3. 楽器表面は凹凸です。

チェック・ポイント 3 - 左F字孔の外側部の “固定端” 

これまでに触れましたが楽器の“響”の基となる振動は “節”(ベース)と“腹”で出来ています。 このしくみを取り入れたオールドヴァイオリンを丁寧に観察すると 振動するゾーンを明確にしたり進む方向を整えたりするために 多数の“尾根線”や“谷線”を見つけられます。 例として庄司紗矢香さんのプロモーション写真を引用させていただくと、 楽器の一部表面が光る角度で撮影されたために このストラディヴァリの右側F字孔外側に”節”が写っています。

さきほど胴体の全景写真を参考例として挙げましたが、これは 東京芸術大学の先生が35年前に使用していた “デル・ジェズ”のF字孔写真です。 私はこの写真で撮影光線の条件を工夫することで “節”を写真に撮れることに気付くとともに本格的に資料を集め始めました。 この頃オールドヴァイオリンの表面の凸凹の付き方にいくつかのパターンがあるのは知っていましたので それを立証しようと考えたのです。

さて凸凹のパターンでヴァイオリンの名器を読み解く実例を見てください。 まず Bartolomeo Giuseppe Guarneri (1698~1744)が 1740年頃制作したヴァイオリンと 祖父のAndrea Guarneri (1626~1698)が1658年頃に作ったヴァイオリンを比較してみたいと思います。 ここから3枚続けて光線角度を変えて撮影した写真を見てください。

2枚目の写真です。  右側のF字孔外側を見ておいて下さい。

さて3枚目の写真です。 光線の角度が合ったために右側のF字孔外側に“こぶ状の節”が現れました。 次に胴体全景写真を掲載していますので納得いただけると思いますが “そこそこの大きさの節”として刻まれています。 また2枚後の左側F字孔の “こぶ状節”の写真を見て頂ければ 『なるほど…。』と思って頂けるかも知れません。 右の“節”は “デル・ジェズ”の方がより強化されていますが 左側はだいたい同じ規格で作られています。 この他にも“焼痕”に共通性が見られたり、後ほど触れたいと思いますが“F字外側のウイング角度差”が近かったりするなどの点から、私は前出の“デル・ジェズ”が制作された1740年頃 お孫さんが祖父達が駆使していた技術を意識してヴァイオリンを制作していた証拠と考えています。 このような極端な“節”は数が限られていますが 最初に挙げた庄司さんが使用している1715年製ストラディヴァリ “ Joachim ” に見られるような “こぶ状の節”はオールドの弦楽器ではよくあります。

 

アンドレア・ガルネリが1658年頃制作したこのヴァイオリンの左側F字孔の“節”は、F字孔のはるか上から “ THE NICK ” のところまで真直ぐ下りて来ています。  ピークはの “ THE BASE ” の場所です。 F字外側が下に突き出したゾーンのつけ根には の場所に針で入れた“焼痕”が 8ヶ所入っていて一列にきれいに並んでいます。 このラインは固定端反射のための“節”なので重要ですから見やすいように白点を入れました。

前出のスミソニアンに展示されている Antonio Stradivari ( c.1644~1737  )の名器 “ Parera ”  1679年の左F字孔の外側下部にある“刻み目”は “節”( THE BASE )をアシストするためのものです。 このライン上には ●  “焼痕点”を少なくとも 5ヶ所確認できます。 前のページと同じように白点をラインを見やすくするために入れてあります。

 

このヴァイオリンは David Tecchler ( c.1668~1747 )がローマで 1720年頃制作したと考えられるものです。 F字孔周りにいくつも“刻み目”や “焼痕”がみられますが 特に外側下部の段差として仕上げてある“節”は 巧く作り込まれています。  このヴァイオリンの“焼痕点”は が上から書き込んであるように 少なくとも10ヶ所あります。  この固定端の役割をはたすラインで 意味深いのは前出の “デル・ジェズ”やストラディヴァリと 角度がほぼ同じということです。 またこのラインを強めるために“刻み目”が同じく利用されているのも見ておいて下さい。