弦楽器の『響』の話

      1585年の クレモナから遠く離れて…。
【 忘れられた“ ヴァイオリン ”という楽器達 】
                                                                                                                                                                                              

 

                    『  本当に良い楽器とは ? 』

ルネサンス終わりの1500年代の中頃ヴァイオリンという楽器は生まれました。そして、その後改良が進み1700年頃にはヨーロッパのあちこちで数多くの名器が作られました。ところが1538年頃を始めとする ヴァイオリン製作流派で有名なイタリアのクレモナ派が1817年のJ・B・チェルーティの死により絶えてしまったように1800年代はじめには他の地域も衰退し復活することはありませんでした。注)1     私も1983年にヴァイオリン製作の仕事に入ってしばらくこの混乱した状況に苦しみましたが、独自に研究を進め “ ヴァイオリンの名器とは何だったのか? ” の答えを得る事が出来ました。そこで弦楽器や音楽をより皆さんに楽しんでいただく為にその研究成果をお話ししようと思います。

2010年 10月  横田直己

注)1 これは息子のモーツァルト(1756~91)が生まれた1756年頃父であるレオポルト・モーツァルト(1719~1787)が出版した本( ”Versuch einer Grundlichen Violinschule ” L.Mozart / 塚原哲夫訳・全音出版 )の第一節5ページに『今日のバイオリン製作者が、仕事の仕上げに労を惜しむのは非常に残念なことです。(中略)彼らは、高さ、厚さ等々を全て目で決め、一定の原理を決して得ようとはしません。従って1人が成功しても、他は失敗するのです。これは音楽の美をそこなう邪悪です。』とすでに1700年代半ばに未熟なバイオリン製作者が大勢いたことが記されています。

また1892年頃パリ音楽院でマルシックに学び1903年からベルリンの音楽大学教授で影響力が大きかったカール・フレッシュ(1873~1944)が1923年頃出版した”ヴァイオリン演奏の技法 / 佐々木庸一訳・音楽之友社“の2ページには『私たちが相変らず一七世紀と十八世紀のイタリー製楽器を唯一の頼りとし、十九世紀に作られた、立派な演奏用ヴァイオリンを殆んど持っていないのは、主としてヴィヨーム(J.B.Vuillaume 1798~1875)のせいである。彼は「蒸気乾燥」によって約三千の楽器を演奏用ヴァイオリンとして役に立たなくしてしまった。彼の崇拝者や模倣者が彼に真似て「蒸気乾燥」によって作った同数のヴァイオリンをこれに附け加えるなら、少なくとも六千の立派な、魅力のある外見を持った楽器が、ヴィヨームの偏見によって私たちの芸術のために使いものにならなくなった訳で、全く惜しいことをしたものである。ところでヴィヨームは彼の初期と後期に通常のヴァイオリンを作成した。それらは、すばらしい音を持っているだけに、彼の不幸な病癖のために私たちが蒙った損失をますます痛切に感ずるのである。』と嘆いていたりします。