“オールド・チェロ” の 特徴について

チェロなどを観察する場合に 楽器が『オールド・チェロ』で、その上に A コーナーに加工がされたタイプであれば それほど判断に迷う必要はないと 私は思います。

Antonio Stradivari 1673年Harrell - Du Pre - Guttmann - C LAntonio Stradivari  1673,  Violoncello ” Harrell, Du Pre,  Guttmann ”

このストラディヴァリ 1673年の A コーナーは 摩耗に見えますか?

Giovanni Baptista Rogeri cello 1695年頃 - C L
このチェロは ブレッシアに生まれ、ニコロ・アマティの工房で修行を積み 1670年頃にブレッシアに戻って製作家となったといわれている ロジェーリ作とされています。確かに 私もはじめの頃は このタイプの場合は より注意深さが必要と感じていました。

Grancino cello made around 1690 cooper-collection - A LGiovanni Battista Grancino ( 1637-1709 ) Milan 1697年 - A L A コーナーと B コーナーの差が見えやすい グランチーノと ストラディヴァリのチェロ画像 三枚です。

Antonio Stradivari cello 1707年 Boni-Hegar - G L
そして 私自身が 摩耗説が誤りであることに気づく きっかけとなった『 オールド・チェロ 』の写真です 。

Old Italian Cello c1680 - 1700 ( F 734-348-230-432 B 735-349-225-430 stop 403 ff 100 ) - 1 LOld Italian Cello    1700年頃
( F 734-348-230-432,  B 735-349-225-430, stop 403 ff 100 )

著名な楽器で 参考例を挙げるとすると、ストラディヴァリ・ソサエティのヨーロッパ代表 エドゥアルド・ウルフソン( Eduard Wulfson 所有し、ナターリャ・グートマン( Natalia Gutmanさんが使用している グァルネリ・デル・ジェスが製作したとされる このチェロが『 A コーナーに施された加工 』の代表事例といえるかもしれません。

Guarneri 'del Gesù' cello 1731年 - A L

” Guarneri del Gesù ”
Bartolomeo Giuseppe Guarneri ( 1698-1744 )
Violoncello  1731,  ” Natalia Gutman ”

私はこのチェロを 知らなかった8年ほど前に 共通の知人から ウルフソン( Eduard Wulfson 氏が グートマン( Natalia Gutman )さんたちと美術館のなかでトリオで演奏している DVDをいただき拝見したのですが 、このチェロがもつ深い響きには衝撃をうけました。

Guarneri 'del Gesù' cello 1731年 - C L

Guarneri ‘del Gesù’   Violoncello  1731,  ” Natalia Gutman ”

Bach :  Suite for solo cello No. 3 in C major
( Paris, Musée du Luxembourg,  2002/11/16 )
Natalia Gutman,Violoncelle

【Bach, Mozart, Schubert 】”La Société Stradivarius”
Yvietta Matison, Alto ( instrument )
Eduard Wulfson, Violin


 A コーナーに施された加工 』と指摘している 摩耗痕跡は ガルネリが製作したとされるチェロ以外にも、下写真の Francesco Ruggieri  ( ca.1645-1695 )が 1675年に製作したとされるチェロでも見ることが出来ます。

Francesco Ruggieri cello 1675年 - A L

Francesco Ruggieri  ( ca.1645-1695 ),  Violoncello 1675年

確かに、チェロは A コーナーにひざを添えたり グリップしたりする際に触れることがあるので 摩耗痕跡は それにより生じたように見えます。

Joseph Thomas Klotz Violoncello piccolo Mittenwald 1794 ( 1743-1809 ) Sebastian 1696-1768 - C LJoseph Thomas Klotz  ( 1743-1809 )  Violoncello piccolo  Mittenwald 1794年

ところが 摩耗痕跡をよく見ていくとそれが不自然である事に気がつきます。上のクロッツで これを見ると コーナーである A 部の塗装は多少はがれていますが、それよりも Q 部の方がもっと 剥がれています。そして問題なのは この Q 部に 演奏時にチェリストが 触れることは まず無いということです。

これは R 部についても言えますが、 実際にチェロの肩にはさわりますので 判断しにくいと思われる方のために 次の事実を指摘しておきたいと思います。

版画で使用する版木は 凸部が紙にふれくぼみ部は接触しないことで役割をはたします。摩耗する場合もおなじことで凸部が摩耗することがあっても くぼみ部は摩耗しないのが普通です。

なのに‥ 上のクロッツでいえば 摩耗したようになっているゾーンの中でも特に Q 部と S 部は谷状にくぼんだ部分なのに塗装が剥がれた様になっています。

Giuseppe Antonio Rocca ( 1807-1865 ) Violoncello 1850年 - D L
それから、これらを 演奏や運搬による摩耗であるとすると 当然ですが それなりの期間使用される必要があります。

弦楽器製作の黄金期が終わる1750年から 100年後、日本では江戸時代末期なわけですが この時期に製作された弦楽器の 摩耗痕跡は、私が “意図的加工”と考えたことの最終的な証明となっています。

この時期に 厳密な意味で最後の名工である ヨーゼフ・アントニオ・ロッカ( Giuseppe Antonio Rocca 1807-1865 )は トリノなどで 弦楽器製作をおこなっていました。

私は このチェロで コーナー部に設けられた面積の差から 彼も左右の非対象性( アシンメトリー )が弦楽器における古典的技術の特質と考えていたと思っています。

Giuseppe Antonio Rocca Torino 1850年頃 - A LGiuseppe Antonio Rocca( 1807-1865 ),  Contrabass  1850年頃

これは上のチェロと同時期に製作したとされる コントラバスの コーナー部面積の非対称性によって論じる必要がない事実と確認出来るのではないでしょうか。

コントラバスは A コーナーにひざを添えたり グリップしたりする事は 100パーセントありませんので ここの 摩耗痕跡は 当然ながら 製作時の設定と判断することが出来るからです。

Giuseppe Antonio Rocca Torino 1850年頃 - B LGiuseppe Antonio Rocca( 1807-1865 ),  Contrabass  1850年頃

2016-10-22      Joseph Naomi Yokota