ヴァイオリンの調整技法についてのお話しです。 ( part 7 )


私は一七世紀の弦楽器製作者がヴァイオリンの響きを決めるのに大切にした要素は ” F字孔の設定 ” と  ” 響胴の共鳴振動板としての特性 ” の二つだと思っています。

 

これらを本質的に理解するには ヴァイオリンの誕生以前に 表板や裏板が平らな弦楽器がたくさん製作されたことの意味を理解していることが重要だと思います。

“Base” is unstable.  At this time the pair has become a place “vibrate” is …  (  1分 16秒  )

http://www.youtube.com/watch?v=tlYIyKic3w8&feature=player_embedded

これは クリスティアン・ホイヘンス( 1629 – 1695 )さんが発見した現象で『 引き込み現象 ( pull in ) 』または『 同期現象 』と言われています。

http://www.youtube.com/watch?v=DD7YDyF6dUk&feature=related          (  1分 51秒  )
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上の動画でも分かるように振動するには ” ベース( 節 )”が安定している必要があり、不安定だと他の振動の影響( 干渉 )を受けやすくなります。

ですから 平らな響胴をもつ弦楽器には、固有振動を明瞭な音高の響きにつなげるために力木の配置などによる工夫がされていると私は考えています。

     

 

 

話は少しそれますが‥  ここで私が持っている『  弦楽器の響きのイメージ  』について書かせていただきます。

個人的な感覚で恐縮ですが 私が思い浮かべる響きの記憶は打楽器などをたたいたりこすったりしたときに生じるさまざまな音の高さ、大きさ、音色などからはじまっています。 そして その要素の複合体として 私はヴァイオリンの響きをとらえています。

これにつきましては音で聴いていただくのが分りやすいと思いますので、次にリンクを貼らせていただいた 洗足学園音楽大学のサイトをおすすめいたします。 丁寧に説明されているため多少の長さがありますが ご覧いただければ 演奏家の方は それぞれの楽器ごとに 響きのバリエーション( 振動モード )を細やかに意識して演奏されている事を理解していただけると思います。

これらには 例えば膜鳴打楽器のミュートのように演奏者の発想でうまれた技法もふくまれていますが、楽器製作者が演奏技法を意識して音響性能としてとりいれたことにより生まれた響きのバリエーションとしても再確認をすることができると思います。

膜鳴打楽器 ( 27分27秒 )
http://www.youtube.com/watch?v=k-_UOzIGBdk&feature=relmfu

鍵盤打楽器 ( 28分59秒 )
http://www.youtube.com/watch?v=LOoOe_jFPPM&feature=list_other&playnext=1&list=SPA69B3082149067DE

金属打楽器「サスペンデッドシンバル」 ( 12分26秒 )
http://www.youtube.com/watch?v=kKcuUKFBO0o&feature=related

 

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私は ヴァイオリンを ” 共鳴振動板の複合体 ” と考えています。
そこで これを理解していただくために 振動板の特質に着目して平面振動板から 順を追ってお話しさせてください。

1. 平面振動板

この平面振動についてはモーツァルトと同じ 1756年にドイツでうまれた物理学者 エルンスト・クラドニ( Ernst Chladni  1756年 – 1827年 )さんが 1787年に出版した音響学の著書  ” Entdeckungen ueber die Theorie des Klanges( 音響理論に関する発見 )” で発表した平面の振動を可視化する方法でつくられる “クラドニ図形 ” を意識するだけで十分だと思います。 これは振動している膜や板の上に砂を撒くと振動の” 節 “の部分に砂が集まりパターン( 模様 )が出来上がるものです。ご存じない方は次の動画をごらんください。

● 金沢健一氏パフォーマンス
http://www.youtube.com/watch?v=lPMr84CfmvI           ( 2分01秒 ) http://www.youtube.com/watch?v=fMf6OZE9IE0&feature=related ( 3分03秒 ) http://www.youtube.com/watch?v=9TqlLXHVDuo         ( 9分39秒 )

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2. ドーム型振動板と円錐型の振動板

立体型でよくもちいられているのがドーム型の振動板です。
まずその響きの例として ご存じの方も多いでしょうが  御仏壇の『 お鈴 ( りん )』で聴いて下さい。 私は 音高の違いが興味深いと思います。

直径3.5寸の 三つの『 お鈴 ( りん )』の音
http://www.youtube.com/watch?v=bqulN3ClrNI ( 1分18秒 )

楽器の例としては 複数をならべた構造になっていますが スチール・ドラム( スチール・パン )の動画リンクあげさせていただきます。

  

http://www.youtube.com/watch?v=nT4D0-6pHTM&feature=related    ( 2分34秒 ) http://www.youtube.com/watch?v=tNx0s7QtKEw&feature=related          ( 1分58秒 )

スチール・ドラム製作工程
http://www.youtube.com/watch?v=MW02VFn22tU&feature=related       ( 7分54秒 )

 

3. 複合型振動板

これらの動画でもご理解いただけるようにドーム型振動板を金属でつくると” 甘い音 ” がつくれます。 私は この形状は比較的に言えば 高音域を担当するのに適していて、その固有振動を中心に音が残るため干渉( うなり )によって表情のある響きがうみだせると思っています。

さてドーム型振動板をもつ楽器のシンバルです。 中央にもりあがった部分は” カップ “と呼ばれています。ここの形は メーカーやシリーズによって多様だそうです。 それからシンバルの端っこは” エッジ “とよばれています。 クラッシュ( 14~19インチ程度 )やハイハット( 13~14インチが主流。 ドラマーはハイハット・スタンドに上下2枚をペアでセットして使用します。薄目のトップと厚めのボトムを組み合わせるのが一般的だそうです。)ではこの部分を叩くことで荒いクラッシュ音が出せるそうです。

 

そして ” カップ “と ” エッジ ” に挟まれた大部分を ” ボウ ” と言います。この部分をショットすることできれいなシンバル音( クラッシュ音 )を出すことができるそうです。 直径が大きいライドでは多くの場合この部分を叩くそうです。 ( ライドは 20~22インチが主流。 普通は1枚ですが、ドラマーによっては音質の違うものを複数枚使うケースもあるそうです。 以前はよけいな倍音の少ない厚めのものが主流だったそうですが 最近では 薄め( Medium Thin )を使うドラマーが増えてきたそうです。)

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さて、また‥‥ 例え話ですがこういうピアノがあっても演奏には 不向きでしょう。
『 たぶん‥‥? 』

【  Minimalist Piano  】

シンバルの” カップ ” のドーム型振動板はショット( 叩く)すると、『 カーン。』と澄んだ高い音が得られるそうです。 それはひとつの振動モードとして役立つわけですが、当然ながら 楽器は演奏者のイメージに応えるために常にバリエーションをふやす工夫がこらされています。 そのためシンバルの” ボウ ” はすこし平面に近いことで 基音がでやすい” 円錐型 ” としてある場合が多いようです。

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私はこのようによって振動特性が違う形状が組み合わせられた ” 複合型 振動板 ” をもつ楽器はヴァイオリンを理解するためには重要と考えています。

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シンバルのように ドーム型と円錐型の振動板の” 複合型 ” になることで『 より強められる‥。』相乗効果が ” 響き ” の選択肢を増やしているのが 聴き取れるからです。 この相乗効果につきましては シンバルの割れ方を調べると 薄いからだけではなく ” カップ “が大きく安定していることで振動波の干渉が強まり” エッジ ” の振動がおおきくなって割れた可能性がみられたり、実際にカップ部が大きいと シンバルの音量が上がる傾向があることを指摘する奏者の方がいらっしゃるからです。
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また、楽譜の中でも” カップ( Cup )”と叩く場所の指示が出されていることがあるなどからも” カップ “と” ボウ ” はそれぞれ独立したパーツと考えることが適当だと考えます。


Dec. 1996, in Japan. Performance tour of Hank Jones, Jimmy Smith(Drummer)

     

シンバルにはドーム型と円錐型( コーン型 )の他に上左端の 20インチのチャイナ・シンバルのように ” カップ ” が逆になっていて へりの返しに幅が組み込まれた独特な形をしたものがあります。 これはほとんど『 バシャーン!! 』といった派手な効果音に使用するくらいで使用頻度はあまりたかく無いそうですが、ドラマーの方はちゃんとバリエーションの一つとして持っていらっしゃるようです。
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” 複合型振動板 ” の例としてもうひとつ ” ティンシャ ” をあげておきます。 これはチベット密教でつかわれる法具の一つで、チベットの高僧や宗教リーダーによって様々な儀式の場面で使われるとともに瞑想の儀式で用いられています。


民族楽器チベット・シンバル    ( 0:40)
http://www.youtube.com/watch?v=9H3NDGNtLyQ

Harmonic Encounters: Alan Lem plays Tibetan Singing Bowls     2分52秒から  ( 5:55 ) http://www.youtube.com/watch?v=Bdz7TnVUBso

Timsha Bells    ( 4:47 )
http://www.youtube.com/watch?feature=endscreen&NR=1&v=1UDdyG7iB4o

この ティンシャは直径が 約68mmで重さが230g程だそうです。 古( いにしえ )に作られたティンシャの素材は7メタルとよばれるチベット密教伝来の占星術にある製法で 金(太陽)、銀(月)、水銀(水星)、銅(火星)、鉄(金星)、スズ(木星)、鉛(土星)の7つの金属を原料に鋳造したもので、宗教的高次なものをつくるときには 鉄のかわりに ” 隕石 ” ( また‥ エルンスト・クラドニさんですね!) のかけらが用いられたそうです。 こうしてつくられた ” 複合型振動板 ” の形状の小シンバルの二個が水牛革の紐でつながれています。

 

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4. ランダム・フェノミナ( Random phenomena )である” 響き “を捉える技術

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楽器製作者は ” 響き “というランダム・フェノミナ( 無作為現象 )をどう越えて意図した ” 響き ” を実現するかを いつも考えています。 金属製楽器を例にあげるとハンマー加工がそれにあたります。 もちろん機械も使用しますが最終調整は息の抜けない手作業( ハンド・ハンマリング )となります。

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たとえばシンバルはその素材特性からくる単純な振動でなく複雑で音楽的な倍音を生むために 機械ハンマーや ハンド・ハンマリングで意図的に 振動板の表面にランダムな凹凸をつけてあるものがあります。

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ハンマリングを強めにいれると シンバルの強さが増し、ボリューム感やクリアな音像を際立たせる効果があるといわれています。この加工をおこなっているシンバル・メーカーはこれにより低音のゆたかな( ダーク・キャラクター )製品をめざしているそうです。


赤色矢印の先の小さな”くぼみ”が見えます。 この小さなへこみが ” SABIAN ” ハンド・ハンマリングの跡だそうです。

 


” アーティザン ” のハンド・ハンマリング

ジルジャン社から兄弟がわかれて生まれたセイビアン( SABIAN )社のシンバル『 アーティザン 』には “ハイデンシティ・ハンドハンマリング “と呼ばれる深く、強いハンマリングが施されています。

 

このハンマリングはシンバルという楽器にとって非常に大切な技術ですので、こんどシンバルをながめる機会がありましたら観察することをお勧めします。

   

ハンマリング加工の参考として日本のシンバル・メーカーである小出シンバルさんのホームページから機械ハンマリングの画像を引用させていただきました。
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私は木製楽器であるヴァイオリンの ” 木組 “や ” 木伏 ” の研究をしていますが、金属製楽器ではそれがより難しいことを理解していますので 本当に頭がさがる思いがします。

小出シンバルさんのホームページ
http://koidecymbal.com/

小出シンバルの製造工程
http://www.koidecymbal.com/factory/build.html

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楽器にとって振動板は特質そのものですから このほかにも結構いろいろな工夫がみられます。 ここで 『  ” 技 ” のデパート‥ ?? 』である ピアノをその例として考えてみたいと思います。

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多くの方がご存じのように ピアノにはスプルース板をはぎ合せて一枚にした振動板( 響板 )が取り付けられています。 そしてこの響板が振動するさいに複雑なゆれが発生しやすいように 響板の上側には下右側の写真のように複雑なカーブの駒( 長駒、短駒 )が接着してあり 、下側( 裏側 )には 下中央のように響棒( 力木 )が何本も貼り付けられています。

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このため当然ですが平面振動板の楽器でないということはハッキリしています。 ですが‥  私はピアノの響板の形状をひとことでは表現できません。

多少の例外はありますが 一般的にいえば ピアノの響板は駒の側( 上側 )をわずかに膨らませて ドーム形状につくられています。 このことを日本では「むくり」と言い、英語では「クラウン」と呼んでいます。 ですから基本はドーム型振動板をもつ楽器にみえますが‥ 意見がわかれるところです。

         

ピアノ響板振動パターン http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/s1pian/s1ma/s1ma4/s1ma48.mpg
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また‥ ピアノに関して私は 1828年に イグナッツ・ベーゼンドルファーさんが ウィーンに創業して  フランツ・リストによって名声を築いた ベーゼンドルファーの ” レゾナンス・ボックス ” 技術は特記すべきことがらと思っています。

これは『  Resonating box 原理  』とよばれていて、サブフレーム( 支柱枠 )とケース( アウターリム )そして響板が一体となるように同じ木材で構成し 一つの共鳴体を形成するというものです。ベーゼンドルファーはこの独自の構造により響板の振動が サブフレームに広がることで楽器全体の共鳴度が増してより多彩な音色を奏でるように工夫がしてあるそうです。

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上写真は スプルースのブロックを積み重ねてサブフレームを形成するベーゼンドルファー独自の工程だそうです。

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ベーゼンドルファーは ピアノ全体を共鳴させるために歪み( ヒズミ )が生じにくいようにスリット溝を細やかにほり、それを成型したあとでおなじスプルース材で変化した溝幅にあわせて埋め戻す工法で製作されています。 私は いまでもオフィシャル・サイトに書いてある『  ベーゼンドルファーのピアノはその全体の85%に最高級のスプルース材を使用しています。』に とても興味をもっています。

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それから個人的な嗜好で恐縮ですが 私がいちばん好きなピアノは ベーゼンドルファー(  L. Bösendorfer Klavierfabrik GmbH  )『 インペリアル 』です。 もちろん 88鍵盤の Steinway & Sons のピアノ( D-274   横幅 157 cm、奥行274cm、重量480kg )もすばらしいと思いますが ベーゼンドルファー・インペリアル の 97鍵盤( Model 290 – Imperial   横幅 168cm、奥行 290cm、重量 570㎏ )には同じ楽器職人として元気がもらえる気がするのです。

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鍵盤数についてはベートーヴェン( 1770年 – 1827年 )の時代でいえば初期が61鍵盤( 5オクターブ半 )から中期 68鍵盤( 6オクターブ半 )、晩年が  73鍵盤のものを使用していたと聞いています。そして この後 十九世紀後半には 85鍵盤となり 二十世紀になるころにピアノの標準タイプが 88鍵盤まで移行したことが知られています。

ベーゼンドルファー・インペリアル は完全 8オクターブの 97鍵盤( エクステンドベース )で 最低音を長6度低いハ音( C )までの 9鍵が拡張されています。 これはイタリアの作曲家でピアニストでもあったブゾーニの要望によるもの(  バッハのオルガン曲を編曲したとき、低音部に標準のピアノでは出せない音があったため ルードヴィッヒ・ベーゼンドルファーに相談したと伝えられているそうです。) とされています。
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この9鍵の拡張部は 以前は蓋を付けることで 一般に演奏される他の曲の演奏時の ” 誤打 ” を防いでいました。しかし現在では白鍵も黒くすることで区別するつくりとなっています。

これにつきましては興味深いお話しをピアニストの方から聞いたことがあります。 私は 六、七年程まえにお客さんから ガルッピ( 1706年 – 1785年 )のピアノ・ソナタ集のCDをいただきました。

それは 1997年に三鷹市芸術文化センターで録音されたものでした。  そして この2枚組CDのサブ・タイトルは 『 ベーゼンドルファーと スタインウェイ 名器の対話 』となっており 私は それにいたく感心しました。それで そのお客さんのご紹介で ピアニストの自宅でのサロン・コンサートにうかがって この録音の経緯などを 聞かせていただきました。

ガルッピのピアノ・ソナタの楽譜は彼が イタリアでマイクロ・フィルムの状態で残されていたものをみつけて レーベルの方との間で録音が決まったそうですが その時には一枚のCDでリリースする予定だったそうです。

そして録音当日ステージ・バックで ベーゼンドルファーと スタインウェイの二台がセットアップできているので比較して どちらを使用するか決めてくださいと言われたので 両方の試奏をしてみたとのことでした。

それを聴いていたディレクターが試奏が終わると彼のところにきて 『  やはり両方ともいいので 予定を変更して二枚組CDで 二台のピアノの競演 ‥ という企画にしませんか? 』との提案があったので それにその場で同意したそうです。

ピアニストの方は このCDについて『  録音でも分かるように どちらのピアノの響きもすばらしかったので その企画にのったんですが ‥ そのあとちょっと後悔したんですよ。』と言われました。

それは 使用したベーゼンドルファーは コンサート用グランドピアノで Model 275  /  92鍵で 低音拡張部の 4鍵は蓋なしで黒鍵仕上げがしてあるものだったそうです。 そして 彼は 蓋付きのベーゼンドルファーはなんども演奏した経験があったのですが たまたま蓋なしを弾いたことがなかったそうです。

このCDは予備日も含めてホールを4日間とってあったので、はじめの二日間でベーゼンドルファーを、そして後半二日間で スタインウェイで演奏して製作されました。この時のベーゼンドルファーの演奏について ピアニストの方はこうおっしゃっていました。

『  演奏時のピアニストにとって “目( 視床下部 )”からの情報は 瞬間の判断に思っていた以上に影響していることにあらためて気付いたんですよ。とにかく黒鍵であっても拡張された鍵盤が目のはじにかかるつど、頭は92鍵盤を弾いているとわかっているのに 意思に反して “グイッ!”と指がひっぱられる感じがして 演奏中にずうっとその” 誤打”しそうな自分の体と闘うことになったんです。ほんとうに汗をかきました。いい録音はできたと思っているので納得はしているんですが ‥‥ ちょっと不思議な体験でした。』
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それと私の 『  ピアニストとしてこの二台はどう感じますか? 』の質問に 彼は『  二台とも ” 響き ” についてはそれぞれにすばらしいと思っていますが‥‥ すくなくとも鍵盤のタッチなどについては自分はスタインウェイ派だと感じますね。  ベーゼンドルファーは確かに エクステンドベースが追加されたことなどでパワーアップされて、共鳴する弦も増加し響きが厚くなり色彩豊かな力強い音色が響きます。しかしそのため、しばしば一部のピアニストの談話のように「 中低音の響きは豊かだが 高音とのバランスを考えて弾かなければならないので弾きこなすのが難しいピアノだ。」という感想が頭にうかびますね。』とのことでした。

おかげさまで ピアニストの方から聞かせていただいた これらのお話しは 私にとって 非常にいい学びになりました。

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【  スタインウエイのピアノに取り付けられたサウンドベルについて。】

現在製作されているピアノという楽器の歴史をひも解けば 1836年に ドイツ・ゼーセンで ピアノを試作したヘンリー・スタインウェイさんが ニューヨークで スタインウェイ&サンズ社を創業した  1853年がとても重要なことがわかります。

同年にスタインウェイ、ベーゼンドルファーとならんで 三大ピアノのひとつとされる ベヒシュタイン社(   C. Bechstein Pianofortefabrik AG  )までもが ドイツ・ベルリンで カール・ベヒシュタインさんによって創業されたからです。

ベルリンのカール・ベヒシュタインさんは 1828年生まれですが、すばらしいことに この年に高炭素線材が製造されるようになりました。 この年は 古典派音楽の大成をはたしロマン派音楽の開拓者でもあった ベートーベンが亡くなった翌年で それを追うようにシューベルトが死去した年にあたりますが、この1828年頃から高炭素線材を利用した技術開発が進んだことが1853年の状況へとつながったのです。

彼らがピアノ製作に取り掛かったころは ” パテンティング技術 “(  高炭素鋼線材を加熱し オーステナイト化した後に500℃から600℃くらいに急冷し、さらに常温まで空冷する操作技術 が開発されます。 この技術は 1854年に世界で初めてイギリスで特許法が成立した際に、 栄えある特許第一号として登録されたため 『 パテンティング 』 と呼ばれています。)により現在『 ピアノ線 』と呼ばれているスチール弦が誕生していたことで ピアノの開発ブームがおこっていたからです。

ピアノの製作にはこのほかにもいくつもの重要な技術がもちいられています。そして この研究、開発には セオドア・スタインウェイ( 1825年 – 1889年 )さんと 1870年代から20年以上にわたって交流があったことで知られるベルリン大学の高名な物理学者、生理学者で音響学の草分けとしてしられるヘルムホルツ( Hermann Ludwig Ferdinand von Helmholtz  1821年 – 1894年 )さんの協力が大きな力となりました 。

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彼はこの時期以前にすでに ”  音色は 楽音に含まれる倍音の種類、数、強さによって決定されることを明らかにし、また 内耳が音の高さと音色を感知する機能について説明する理論の確立  ”  などの実績をもっていました。 彼らの協力関係により 音響理論に基づいてピアノを製造し、その結果によりまた理論を進化させる‥‥ というピアノ開発の好循環がうみだされました。

ここで ピアノの音響技術のむすびとして 現在はその原理と調整技術について 関係者の間でも解釈がわかれるようになってしまった ” サウンド・ベル” のお話しをしたいと思います。  これは スタインウェイ社が発明して 1886年に特許を取得した技術として知られています。

私は ピアノ関係の方にこの” サウンド・ベル” の原理と調整技術についていろいろおたずねしてみました。しかし残念ながらいくつかの仮説を聞かせていただいたのですが 具体的な調節方法がいまだに理解できません。私は だいじな響板に穴をあけてまで フレームとリムをつなぐ設定をしている訳ですから、技術的には 『 ピアノ全体が調和する締め方があるのでは‥ ?』と思っています。

演者がときに楽器の枠をこえて音楽のイメージをうみだそうとするのと似たところがピアノが開発されていった当時は製作する側にもあったのかもしれません。 私は サウンド・ベルを見るたびに ” 音楽 ” にあたらしいイメージをもって ピアノが開発されていた ” 時代 “を思い起こします。

下のリンクは 苦笑しますが 彼らは幸せだと思います。 まあ‥ 楽器は消耗しますが‥  !

http://www.youtube.com/watch?v=0VqTwnAuHws&feature=youtu.be

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” Sound Bell ”  円錐の中は空洞になっているそうです。


現在製作されているスタインウェイに取り付けられているサウンド・ベルの写真。 高音側リムの湾曲した部分に取付けられているそうです。

 


1920年頃 製作された Steinway Piano Sound Bell だそうです。

  
上右側写真の中央やや左よりの木目が通っている支柱右側に取り付けられた四角い木をみてください。この木の上部にフレームとつながっている頑丈なボルトが取付けられているそうです。


上の画像中央左にある銀色のカップのようなものが支柱に固定されているボルトで、右の六角ボルトがサウンドベルに固定されているボルトだそうです。

注)サウンド・ベルの写真は島村楽器さんのホームページより引用させていただきました。 ピアノに関して とても詳しい内容だと思います。

 

島村楽器さんホームページ
http://d.hatena.ne.jp/shimamura-music/comment/20091201/1259638718

 

私のサイトの投稿記事でスタインウエイ 限定記念モデルの 『 コロニアル調のピアノ脚部 』について書いています。 ” ヘンリー Z. スタインウェイ( Henry Z. Steinway )さんは とても好い人だと思います。”
http://www.jiyugaoka-violin.com/2015/%e3%83%b4%e3%82%a1%e3%82%a4%e3%82%aa%e3%83%aa%e3%83%b3%e3%81%ae%e8%a9%b1/%e3%83%98%e3%83%b3%e3%83%aa%e3%83%bc-z-%e3%82%b9%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%a6%e3%82%a7%e3%82%a4-%ef%bc%88-henry-z-steinway-%ef%bc%89%e3%81%95%e3%82%93%e3%81%af-%e3%81%a8%e3%81%a6%e3%82%82

 

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5. 平面振動板の 複雑化

 

私は ヴァイオリンに代表されるふくらみがある響胴をもつ弦楽器は、リュートなどのように表板が平らな弦楽器を製作する人達が ドーム状のふくらみによつて表板を強化し力木( ブレイシング )を減らした事によって誕生したと考えています。

この黎明期の技術で 私が非常に興味深いと感じる弦楽器製作技術があります。
それを私は 波の特性である進行波と反射波を利用して 固定端となるバスバーの工夫により基音や倍音を明瞭に歌わせるために考えられたと思っています。

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私が最初にこの技術に気がついたのは 私の顧客の方が購入した ハス・アンド・ダルトン社( Huss & Dalton Guitar Co.,inc  )の アコースティック・ギター の音を聴かせてもらった時でした。

Huss & Dalton Guitar Co.,inc は 1995年に アメリカ・ヴァージニア州に 高級アコースティツク・ギターのメーカー として設立されました。
www.hussanddalton.com/

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私はお客さんの演奏を聴きながら このギターがもつ低音域のゆたかな共鳴音とレスポンスの良さはすばらしいと思いましたので その夜さっそく調べてみました。
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右上はアコースティック・ギター に取り付けられている力木の名称です。
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上の画像は ハス&ダルトンのホームページにあるブレイシング(  ギターやウクレレなど木製弦楽器のボディ内部に取り付けられた棒状の力木をさします。また、力木を配置することもさします。)の写真です。

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私は ハス・アンド・ダルトン社 のアコースティツク・ギターの響きの特質は ネック形状とサイドブレイスと アーチングで生みだされていると思っています。

特に サイドブレイスは『 すばらしい! 』と感じました。 私は 白線で縁取ったゾーンが ” 第1音 ” を担当し、次に赤線枠の ゾーンが ” 第2音 “で響き そしてゾーンが ” 第3音 “と スムーズに 『  移動  』 しながら発音できるように サイドブレイスのエンドに スペース( 白矢印 )が設けてあると解釈しています。

またヘルムホルツオシレータの特性を活かすために めりはりのあるスキャロップド・ブレイシングが施され、 サウンドホールのふちが明瞭な音を出すように 「 割れ止め 」 ではなく トーンバーとして小さい力木を入れてあると私は解釈しました。  その他にもブリッジプレートの材料といいその横に高音域の変換点を確保するためにいれた力木といい『  実に見事!』と感じました。

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さて、このように振動面積をスムーズに変化させるために工夫されたサイドブレイスのブレイシングを 400年以上前の弦楽器で見てみたいと思います。

下右側図は ボローニャの博物館の収蔵品で 1599年に パドヴァで製作されたバス・リュートの研究図面です。 よく見ると 力木は高音域担当の 側だけにいれてあります。   小さいですが  ” 節 ” の役割は十分果たせると思います。

    

下の画像も同じく ボローニャの博物館の収蔵品研究図面で 1607年に ヴェネチアで製作された Gran Liuto basso all’ottava です。 私は このサイドブレイス 大きさと向きが工夫されたりブレイシングの角度も細やかに選んだうえで取り付けてあると考えています。


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私は ヴァイオリンは音色をゆたかにするため ” 変換点( 振動板 )” に工夫が凝らされていると考えています。 そのための重要な技術の一つが上で指摘したような、はじめにゾーンAが ” 第1音 ” を担当し、次に ゾーンBが ” 第2音 “を発生させ、そしてゾーンCが ‥ と スムーズに 『 移動 』 しながら発音できるように ” 節 ” を工夫することだったと解釈しています。

そしてこれらの共鳴振動板の工夫に 弦の振動により効率よくゆらす ” 駆動系 ” が 整えられたことにより400年以上前に動きにくい場所( 節 )と周期的に震わせるゾーン( 腹 )の組み合わせが調和して ” 明瞭な音 ” が重なって ” 美しい音色 ” を持つ ヴァイオリンは誕生したと信じています。

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