バイオリンなどの弦楽器の 『 疲労破壊 』について。

2011-1-4  17:00

   

上写真は春先に販売した 1/2サイズのSUZUKI バイオリン ( No.280  )を その1ヶ月後に 修理のために表板をはずした時に撮影したものです。 これは 1992年の5月のことでした。 上の左側の写真でわかるように 新品で使いはじめてわずか1ヶ月で バスバーが剥がれています。 当然ですが すごいノイズ ( お子さんのお母さんもビックリするような 『 ダダダーッ!』という音がしました。)のため当然修理が必要で、購入していただいたお客さんのショックが深くならないよう、翌日にお渡しするためにすぐに修理にはいりました。
この仕事をしているとたまにこういうケースに遭遇します。 下にあげた写真は 1998年に同じくバスバーが剥がれた コントラバスを私の工房で撮影したものです。

このコントラバスはビオラを弾かれる顧客の方が支援しているオーケストラに貸し出しているもので、エンドピンが固定してある部分が陥没変形したということで相談をうけ 修理することになりました。

   

破損はまず エンドピンを固定しているブロックの剥がれを確認しました。 これは結構強いひずみがこの場所に長期間たまっていた痕跡でした。 下右側に私が側板とブロックをニカワで接着するために クランプで絞め込んで固定した写真をあげておきましたが これくらい圧力を加えてやっと元のように隙間なく接着できました。

    

そしてもう一つの破損が エンドピン側バスバーのはがれです。 それと表板の割れには至りませんでしたが 魂柱が1ミリほどめり込んでいたのを薄いニカワを浸みこませて修復することになりました。

はじめは 私もこれらのバスバー剥がれなどは 接着強度の不足が原因なのではないかと考えました。 しかし多くの『 疲労破損 』の原因を調べた結果 バランスが調和していない状態で 『 強制振動 』をさせた事が 響胴の変形につながり 表板や裏板が割れるかわりに バスバーがはがれたという因果関係に気がつきました。
これは 弦楽器を扱う上で重要な事実なのでもう一度言わせていただきます。
これらの破損は強度不足が原因ではなく、弦楽器を弾く人が胴体を振動させた力が、ひずみに溜まったことが原因となっ胴体が変形して生じました。 そうすると冒頭にあげさせていただいた 1/2サイズの SUZUKI バイオリン ( No.280  )の わずか1ヶ月は みごとですね。 因みに私は分数サイズを中心に 大量のSUZUKI バイオリンを販売しましたが、同じ事例は 新品のSUZUKI ではこの写真のケースもいれて2件で、10年前後経った楽器でも5件ほど出会っただけですから 『 事故率 』は、他社のバイオリンと ほぼ同じであることを 申し添えておきます。 おかげさまで私は 弦楽器を鳴らした事による破損により、弦楽器のしくみの読み解くヒントを いただきました。