yokota のすべての投稿

表板の起伏が少ないヴァイオリンに合う最良バスバーについて


November 22, 2025 / 17:39   
Weight without parts  330.0g
●  Weight without chinrest  371.1g
Total weight with chinrest  415.6g

“表板の起伏が少ないヴァイオリン”のためにバスバーを製作するのは本当にスリリングです。

当然ながら それらの作業はレスポンスや響きが直接的に確認できない、表板がはずされた状態で実行されます。

ですから、担当する人には 起伏が少ない表板に直交するバスバーの自在性のゆえに 、性能についての”構想力”がより問われることになるからです。

ともあれ、先日のことですが “表板の起伏が少ない新品ヴァイオリン”を改作して、私としての最終的な検証実験をおこないました。

① 検証ヴァイオリンの完成日 2025年11月30日
② 所有者に納品した日 2025年12月2日
③ ピアノ三重奏曲演奏会 2025年12月17日
④ 経過観察

それは、改作したヴァイオリンに弦を張って仕上げてから 3週間後に、その新品ヴァイオリンを演奏会で使用するという なかなか緊張する仕事ではありました。

Violin adaptation completed : November 30, 2025
Bass-bar height 14.8mm / Arch height 16.0mm 

December 28, 2025
これは、そのヴァイオリンが完成してから 1ヶ月後の響きです。

( ●  この投稿の最後に December 17, 2025 の昼過ぎに演奏会場で( スイッチを入れたばかりの空調機ノイズがあります。 )キャリング力を確認するために録画したものも参考として置いてあります。 )

因みに、私が このテーマに取りかかったのは2021年のことでした。この時 私は1994年製ヴァイオリンに、“27年前”に入れられたオリジナル・バスバーの交換などを依頼されたのです。

Gio Batta Morassi ( 1934-2018 ) Violin, Cremona 1994年

そのヴァイオリンは表板アーチが高さ16mmで 全体感として重く感じられ、響胴アーチも 剛性のキャラクター設定が難しい”起伏が少ないタイプ”でした。

Gio Batta Morassi( 1934-2018 )  Violin, 1994年
Bass-bar height 14.0mm  /  Weight of the top plate  81.5g ( including bass bar 4.9g )

Fingerboard  68.0g  /  Nut  1.0g
Head( after tuning peg holes ) and neck  71.0g
Total neck weight 140.0g

Weight without parts  405.0g
  Weight without chinrest  455.0g
Total weight with chinrest  521.0g

さて、少し話がそれますがこの時の視点についてお話しさせてください。

私はヴァイオリンやビオラ、チェロの音響上の特質は”共鳴( レゾナンス )”にあると考えています。それは、駆動部である弦の振動エネルギーが 従動部の”変換点”となるゾーンに留まり続けているつかの間だけ生じるものと考えられます。

駆動部である弦の振動は進行波と反射波で成立しており、下記の特徴があります。
●  P波 = 一次波( Primary wave : プライマリー波 )
速度が速く、最初に到達し、縦波であり、波の進行方向に縮んだり( 圧縮 ) 伸びたり( 膨張 )する動きをします。これは 固体、液体、気体のすべてを伝わります。
●  S波 = 二次波( Secondary Wave : セカンダリー波 )
速度が遅く、P波の後に到達し、横波であり、物質を上下に揺らす動きをします。基本的には固体のみに伝わります。

そして、従動部の”運動”では てこ原理による 振動波の増幅と、”変換点”にあたるゾーンの”ゆるみ”が生みだされています。

ですから、弦楽器においては 部位ごとの重さと”対”となるバランス、回転中心設定、回転半径、そして”力のモーメント”( 物体に加わった力が物体を回転させるときの力の大きさ )が重要と考えられます。

これらの事を念頭にオールド・ヴァイオリンなどを検証した結果、私は ペグや魂柱などのパーツを全て外した状態での標準的なヴァイオリン重量( Weight without parts )は 330g~340gであると考えていました。

●  ヴァイオリン( パーツ無し )において”対”をなす部位の重さ比率

  • ヘッド部、指板を含むネック側と響胴の重さ比は 1 : 2  ( 330gとした場合 110g : 220g )
  • ヘッド部をなす渦部( Volute )とペグボックス部の重さ比は 1 : 1  ( おなじく参考値で 18.3g : 18.3g )
  • ルネサンス期までのヘッド、ネック部と指板の重さ比は 2 : 1  ( 73.3g : 36.7g )
  • 響胴部をなす表板とそれ以外( 裏板側 )の重さは比は 1 : 2  ( 73.3g : 146.7g )

ともあれ、表板設定などにより… 絶不調に陥っていたヴァイオリンを、最良のレスポンスや響きが生じるようにとのことでしたので、私にとって この時の仕事は難問でした。
2021年 Bass-bar height 13.4mm  / Weight of the top plate 81.0g ( including bass bar 4.4g )

そして 熟慮の末に、高さ14mmであったバスバーを 高さ13.4mmのものに入れ替え、想定したような性能で仕上げました。2025年 Bass-bar height 14.8mm  /  Weight of the top plate72.7g ( including bass bar 6.1g )

それから時が経ち、ヴァイオリン、ビオラ、チェロでバスバーをいくつも製作し さらに検証を進めた結果、レスポンスや響きのキャリング力を高めるためには、やはり 高さを最大化することが重要だと確信するようになりました。

そこで 解決策として、私は ”仮想交差節”という考え方を導入しました。

2025年 November 15, 0:18  Bass-bar height 14.8mm / Arch height 16.0mm / Weight of the top plate72.7g ( including bass bar 6.1g )
It is perpendicular to the surface on the F-hole side.

Joseph Naomi Yokota  Cello, Tokyo anno 2025 /  Arch height 32.0mm / Bass-bar height 29.6mm  Antonio Stradivari  Cello,  “The Stauffer-ex Cristiani”

VIENNA micro-CT LAB  /   “Old violin”
Antonio Stradivari  Cello, “The Stauffer-ex Cristiani”, 1700年

バスバーの”大型化”は、チェリストのロンベルクが 1840年に出版した”チェロ奏法”の参照図のように、19世紀には既に ひとつの選択肢となっていました。

Method book “Violoncell Schule”, 1840年刊

Method book “Violoncell Schule”, 1839年著 / Bernhard Heinrich Romberg ( 1767-1841 )
June 26, 2024 / 12:42   I made a “bass bar” for a violin.
ところで バスバー設定は、外から確認しにくいので演奏者に問題とされることは少ないようですが、2024年にバスバーを製作したこの楽器のように、実際にはヴァイオリンやチェロの不調の原因となっている場合も多いようです。

   

チェロの実例をあげてみます。これは 1989年に東京、東五反田で受注製作されたチェロですが、演奏による表板変形破損が何度も生じ、その度に 製作工房で緊急修理や改修が加えられました。

   

それでも 不調が解決できなかったので 所有者の判断により、2024年でしたが、私にバスバー交換などが依頼されることになりました。この時にチェロに入っていたバスバーは “27年前”の1997年に作られたものでした。

また、下写真の1700年頃製作されたオールド・チェロの場合は、1986年に取り付けられたバスバーが 外から見て0.4°右回転しかしていない設定だったために、ネックとの連動が不十分で キャリング力が思わしくありませんでした。

 

そこで、2023年( 前バスバーから”37年後” )に私が 1.2°右回転のバスバーを製作して 良好な状態にもどしました。これを 外から見たイメージとなるように下に左右反転画像としてならべてみました。

     

ネックとバスバーが対応しながら響胴に”ねじり”が生じるために、バスバーが垂線方向に対して適度な角度であることが重要であることを理解していただけるのではないでしょうか。

因みに、オールド・ヴァイオリンに取り付けられたバスバーにも このように大きく右回転させた事例も存在しています。

     

このようにバスバーを大きく回転させたものは “Viol属”などで よく見られますが、”ヴァイオリン属”では19世紀になると急激に少なくなりました。それと、参考例として 他のバスバー画像も少しならべておきます。

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin,  “Auer”  1699年Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 )  Violin, “Conte de Fontana” 1702年Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) Violin, “Provigny” 1716年Leopold Widhalm( 1722-1776 ) Violin,  Nurnberg‘Pietro Guarneri’ of Venice( 1695-1762 )  Violin, “Baron Knoop” 1740年Santo Serafin( 1699-1776 ) Violin,  Venice 1740年
Giovanni Battista Guadagnini( 1711-1786 )  Violin “Kleynenberg”, Torino 1783年

このような構造になっているために、弦楽器の響胴は 表板の材質やアーチ形状、F字孔の設定などと、バスバーのネック相対角度や傾斜角度 そして“厚さ”“高さ”などの剛性条件と、表板をゆるませる機能が調和する必要があり、上手くいかなかった時にはバスバー剥がれなどの不具合まで起こします。

工場製新品で販売し“1ヶ月後”に剥がれたヴァイオリンのバスバー

たとえば 下写真の”バスバーが外れた”ので、私が “12年後”に修理を依頼された、ピグマリウス”REBIRTH”リバース シリーズの 2001年製ヴァイオリンのような破損です。Pygmalius “REBIRTH” Series  Violin, 2001年 / Bass-bar thickness 6.4mm / Bass-bar height 11.6mm    

写真でわかるようにバスバー両側が完全に剥がれていて、指板下の表板ジョイント部も 140mm程にわたり開いていました。


このとき、中央ジョイント剥がれを撮影するために 表板をさわっていたら『パキッ 』という音とともにバスバーが外れてしまい、この景色となりました。表板を開けなければ このバスバーは響胴のなかで脱落し 「カラカラ」と音をさせていたはずです。  Pygmalius “REBIRTH” Series  Violin, 2001年
  Weight without chinrest  410.0g

これが脱落したバスバーをE線側から見たものです。
Pygmalius “REBIRTH” Series  Violin, 2001年
Weight of the top plate78.9g ( including bass bar 5.9g )

このバスバーは 長さが 275mm、 上下スペースがネックブロック側 39mmのエンドブロック側 40mmで、厚さは 写真向かって左のネック側端が 5.5mmで駒部 6.4mmのエンドブロック側端が 5.8mmです。

そして バスバーの高さは、駒部が 11.6mmで両端が 4.5mmとしてあり バスバーが厚すぎたことで極端に剛性が高まり この高さでもアウトとなりました。

なお、このヴァイオリンのあご当て無しでの重さは 410g程で、そのうちバスバーの重さは 5.9g、 バスバーがない状態の表板は 73gでした。

悲しい状況証拠ですが、この”ピグマリウス”は 響胴の変形疲労のために、魂柱( Soundpost )が立っていた部分が表板、裏板ともに窪んでいました。これこそ、バスバーが響胴と調和しておらず”鳴らすと壊れてしまうヴァイオリン”の典型例だと思います。


Pygmalius “REBIRTH” Series  Violin, 2001年

製作されてから わずかの期間しか経過していないのに”満身創痍”といった状況ですね。

そして、2008年にバスバーの高さが 15.0mmで製作されたヴァイオリンで、“16年後”の2024年に表板が扁平となりバスバー両端が剥がれたのも同様な事例となります。

December 15, 2024  /  Genji Matsuda Violin, Newark 2008年
Weight without parts  361.3g
●  Weight without chinrest  406.7g
Total weight with chinrest  472.5g

       
December 15, 2024  /  Genji Matsuda Violin, Newark 2008年

バスバーの尾根を尖らせ三角断面とする工夫をもってしても、その高さが 15.0mmもあると 表板の振動と適合させるのは難問です。

それは、上の写真に写っているバスバー両端の剥がれぐあいからも判断できるのではないでしょうか。

December 15, 2024  /  Genji Matsuda Violin, Newark 2008年

また、このようなバスバー端の剥がれを嫌って 現在、修理中のヴァイオリンのように、製作時に バスバー端に”剥がれ防止ニカワ”を垂らして剥がれを阻止したものもあります。

December 5, 2025  /  16:33  Violin, 1980年頃
Weight without parts  414.5g
  Weight without chinrest  460.0g
Total weight with chinrest  510.3g

しかし、これらのバスバー剥がれは表板の”つり合いの破れ”が原因ですから、そのニカワ加工により歪がより増大し バスバーが反対側( 上写真 サドル中央左 )の割れを誘引したり、中央の継ぎ目が開いたりします。このヴァイオリンは30年以上使用されていなかったために、製作されてから“45年後”にバスバーが入れ替えられたことになります。

1980年頃 Violin, bass-bar height 13.2mm  /  Weight of the top plate90.6g 

December 5, 2025 / 16:40  Violin, 1980年頃

December 23, 2025 / 19:32

それから、Charles J. Rufino氏が 2008年に製作した ビオラ( 402mm ) は、魂柱のめり込みからも分かるように 使用して数年で疲労変形が進み鳴らなくなりました。

そのため 困り果てた所有者の依頼により、製作されてからわずか6年後でしたが…  私がバスバー交換などを実施しました。

Charles J. Rufino  /  Long island, New york : Viola( 402mm ) 2008. Bass-bar height 14.9mm  / Bass-bar thickness 6.0mm / Weight of the top plate101.1g / Weight without parts 530.0g
●  Weight without chinrest  592.0g

Viola( 402mm ) Bass-bar height 15.0mm / Bass-bar thickness N5.4mm – B5.6mm – E5.5mm / Weight without parts 495.0g
  Weight without chinrest  555.4g


これが、2013年12月に “自由ヶ丘ヴァイオリン”において 製作したバスバーです。このビオラは 私が定期整備を担当しており、2026年現在でも良好なレスポンスや響きを発揮しています。

   

左:  疲労破損模型  /  右:  修復後資料( 左右反転画像 )


“応力つり合いモデル”

ともあれ こういった不具合を生じさせないように、私は “ねじり”を阻害しない配慮をしながら バスバーの最大化を進めました。

Antonio Stradivari (ca.1644-1737 ) Cello “Stauffer / ex Cristiani” 1700年

July 30, 2023  “Old Italian Cello, ca.1700”  :  Arch height 33.6mm / Bass-bar height 27.9mm
February 13, 2024  Cello “adaptation” made around 1989 : Bass-bar height 27.9mm  Joseph Naomi Yokota  Cello, Tokyo anno 2025 / Arch height 32.0mm / Bass-bar height 29.6mm 

例えば 半年前に製作したチェロのバスバーは 高さ29.6mmで、それなりの”大型バスバー”となっています。

これは 自作チェロですから 不連続形状アーチの剛性も、意図的に設定しています。ですから表板アーチの頂点などと 内部のバスバーは初めから適合する設計となっています。

Joseph Naomi Yokota  Cello, Tokyo anno 2025
Joseph Naomi Yokota  Cello, Tokyo anno 2025

このときに大切なのは、バスバーの頂点位置を二つのF字孔下端を結んだラインと、全長の1/3分割ラインに挟まれたゾーン付近まで下げて、強い非対称型として 響胴の”ねじり”を誘導することです。Joseph Naomi Yokota  Cello, Tokyo anno 2025

また、バスバー自体が単純な板状でなく”ペンデンティブドーム”や”ダヴィンチ橋”のように「積層」されている、あるいは不連続に接合され 節として機能するポイントと、特定方向からの応力に対応した“ねじり”が生じやすい部分とに彫り分けてある必要があります。

  “仮想交差節”という考え方

   

これは 一見しても識別しにくいでしょうから、参考として 上の 2025年自作チェロのバスバー写真を縦方向だけ5倍とした画像を下にあげておきます。

それから、このように彫り込む以外の技法として、下のドイツ製ヴァイオリン・バスバーのように 加熱した針状の治具で 点々と突き刺し、このポイントで”ねじり”を誘導したものもあります。

下写真のバスバーを 縦方向のみ5倍にした画像
同様に 1870年頃のヴァイオリン・バスバー画像を縦方向のみ5倍にしたものも上げておきます。
Giovanni Baptista Guadagnini ( 1711–1786 ) “Tener viola” Original bass-bar 1757年
February 13, 2024 21:25 /  Cello bass-bar / “adaptation” made around 1989 : Bass-bar height 27.9mm February 13, 2024 21:25 /  Cello bass-bar
October 30, 2025 17:05 / Violin bass-barOctober 30, 2025 17:05 / Violin bass-bar  ( November 8, 2025  “改作”したヴァイオリン )

なお、このような機能設定は 表板が平らな弦楽器の力木や 鍵盤楽器の響胴にも見ることができます。Lute  /  CHRISTOPH KOCH  1654年

たとえば、リュートやマンドリンのような平面響板弦楽器では、表板内側に取り付けられたバスバー端がサイド側と接触しないように製作されます。

つまり これらの複数バスバーは平面響板である表板にのみ作用するように設定されているわけです。

そして、響胴のサイドとスペースを設け 剛性を上げない設定はハープシコードにも見ることができます。

“Mandolin” /  Castello Sforzesco ( Milan ) ,inv. No. 212 from 1759.

それから このマンドリンでいえば、弦方向に直交する関係とされた複数のバスバーがそれぞれ適度に傾斜していて”非平行”に取り付けられています。

これは ヴァイオリン属も含めた多くの弦楽器が”非対称”で製作された理由でもあります。

このように、ハープシコードの場合でも 底板に取り付けられた複数の横木がそれぞれ適度に傾斜しており”非平行”としたバランス設定を見ることができます。

なお、この横木端には下写真の製作中のものとおなじようにスペースが設けられ、側板と接続することで剛性があがりすぎて”ねじり”が阻害されることのないように工夫されています。

ところで、ハープシコードの場合 この複数の横木の上に響板が置かれますので、この横木は”インシュレーター”の役割をもっています。

そもそも… なのですが、楽器にとって固有振動を安定的な響きに役立てるのは 意外と難儀です。それは 音響機器のスピーカーで 簡単に検証できます。

音響機器のスピーカー性能にこだわる人は、下に”インシュレーター”と呼ばれている敷物を挟んだりします。小さなスピーカーでも 机や床とスピーカーの間にインシュレーターを挟むと音が良くなります。
From a Facebook post dated October 1, 2025

なお、インシュレーターの置き方には4点支持と3点支持があります。4点支持はいうまでもありませんが、3点支持はスピーカー正面に対して次のどちらかを選びます。

  

このような、スピーカーの固有振動を妨げない工夫により 響きは豊かにできます。

振動体について このようなイメージがあると、楽器の固有振動に関しての気づきを たくさん得ることができます。¹ Grand Piano by “Erard” Paris, 1844年

“The Liszt House” in Weimar / “C. Bechstein Pianofortefabrik” Berlin, 1860年頃   Franz Liszt( 1811-1886 ) / Carl Bechstein( 1826-1900 )


たとえば、グランド・ピアノに採用された足の数は、スピーカーに敷くインシュレーターの3点支持と似ていると思います。インシュレーター ( insulator )とは、何らかの作用の遮断を目的として用いる”絶縁材”を意味します。

それと、足部の断面形状は 振動が”密”から”疎”へ移っていく現象を鑑み、円錐形と節となるリング状の突起やくびれが組み合わせてあり、さらに先端部をキャスター状とすることで ピアノが床を鳴らしても、 床からピアノ本体の方向には振動が戻りにくい設定となっています。血管の静脈弁みたいですね。

大事なことですが、電線をながれる電流などと同じように横波( S波 = 二次波 / Secondary Wave )は 進行波、反射波とも中心部ではなく 外辺部を通ります。ですから これらの装飾にみえる凹凸は、想像以上に 響きに直結しているのです。

Grand Piano by “BLÜTHNER”  Leipzig, 1870年頃Grand Piano by “Maison Erard” Paris, 1891年Grand Piano by “Maison Erard” Paris, 1897年
Grand Piano by “Maison Erard” Paris, 1906年
( Custom-made with the chrysanthemum crest. )
° Grand Piano by “Erard” Paris, 1914年º Grand Piano by “Erard” Paris, 1914年

“Grand piano legs”

さて 話をもどしましょう。上のマンドリン内部のバスバーは小部品ですから多少傾斜していても“非平行”であっても 、一見しただけでは 大きな意味を持っているように思えないのも仕方がないかもしれません。

しかし、底板に付属するとはいえ 同様な設定であるハープシコードの横木には その曖昧さがありませんので、意識的にランダムな現象に対応する”ねじり”設定であると理解ができるのではないでしょうか。

上図の赤色で表したヴァイオリンや チェロバスバーに”仮想の複数バスバー”が交差するポイント仮想交差節 6~7カ所で、その断面形状… 特に尾根部の不連続成形をもって 表板のねじりを誘導するという発想はなかなかすばらしいと思います。

その私も 1800年代のものと推測できるバスバーをいくつか観察していて その不連続性に気がついたときは、その有効性に関しては半信半疑でした。

しかし、実際に試みたときに それは杞憂であるとわかりました。

技術的にも左手で表板を水平に保持し軽くゆらして反応をみながら、望ましいと考えられるポイントを彫り込み、表板のゆれ方が より”しなやか”であるように工夫するだけですので それほど難しくありませんでした。

知られているように、ヴァイオリンの黎明期に作られたバスバーは長さも短く、厚さも3.5~5.2mm辺りで、高さも5.0~6.5mm程だったようで、当初は表板の剛性を極端に高くするものではありませんでした。

しかし、1600年ころから器楽合奏の需要が増加したことに対応する工夫のなかで バスバーの長さはもとより、厚さ、高さ、そして尾根部頂点もふくめた断面形状に 変更が加えられていきました。

そのなかで 非対称バスバーが着目されたようで、 1721年製ガリアーノ・ヴァイオリンに入れられたバスバーのように、すでに18世紀初頭には採用する弦楽器製作者がおり、20世紀初頭までのヴァイオリンなどで 時々 見ることができます。Old Cello

そのような事柄を念頭に置いた上で、私は 検証実験として2020年製 表板アーチが16mmの”起伏に乏しいタイプ”として製作された新品ヴァイオリンを改作し、バスバーを 高さ14.8mmで作り響きなどの確認をおこないました。

●   Let’s go back two months.
2020年 Violin, September 25, 2025 / 9:27
I started remodeling on this day. 

Weight without parts  375.0g
2020年 Violin, September 27, 2025 / 15:26Gio Batta Morassi( 1934-2018 )  Violin, 1994年 
Body weight  265.0g  ( Weight of the back side body  183.5g  )
2020年 Violin, September 24, 2025 / 18:22
Body weight  239.5g  ( Weight of the back side body  156.5g  )
2020年 Violin, September 24, 2025 / 18:46
Fingerboard  70.6g  /  Nut  1.0g
Head( after tuning peg holes ) and neck  64.7g
Total neck weight 136.3g
2025年 Tokyo.  October 8, 2025 16:48 
Fingerboard  51.0g  /  Nut  0.6g
Head( after tuning peg holes ) and neck  56.9g
Forged iron nails  3.75g → Neck side( estimated ) 1.5g
Total neck weight 110.0g
November 16, 2025 / 15:51 
Body weight  220.0g  ( Weight of the back side body  147.3g  )

2025年 Tokyo.  The thinnest zone is 2.1mm, and the thickest zone is 3.7mm.November 8, 2025  

  因みに、私が製作したこのバスバーには”仮想交差節”が 6カ所あります。
November 08, 2025 / 11:44    Weight of the top plate72.7g ( including bass bar 6.1g )

●  “焼成釘穴”に鍛造鉄釘を埋め込む工程

2025年 Tokyo.  November 14, 2025  15:55  /  Violin

ヴァイオリンの場合、特に作業する空間が狭くなります。
.
それでも この状況を選んだのは、アレキサンダー・カルダーの”モビール”作品を製作するのと同じようなもので、長く突き出た指板は響胴の回転軸の納まりに影響するからです。
.
表板は振動版として開放される要素がありますから、なくてもいいのですが指板は組み込んであった方が望ましいと思われます。

November 14, 2025  20:22   /  Weight of forged iron nails 40.8mm-1.6g / 30mm-1.12g / 26.7mm-1.03g  Total 3.75gNovember 14, 2025  21:01
November 14, 2025  21:02
November 14, 2025  21:03
November 14, 2025  21:04November 14, 2025  21:06
November 14, 2025  21:06
November 14, 2025  21:13
November 14, 2025  21:14
November 14, 2025  21:20
November 14, 2025  21:21
November 14, 2025  21:22
November 14, 2025  21:24

この実施例は 撮影のために 23分間ほどかけています。通常は、鍛造鉄釘の温度が急激に下がるので、手元周りに必要なものを配置して素早くおこない、 15分程でこれらの工程を済ませます。

私が、2025年に製作したチェロに鍛造鉄釘を埋め込むときも、このヴァイオリンと同じやり方で、埋め込む鍛造鉄釘そのものを加熱して釘穴の成型をおこないました。

April 26, 2025 5:04  /  Location of forged nails

November 13, 2025 / 11:21   Body weight  220.0g 
November 17, 2025 / 14:36  Weight ( without parts )  330.0g
November 28, 2025  :  Violin completed
Weight without parts  330.0g
●  Weight without chinrest  371.1g

November 30, 2025 / 17:47
Total weight 415.6g ( Includes chin rest  46.0g )November 30, 2025 / 17:48

November 30, 2025  17:49
Total weight 415.6g ( 369.6g+Chinrest 46.0g  /  Dominant strings & 0.26 Gold brokat E )

The 14.8mm bass bar violin was handed over to the violinist on December 2nd. It will then be used next Wednesday ( December 17th ) from 7pm for a concert of Ravel and Debussy sonatas and piano trios. I’m looking forward to enjoying the sound of the violin from my seat in the hall.

December 17, 2025

December 17, 2025 / 13:10
Preparations for the concert begin.

The air conditioner, which has just been turned on, it makes a driving noise.

Program

  1.  モーリス・ラヴェル( 1875-1937 )  / ヴァイオリン・ソナタ ト長調 ( 1927年 )
  2.  モーリス・ラヴェル  /  ヴァイオリンとチェロのためのソナタ ( 1922年 )
  3.  クロード・ドビュッシー( 1862-1918 )  /  チェロ・ソナタ  ニ短調 ( 1915年 )
  4.  モーリス・ラヴェル  /  ピアノ三重奏曲  イ短調 ( 1914年 )December 17, 2025   20:26

 

It was a good concert.
We enjoyed it.

 

Joseph Naomi Yokota.

CREED

This year marks the 1,700th anniversary of the Council of Nicaea.
In times of faith crisis, we sing the Nicene-Constantinopolitan Creed to thank God for giving us this wonderful faith.

Joseph Naomi Yokota

May 26, 2025 20:07

The endpin shaft was changed from 47.1g to 157.6g at the request of the client. The tail-gut was also changed to tail-cord.

From now on I will choose the diameter and length of the sound post.  I have prepared six sound post diameters: 9.5mm-10.4mm-10.7mm-11.0mm-11.6mm-11.9mm.

 

Joseph Naomi Yokota

“伝承”が修正されるべき時が来ています。

■  1830年~1850年  英国において 1830年に開設されたマンチェスター・リヴァプール鉄道にはじまる鉄道開設ブームがおこり、1850年までに営業開始した旅客鉄道のイギリス国内総延長は およそ9656km に達しました。

また、アメリカでも 1830年にボルチモア – メリーランド州エリコット間に旅客鉄道が開業し1850年には国内総延長が13,700kmを超え、1869年にはユニオン=パシフィック鉄道の東西路線がつながり最初の大陸横断鉄道が完成したことで国内総延長は79,000kmを超えました。

ドイツにおいては 1835年に最初の鉄道が開業し、1838年にベルリン – ポツダム間、1839年にはライプツィッヒ – ドレスデン間が開通し1840年頃には総延長469kmとなり、1871年には10,000kmを超えました。ロシアでは、1851年にペテルスブルク – モスクワ間が最初の鉄道開業でした。そして1891年にはシベリア鉄道( 9,000km )が着工されました。これは1913年に開業しました。因みに、日本の鉄道開業は 新橋駅 – 横浜駅間で、1872年のことでした。

■  1851年5月1日~10月15日    第1回万国博覧会であるロンドン万国博覧会がハイド・パークで開催されました。会場として建設されたクリスタル・パレスは 長さ約563m、幅約124mの規模で、1850年7月30日に着工され、1851年1月に完成しました。有料入場者数は 141日間で 6,039,000人におよびました。

■  1852年  大統領であったルイ・ナポレオンは 前年にクーデターを起こし、独裁体制である「第二帝政」を確立し、1852年に皇帝ナポレオン三世( Napoléon III 1808-1873 )として即位します。
■  1853年7月8日  ペリー提督の艦隊( 4隻 )が浦賀沖に来航し、次いで1854年には横浜沖に再来航( 9隻 )しました。これにより 1858年に日米修好通商条約が結ばれました。

フランス帝国とサルデーニャ王国の間で締結された「プロンビエールの密約 ( 1858年 )」で、ニースと サヴォイア地域がフランスに引き渡されるまでの地図

Nicolò Paganini( 1782-1840 ) died in Nice on May 27, 1840 :  in the will drawn up in 1837 he had ordered that the instrument be left to his hometown, Genoa, “So that it may be preserved in perpetuity”. The events surrounding the legacy were, however, complex and concluded only on July 14, 1851, with the delivery of the instrument by Baron Achille Paganini( 1825-1895 ), son of the maestro, to the then mayor of Genoa. 

■  1848年~1871年  「1815年のウィーン議定書で ジェノヴァ共和国を併合したトリノを事実上の首都とするサルデーニャ王国」が主導してミラノ、ヴェネツィアに反乱が起こり、イタリア統一運動( リソルジメント )が本格化し、1859年の第2次イタリア独立戦争を経た 1861年に南イタリアに「イタリア王国」が確立され、そのままサルデーニャ王国と合併します。

そして、1866年には ヴェネツィアを併合、その後 1871年に教皇領であったローマを占領し、「サルデーニャ国王 ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世( 1820-1878 / 在位1849-1861 )」が統一イタリアの国王( 在位1861-1878 )として正式にローマを首都として定め、近代国家であるイタリア王国が成立しました。

■  1851年7月14日 パガニーニが演奏に用いていたとされる「グァルネリ・デル・ジェズ」 “イル・カノーネ 1743年”が、ジェノヴァ市に引き渡されました。

■  1857年頃   前所有者が判然としない 1743年製「グァルネリ・デル・ジェズ」ヴァイオリンが 英国に出現しました。そして購入者である John Tiplady Carrodus( 1836–1895 )が リサイタルなどで使用したことで、このヴァイオリンは”キャロダス ( Carrodus )”と呼ばれるようになりました。

Guarneri del Gesù ( Bartolomeo Giuseppe Guarneri 1698-1744 )  Violin, “Carrodus” 1743年

この両者を比較するときは 対をなすコーナー部の面積差と、コーナーブロック端位置( A,B,C,D )でパフリング外側縁に施された”摩耗加工”を見ると 違いが分かりやすいと思います。

J.T. Carrodus( 1836–1895 ) was an English violinist.
He had the advantage of studying between the ages of twelve and eighteen at London and Stuttgart, with Wilhelm Bernhard Molique( 1802-1869 ). On 1853, Sir Michael Costa got him engagements in the leading orchestras. He was a member of the Covent Garden opera orchestra from 1855. He made his debut as a solo player at a concert given on 22 April 1863 by the Musical Society of London.

キャロダスは、ルイ・シュポーア( Louis Spohr 1784-1859 )に学び シュトゥットガルトと ロンドンで活動したベルンハルト・モーリック( 1802-1869 )の生徒でした。

さて、ここからは私の見解で、現在も その証拠集めをしている途中であることをご承知置きください。

私は、パガニーニが演奏に用いていたとされ、現在も ジェノヴァ市に「グァルネリ・デル・ジェズ」 “イル・カノーネ 1743年”として展示されている楽器は、その規格等の特徴から考えて パガニーニが演奏に使用したヴァイオリンでは無いと判断しました。

Guarneri del Gesù ( Bartolomeo Giuseppe Guarneri 1698-1744 )  Violin, “Carrodus” 1743年

また その視点で、現代に残された Guarneri del Gesù のヴァイオリン達を検証した結果、パガニーニ ( Nicolò Paganini 1782-1840 )が イル・カノーネ ( Il Cannone )と呼んでいたヴァイオリンは、1857年頃に Londonに出現した 1743年製ヴァイオリン”Carrodus”である可能性が高いと考えています。

そもそもパガニーニがサルデーニャ王国のニース( Nice )で亡くなった1840年5月27日から、ヴァイオリンがジェノヴァ市に引き渡された1851年7月14日までの『11年間』遺産相続者である息子の Baron Achille Paganini( 1825-1895 )は不可解な行動を取っています。

私は ジェノヴァ市に遺贈された 1851年( 第1回ロンドン万国博覧会の年 )に、パガニーニのイル・カノーネ ( Il Cannone )は、ドイツ、カッセルの宮廷楽長を1822年~1859年の長期間務めるとともに、ヴァイオリニストでもあった ルイ・シュポーアに内密に譲渡されたと推測しています。

Guarneri del Gesù ( Bartolomeo Giuseppe Guarneri 1698-1744 )  Violin, “Carrodus” 1743年

興味深いことに、1851年にシュポーア ( 1784-1859 )は、雇用者であるカッセルの選帝侯が許可しなかった2ヵ月の旅行に出発し、その後 この期間分給与が未払いとなった事を不服とし、訴訟を起こしています。また、この時期に 財産の整理もしてもいるようです。そして、1857年には 腕を骨折したことによりヴァイオリニストとしての活動を終えているのです。

この ルイ・シュポーア( 1784-1859 )らが指導し、1825年に23歳の若さでシュトゥットガルト宮廷楽長兼コンサートマスターとなり、1849~1866年にはロンドンを拠点とし活動したベルンハルト・モーリック( 1802-1869 )の仲介によりイル・カノーネは 1851年の時と同じように、再び内密にキャロダス( 1836–1895 )に譲渡されたものと、私は 考えています。

この説にもとづき、”Guarneri del Gesù “と呼ばれた Bartolomeo Giuseppe Guarneri ( 1698-1744 )が製作したヴァイオリン“Carrodus” 1743年 の所有者名を “Il Cannone”期から時系列で並べるとこのようになります。

Nicolò Paganini ( 1782-1840 )  … 1840年
Baron Achille Paganini( 1825-1895 ) 1840年~1851年

Louis Spohr ( 1784-1859 ) 1851年~1857年頃 

Wilhelm Bernhard Molique( 1802-1869 )

John Tiplady Carrodus ( 1836-1895 ) 1857年頃~1895年
W.E. Hill & Sons 1895年
Major C. E. S. Phillips 1895年~1909年
W.E. Hill & Sons 1909年
Dr. Felix Landau (Berlin) 1909年~1931年
Margaret Abraham 1949年
Ossy Renardy 1955年
Henry Hottinger (New York) 1965年
Rembert Wurlitzer Inc. 1965年
Dr. Ephraim P. Engleman (San Mateo, California) 1976年
David L. Fulton 2003年~2007年
Anonymous 2007年

因みに、この1743年製 “Carrodus” ガルネリウスは、そう呼ばれる以前から 弦楽器製作者の間では重要なヴァイオリンとして扱われていたようです。

私が このガルネリウスを強く意識するようになったのは 有名な “Wurlitzer collection”のヴァイオリンを販売した時でした。

そのヴァイオリンは、パガニーニ( 1782-1840 )が演奏活動を開始する以前の 1791年にクレモナでGiovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 ) が製作したものでしたが、ヘッドが “Carrodus” 1743年の影響を強く受けていたのです。

ここで 私の過去のブログで”加熱痕跡”に関した投稿の抜粋をあげさせていただきます。

私が “加熱痕跡”の読み方について確信を得たのは 15年程前にヨーゼフ・アントニオ・ロッカ( 1807-1865 )が製作した、このヴァイオリンに出会ったからです。

この楽器は 製作されてから まだ150年程しか経っていませんが 表板、裏板ともに肩の位置などにキズ状の加熱痕跡があったり、顎当て部と右肩部にも大胆な加工がしてありました。

私はそれまでもキズ状のものは全て確認するようにしていましたが、”オールド” に入っているその数は『 数えきれない‥』と思うこともしばしばでした。

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   violin
Cremona 1791年 “ex Havemann”  [ Wurlitzer collection 1931 ]
( Photo : Jiyugaoka violin  1998年 )

オールド・バイオリンを目にした時、頭のなかに『 やはり300年くらい前の楽器は、現代まで受け継がれる間にはひどい目に遭ったはずだから‥』という発想をもつと 単純な思い込みに陥るようです。

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   violin
“ex Havemann” ( Bein & Fushi inc. 1981年 )

その私が はじめてオールド・バイオリンのすり減ったりキズ痕だらけの様子に『 あれっ?』と違和感を感じたのは、26年以上前にクレモナ派の実質的な最後の継承者である G.B. チェルーティが製作した このヴァイオリンを扱ったときでした。

このヴァイオリンは モーツァルトが死去した1791年にクレモナで製作されたもので “ex Havemann”のニックネームを持っていて、すでに 1931年には ニューヨークのウーリッツァー商会が出版し公表した有名なウーリッツァー・コレクションに 写真付きで掲載されている名器です。

私が目にした1998年は、この楽器が 1791年に製作されてから 207年ほど経っていたわけですが、私の知っている どの G.B. チェルーティより”キズ痕”が多い上に、それらは人為的につけられた気配が濃厚でした。

なお、このヴァイオリンには 1939年に発行された レンバート・ウーリッツァー社 ( Rembert Wurlitzer Co.、) の写真添付の正式な鑑定書もついていて、その時点での様子をある程度は推測できました。

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   violin
“ex Havemann” ( William Moennig & Son   1958年 )

また、この他にもフィラデルフィアの著名ディーラーだった ウイリアム・メーニック ( William Moennig & Son ) が 1958年に発行したものと、シカゴの Bein & Fushi inc. が 1981年に発行したものも含めて鑑定書はあわせて3通も付いていました。

Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 )   violin
Cremona 1791年 “ex Havemann” ( Rembert Wurlitzer Co. 1939年 )

それで私は このヴァイオリンの”キズ痕”を順に確認してみました。もちろんですが 1998年は製作されてから 207年、1981年は 190年経過を意味し、1958年は 167年で 1939年は 148年、そして 1931年は 140年しか経っていなかった‥  ということを踏まえた上での話です。

.            1998年 ( 207年経過 )                             1981年 ( 190年経過 )

       1958年 ( 167年経過 )                                  1939年 ( 148年経過 )

さすがに 1939年や 1931年の写真では 外周部がだいぶん不鮮明ですが、それでも駒やF字孔周りの加熱痕跡はしっかりと写真に捉えられていました。

では‥ このイタリア、クレモナで1791年に製作されたこのヴァイオリンの「キズ痕」はいつ入ったのか?

ヨーゼフ・アントニオ・ロッカ( 1807-1865 )のヴァイオリンに出会ったのは、私が  G.B. チェルーティ作のヴァイオリンと出会った後で さらに5年程の歳月があり、その間にも多くのオールドやモダンの弦楽器を目にしたことによって”製作時にはじめから入れられていた”という結論を探っていたタイミングでした。( 抜粋終了 )

下に その Guarneri del Gesù ( 1698-1744 ) Violin, “Carrodus” 1743年のヘッド写真と Giovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 ) Violin, “Wurlitzer collection-Ex Havemann” 1791年 のヘッド写真を並べました。

そして その右にはマントヴァ派の名工 ステファノ・スカランペラの下で製作を学び工房を受け継いだガエタノ・ガッダ ( Gaetano Gadda 1900-1965 )が 1925年頃に製作したヴァイオリン・ヘッドの写真を置きました。

この 1925年頃製作されたヴァイオリンも、私がヴァイオリニストに販売したものですが、初めて目にしたときに『おそらく前者の、どちらかのモデル‥』と推測しました。

弦楽器製作者が このレベルの模倣をした意味は大きいと、私は考えます。

そういう意味でも Guarneri del Gesù Violin, “Carrodus” 1743年は、音楽史にとって重要だと思います。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

それから、もう一つの黒歴史を挙げておきたいと思います。
日頃から 私は “コーナー先端部の非対称性”についての確認をお奨めしています。

なぜなら、オールド・バイオリンやオールド・チェロでは それらの関係性が 響胴の共鳴現象を誘導する”ねじり”の要となっていると思っているからです。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

先ずは、それを見てください。上図で R1L1 、そして R2L2 とした「一対」の要素をもつ裏板コーナー先端部の面積差と、エッジの摩耗加工の様子をならべ、その下には他のヴァイオリンを列挙しました。

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  Cremona  1555~1560年頃

Andrea Amati ( ca.1505–1577 )   Violin,   “Ex Ross”   1570年頃

Gaspar da Saló ( ca.1540-1609 )   Violin,   Brescia   1600年頃

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 )   Violin,  “Lady Jeanne”    1731年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )   Violin,   “Carrodus”   1743年

観察ポイントは、コーナー先端横の狭隘部にいれた左右の赤点の上下位置関係とそこからの垂線( 赤線 )の外側に突き出た幅、そして水平補助線( 黒線 )から突き出た高さから 相対的に小さくされている様子を観察するだけです。

そして 次に、 裏板を俯瞰しながらコーナー先端部を比較するためにヴァイオリンを年代順にならべました。


Andrea Amati ( ca.1505–1577 )  Violin,  “Ex Ross”   1570年頃

多数のオールド弦楽器を観察すると、 R2 コーナー先端部が相対的に小さくされているのが 裏板のトレンドと考えることができます。 ( R1 が最小の場合もそれなりあります。)

Gaspar da Saló ( ca.1540-1609 )  Violin,  Brescia  1600年頃

 

Andrea Amati ( ca.1505-1577 )   Violin,  “King Charles Ⅸ”  Cremona  1566年頃

Jacob Stainer ( 1617-1683 )  Violin,  Absam ( Tirol )  1655年頃

Giovanni Grancino ( 1637-1709 )  Violin,  Milan 1702年頃

Giuseppe Guarneri ( 1666-1740 )   “filius Andrea”   Violin, 1703年

Carlo Tononi ( ca.1675-1730 )  Violin,    Bologna 1705年

Antonio Stradivari ( 1644-1737 ),  Violin   “Tartini – Lipinski”  Cremona   1715年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )  Violin,  Cremona
“Goldberg-Baron Vitta”  1730年頃

Antonio Stradivari ( 1644-1737 ) Violin,   “Lady Jeanne”  Cremona   1731年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )  Violin,   “Posselt – Philipp”  1732年

 

Andrea Castagneri ( 1696-1747 )  Violin,  Paris 1742年

Camillo Camilli ( ca.1704-1754 )  Violin,  Mantua  1750年頃

Joseph Klotz ( 1743-1829 )  Violin,  Mittenwald  1760年

Tommaso Balestrieri ( ca.1735 – ca.1795 )  Violin,  Mantua  1770年Giuseppe Antonio Rocca ( 1807-1865 )  Violin, Turin
1845-1850 年頃

Giuseppe Antonio Rocca ( 1807-1865 )  Violin,  Turin  1850 年頃

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 )  Violin “Lady Jeanne” 1731年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )   Violin,   “Carrodus”   1743年

 
Antonio Stradivar( ca.1644-1737 )  Violin, 1721年

Antonio Stradivari ( ca.1644-1737 ) “F-hole placement template” ( G violin / MS No. 117 )

ストラディヴァリのF字孔型紙を観察すると、任意のコンパス針ポイントから設定された半径距離がみとめられ、当然ながら それらの”点”が 一定の応力に対応したものであることが理解できます。

このような”任意の点”を念頭に置き、対をなすコーナー部の面積差や、パフリング外側縁の特定の場所… たとえばコーナーブロック端位置( A,B,C,D )などに施された”摩耗加工”を検証すると製作者の意図が感じられると思います。

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 )   Violin,   “Carrodus”   1743年

Guarneri del Gesù ( 1698-1744 ) Violin, “Enescu-Cathedral” 1725年頃
このようにヴァイオリン型の弦楽器は 黎明期からずっと、響胴のコーナー部の剛性差を工夫することで”ねじり”が俊敏になるように製作され続けました。

■  1855年  Jean-Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 )が “Messiah violin, 1716″を Luigi Tarisio ( 1796-1854 )の遺族から購入したとして、店の ガラスケースに入れ展示をはじめました。

The world’s most valuable violin? The Messiah Stradivarius
0:57 ” 1716 ‥ It is the only as new Stradivarius ‥”

STRADIVARI’S FABLED “MESSIAH” THREE CENTURIES ON: THE MOST CONTROVERSIAL VIOLIN IN HISTORY?上記の事実により、私は このヴァイオリンは 1854年頃に製作されたものと判断しています。

It was donated to the Ashmolean Museum in 1940 by the firm of W.E. Hill & Sons to become a benchmark for future makers.

“Messiah Stradivarius  1716”  Forged Nails and Round head wood screw

“Messiah Stradivarius  1716”  Forged Nails and Round head wood screw

Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin, No.2209
“Ex Hubermann” 1856年

“Round head wood screw” Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin,  No.2209  “Ex Hubermann” 1856年

“Round head wood screw” Jean Baptiste Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin,  No.2209 ” Ex Hubermann” 1856年

 

“Forged Nails and Round head wood screw” J.B.Vuillaume ( 1798-1875 ) Violin, No.2209 “Ex Hubermann” 1856年  –  “Messiah Stradivarius 1716”

“Messiah Stradivarius 1716”  Forged Nails and Round head wood screw

因みに 個人的なことで恐縮ですが、私は この音響的判断基準に関して、上左のオールド・バイオリンの “摩耗部”を観察していて 初めてこれらは 製作時のパティーナ加工であると確信しました。

私もその時まで、ヴァイオリンや チェロの表板、裏板のふちは ヨーロッパの街を囲む城壁のように一定の高さを持たせて連続させてあると思っていました。

ところが、実際のオールド・バイオリンなどでは 赤印を入れた位置のように、 摩耗したかのように削ってあったり、別の木片で継ぎがしてあったりすることに この裏板を観察していてやっと思いが至ったのです。

Walter Hunt ( 1796-1859 ) 1849年       U.S . patent number 6281 on April 10, 1849.

ともあれ、”伝承”に誤りが混入したことは残念でしたが、 インターネットで情報が共有できる時代となりましたので 訂正されるのは時間の問題だと 私は予想しています。

 

Joseph Naomi Yokota