった結果、”偏心重り”が揺れるのと似て・・ 響胴側の振動が より激しくなり、レスポンスが改善するとともに キャリング・パワーが増加します。

 

 

 

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