女性の背中? いいえ。 バイオリンの形は これです !

ヴァイオリンの響胴は スピーカーのように空気を震わせる『 変換点 』と、そこを効率よく 振動させるためのしかけである 『 駆動系 』でできています。 そして響胴のフォルムのイメージは『 駆動系 』の要素が大きく反映しています。 響胴の動き ( 『 駆動系 』 )は 3系統ありますが 下に2系統をあげました。

   

上の折りたためる箱は ① 点Cと点Dを近づけると同時に ② 点Aと点Bが近づきます。 逆に ③ 点Cと点Dを離すと 同時に ④ 点Aと点Bが離れます。 子供の時に これを繰り返して箱をパコパコ動かして遊んだ経験がある方は多いと思います。
ヴァイオリンなどの弦楽器では弦が張ってある上下方向が点Cと点Dです。 私はこれを 『 縦の駆動系統 』とよび、 点Aと点B方向の動きを 『 横の駆動系統 』とよんでいます。

    注)1 

先ほどの動きを ティッシュペーパーの箱で再現してみました。  上左写真のように変形させると『 縦の駆動系 』と『 横の駆動系 』が同時に動きます。 つまり弦が振動して 点Cと点Dが押され近づくのと同時に点Aと点Bが近づく動きと逆に、 点Aと点Bを私が指で押しているのでティッシュペーパーの箱ですから下の写真のように真横から見ると並行だった点Cと点Dが横からみると 『 ハ 』の字型に変形して、 弦の圧力で動いたのと同じ状態になっています。
ヴァイオリンの形状はこの動きがスムーズになるように上のティッシュペーパーの箱のシルエットを丸くヒョウタン型に設定したのが 取り入れられています。 そうして上右写真のように『 横の駆動系 』の受け皿として 『 孔( あな)』を開けることで小さい力で大きな面積が動くように設計した弦楽器が 『 原型 』となりました。

そしてこの『 駆動系 』の一連の動きは『 孔( あな)』の長さや 縦と横そして高さの割合などでおおよそコントロール出来るために、 『 原型 』楽器は点Cと点Dの2ヶ所に建物の『 大黒柱 』にあたる 『 ブロック 』が入った弦楽器として製作されました。

 

 

 注)2  注)3

こうして『 原型 』楽器の製作が続けられるうちに『 孔( あな)』周りの工夫が進みました。  そして、ついに上写真のヴィオラ・ダ・ガンバのように これらの工夫の集大成として考案された『 F字孔 』を取り入れた弦楽器が出現します。

 注)4  注)5

サウンド・ホールの機能が高められるなかで よりすばやい音の立ち上がりや、 響胴が持つスピーカー( エネルギー変換点 )としての役割を整えるために 16世紀半ばには左上のガスパロ・ダ・サロ作とされる リラ・ヴィオラのように コーナー・ブロック( 三角柱 )を持つ弦楽器が製作されました。 この『 孔( あな)』周りの工夫は数多くのヴァイオリンが製作されるようになっても、 上右側のイングリッシュ・ヴァイオレットのように18世紀まで続けられました。  こうした努力が続けられるなかで16世紀の中頃に4つのコーナー・ブロックを持った弦楽器として誕生したヴァイオリンはアルカンジェロ・コレッリ Arcangelo Corelli( 1653~1713 )などの演奏家の登場という追い風をうけて ヨーロッパ全域へ普及していきました。

 注)6  注)7

ヴァイオリンの美しい響きは 例えば下の図のように 胴体のくびれている場所をひとつとっても 表板と裏板の幅をほんの少しかえるだけで振動するゾーンを慎重に選択してつくられています。

 

 

 

他にも 下の写真のように点Aと点Bが押す力は 『 孔( あな)』だけでなく点Eと点Fにも流れ込むように工夫されていたり、 裏板の点G ( アッパー・バーツ・ライン )に重要な 『 節 』を設定してあったりなど 『 システム 』と呼ぶに相応しい複雑な仕組みを取り込んだ結果が おなじみのあの形で結実しているのです。

上記で引用させていただいた写真資料は次の書籍に出ています。

注)1 ” Catalogue of The Hill Collection of Musical Instruments / in the Ashmolean Museum, Oxford  ” :    David D. Boyden    ( First published 1969 and reprinted 1970 )      VIOLS – 1
注)2 ” 450° Anniversario della nascita di Gasparo da Salo ”  1990  Brescia – TURRIS  Cremona  :   48ページより Viola da Gamba       Zanetto De Micheli
注)3 ” Analysis of Antique Instruments and Restoration Techniques ”   Carlo Vettori  :  Firenze  1996     50ページより ” Gasparo da Salo ”  viola da gamba
注)4 ” Catalogue of The Hill Collection of Musical Instruments / in the Ashmolean Museum, Oxford  ” :    David D. Boyden    ( First published 1969 and reprinted 1970 )      VIOLINS -  9
注)5 藤原義章 著 ” ヴァイオリンとヴィオラの小百科 ”   1990年 春秋社刊
http://www.shunjusha.co.jp/detail/isbn/978-4-393-93748-8/
92ページ掲載の 沢辺稔 氏が修理中のイングリッシュ・ヴァイオレット( 筆者所有 )写真。
注)6 2009年 ” 第8回 ストラディヴァリウス・サミット・コンサート演奏会カタログ “より 19ページ 写真家の横山進一さん撮影  『  Stradivarius Hamma 1717 』 写真。
注)7 Nurnberg : Germanisches Nationalmuseum  資料より
http://www.gnm.de/besuch.php