ヴァイオリンを見るための条件を知っていますか?

1988年に Hans Weisshaar and Margaret Shipman が ” Violin Restoration – a manual for Violin makers ” のタイトルで出版した本の 160ページより引用させていただきました。 彼は胴体にネックを取り付けるために駒に合わせてネック ( 指板 )の角度と方向を確認しています。 彼がスクロールに 『 Kiss 』している理由( わけ )をお話します。

物を正確に 『 見る 』ためには人間の眼における生理学的な仕組みを知っている必要があります。  このことに関して社団法人 日本自動車連盟 ( JAF )の会員誌 ( JAF MATE 2001年11月号 PP.20~22 )記事を引用させていただきます。  これは交通心理学の専門家の元 中京大学心理学科教授である成定康平氏に対するインタビュー記事です。

人間の眼の3つの特性を知っておくと 『 見え方 』が変わります。 一つめが ” 中心視野周辺視野 “です。 『 … 通常、人間の視覚は上下に 60度前後、左右に約 110度ずつの広い視野を持っている。 両目では左右 220度になるから、前方のほとんどが見えていると思いがちだ。 しかし、本当に見えているのは 真ん中のわずか 5度 。 ここが視力 1.3 くらいだとしたら、周りはたったの 0.3 くらいにしかならないという。 「 つまり、実はものすごい小さな点でものを見ているんです。 だからこそ手品師が客の目を欺けるんですよ。』 、 二つめが ” 視線が向きやすいもの “で 『 …視線と聞くと、気になるものに向かうという感覚があるが、実は「 明るさが異なるもの 」、「 動いているもの 」に向かう傾向があるのだという。』 そして 三つめが ” 視線の動き ” です。 『 … それは、素早く目を動かした時に起こる現象だ。 「 ちょうどスライドを替えた時のような状態が起きます。 目を動かす前と動かした後の中間が見えない。 これは眼球が移動する時にはものを見る能力を抑制する働きがあるためで、 跳躍抑制 といいます。」 … 』 つまり 私たちが見えていると思っている映像は、人間の脳が自動補正したものを認識していて 事実と違う思い込みの元となっているそうです。

上写真の 胴体とネックの角度、方向を確認している彼は ヴァイオリンに対して角度を浅くして 中心視野に指板をしっかり収め 視線のさまよいが無いようにスクロールに 『 Kiss 』している姿勢をとっているのです。 これらのことから ヴァイオリンを見るときには じっと目をすえて、可能なかぎり中心視野をつかって 『 見る 』と 想像以上に複雑な作りになっていることが見えてくると思います。