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ヴァイオリンの音は 聴くほかに “見て‥” 知ることが出来ます。

皆さんがご存じなように、弦楽器の表板は スプルース材の年輪がたてになるように使用されています。

そのため縦に割れやすい特性があり それが影響して このチェロの魂柱部には縦方向の割れ( Sound post Crack )が入っていて 表面のニスにも 縦方向のひび割れがはいっています。


私はこのニスに入った縦ひび( a. )はバランスが調和していなかったことで歪みが溜まり 表板が疲労した過程できざまれたものと思っています。

では b. c. そして d. のひび割れはなぜ入ったのでしょうか?
私は この年輪に直交するひび割れは チェロやヴァイオリンに設定された音響システムによって入ったものと考えます。

因みに‥ 私がこのように ニスのひび割れと響きを関係づけて考えるようになったのは  2003年 9月29日 の 16:45頃からです。

長くなりますが、ここで その時のお話をさせて下さい。

それは 2週間前まで 11歳の長女が使っていた 1/2サイズのヴァイオリンを 7歳の二女が使いたいと言い張ったので 、その準備として 弦などの交換を検討するために 工房の入り口に立ってこのヴァイオリンを私がチェックしている時のことでした。

風もなく空が晴れわたったおだやかな夕方で 私が立っている工房の入り口には まだ日差しがさしこんでいました。

そのときニスのひび割れが 『 キラッ ! 』と蜘蛛の糸のように光ったのが 私の目にとびこんできました。 それで私は このヴァイオリンの表板と側板にはいった ニスのひびを確認してみました。 はじめは 『  なるほど。 分数ヴァイオリンでも フルサイズとおなじ入り方をするんだ‥‥ 。』と思いながら観察していたのですが、 当時 私が記憶していた他の事例とあまりにも合致していたので 『  これは‥ もしかして! 』と思ったときに 私の顔色は変ったと思います。

それまでニスのひび割れを特に重大なことと思っていなかった私でしたが、このときヴァイオリン響胴の振動モードとそれが きちんと繋がったのです。 私はこのとき『  ヴィジョンが降りてきた‥‥ 。』感覚のなかで 『  いま自分の頭のなかにうかんでいるヴァイオリンのヴィジョンは本当なのかな? 』と 戸惑いながらも楽器の角度を変えたりしながら観察して、もう一度 頭にうかんだ ヴァイオリンの振動モードに誤りがないかを検討しました。

その最中のことです。  私が表板側と側板に気をとられてよくみていなかった 裏板がレイヤー映像のように頭のなかに浮かんだのです。 『  表板がこう振動して側板はブロックによって こう動き‥ということは裏板のここら辺りにこういう形状のニスひびが‥‥ 。』と 私は 独り言をいいながら 裏板を見るために ヴァイオリンをひっくり返しました。

いまでも その瞬間をときどき思い出します。
とにかく感動しました。  私が予測したとおりの形状の小さなニスひび割れが 裏板の推定した位置に 入っていたのです。 おかげさまで 私は 鉱山技師が鉱脈を発見したような 歓びを経験しました。

下の図は そのニスひび( 表板側 )を 2005年になって 私のノートに記録したものです。


この時に私がはじめに気がついたのは下幅広部に真横に入っているニスひびが テールピースの下で繋がっておらず 魚のウロコ状のニスひびとなっている事でした。

それで私は このニスひびは ボトムブロックの端付近( 高音側 )の点 a. から ゆれがはじまる”ねじり”によるものと判断したのです。

その証拠に反対側のネックブロック部をみると 点 b. 辺りからブロックのねじりによるニスひびがはいっています。


このような ネックブロックのねじりは上の動画で確認できます。
おそらく撮影の都合だと思いますが鏡像になっていますので ネックブロックは手前側が高音でその奥が低音側となっています。

私は これらのニスに刻まれたヒビは弦楽器のねじりについて 決定的な状況証拠となるものと考えています。

“Varnish crack”   1970年製     Karl Hofner Cello( 2006年撮影 )

【  弦楽器のニスに入ったヒビが物語ること‥。】

この投稿はここまでとさせていただきます。

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2017-7-10               Joseph Naomi Yokota

それが本物の”オールド・バイオリン”でしたら 裏板の マークを確認してください。

 

私は”オールド・バイオリン” の特徴を確認 するときは 裏板駒下部と その左下に焼いた針などでつけられた マークが無いかを調べます。

例えば アントニオ・ストラディヴァリが製作したとされるヴァイオリン “ローデ” の裏板には下写真のような位置に それが見られます。
Antonio Stradivari ( 1644-1737 ),  Violin  “Rode / Le Nestor” 1733年

参考にして頂くために‥ このストラディヴァリウスと クレモナ派の始祖と伝えられる アンドレア・アマティが 1555年頃に製作したと考えられるもの、そして その孫である ニコロ・アマティが その 100年ほど後に製作したヴァイオリンの画像を並べました。

A、点 B は3台とも同じ座標です。

これを観察すると ニコロ・アマティ ( 1596–1684  ) の弟子である アントニオ・ストラディヴァリ ( 1644-1737 ) が アンドレア・アマティ( ca.1505–1577 )の 170年以上も後に、その製作方法を誠実に受け継いでいたことが感じられると思います。

私はこのようにして比較対象をしながら”オールド・バイオリン”の研究を進めました。

そのなかで 、参照のためにあげた アンドレア・アマティが 1555年頃に製作したと考えられる このヴァイオリンが 非常に重要な意味をもっていると考えるようになりました。

Andrea Amati ( ca.1505–1577 ) ,  Violin 1555年頃

なぜなら、この楽器は “オールド・バイオリン” に多数入っている焼いた針などでつけられた痕が直線状の軸線として用いられたことを暗示しているからです。

これらのピン・マークを 高解像度の画像で確認していくと、下の参考写真のように それらが連なる軸線を何本も見出すことができます。

Antonio Stradivari ( 1644-1737 ),  Violin  “Rode / Le Nestor” 1733年

この作業は‥ 満天の星空をながめながら星座を探すのに似ていますが、細かい “点” ではなくもっとはっきりした “工具痕跡” として加工された マークをもつ楽器を参考にすれば ニコロ・アマティ ( 1596–1684  ) が 1651年に製作したとされるヴァイオリンのように 拡大すると細かい “点” が多数見られる楽器でも それほど難しくはありません。

私は それらの マークが連なる線が 正中線に対して右回転、あるいは左回転で何度にあたるかを画像ソフト上で確認して資料化しています。


Nicolò Amati ( 1596–1684  ) violin 1651年

例えば このヴァイオリンの高解像度画像では上のストラディヴァリウスと同じ 右回転 21.6度の位置に 14個の焼いた針痕を見ることができます。

また 私は下図のように 右回転 14.8度と 28.2度にも軸線を見出しました。

同じように観察をしていくと 下写真の アンドレアの息子たちである アントニオと ジローラモの兄弟が製作したとされるヴァイオリンでも 21.6度 には 10個の針痕があるようです。

 Antonio and Hieronymus Amati        Cremona 1629

私は このようにして基礎資料を増やしていきました。
そしてその後の研究により 結局これが”オールド・バイオリン” の発音システムに繋がっていることが解明できました。

Gasparo da Salò  /  Violoncello

そういう事で、これは 弦楽器を鑑定する場合にも強力な状況証拠となり得ますので 私は皆さんにヴァイオリンなどを調べる際は 高解像度の写真を撮影し‥ それを 拡大して焼いた針などで付けられたマークの位置関係を検証することをお奨めいたします。

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2017-2-03                 Joseph Naomi Yokota

あなたは 三角フラッグ現象を ご存じでしょうか?

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私は時折 「 三角旗 」はいつごろ発明されたかを考えることがあります。シンプルな現象ですが ニュートン以前に十分意味が理解されていたことは驚愕するような事実だと私は思います。

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ヴァイオリンなどのサウンド・ホールは突き出した部分が単純な固定端振動につながるレベルではなく、エネルギーを収れんさせ激しく振動させる技術が用いられた可能性が高いと私は考えています。

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ともあれ 皆さんも『 オールド・バイオリン 』などのサウンド・ホール周りには これらの現象を誘導するためと考えられる ’焼針跡’が確認できると思います。

この投稿は以上です。

2016-10-24            Joseph Naomi Yokota

非対称楽器であるバイオリンの “名器的響き” を楽しんでください。

疑い深い人のことを英語では ” Doubting Thomas “と言います。新約聖書のヨハネによる福音書( ヨハネ20:24-29 )で 不在だった使徒トマスが他の弟子たちに非常に実証的な要求をしたことからきている訳ですが、悲しいことに 私が ヴァイオリンは 非対称楽器であることをお話しすると‥ 現代の 弦楽器製作学校では ヴァイオリンは左右対称の形をしていると教えられている関係でしょうか  “非対称” の意味が理解できずに似たような反応をされる方が少なくありません。

そこで私は ヴァイオリンのほんとうの響きを疑似体験していただくことで 誤った認識を修正していただこうと決心しました。

では‥ はじめに ルネサンス期にイタリアで製作された一枚の油画をみてください。

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Alessandro Bonvicino( ca. 1498–1554 ) Brescian   1530年頃

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Alessandro Bonvicino detto il Moretto da Brescia ( c.1498-1554 )1530年頃

アレッサンドロ・ボンビチーノは ヴァイオリンという楽器が誕生した時期に ブレシアとヴェネチアで活躍した画家です。 彼は宗教画を中心として すばらしく緻密な油画などを残しました。 因みにこの絵は 1530年頃に製作されたそうですが‥ 私はこのモチーフとされた楽器は本当にすばらしい響きをもっていたと信じています。

解像度が高い画像を拡大してみると‥ おそらくペグは左側 4本で 右側 3本となっていて これに 7本の演奏弦が張られているのですが、それに加えて テールピースの 6番、7番弦の穴を通して弦状のもの( 上図の赤線 )の両端を ペグボックス または糸巻きに刺した金属製ピンに縛りつけてあります。

一部の専門家はこれを レゾナンス弦と考えているようですが、私は一本のガット弦をテールピースの2つの弦穴を通し 両端を金属ピンに固定することで張力を加えるようにしてあると思っています。

上の絵画にある楽器もそうですが‥ この時期に製作されたリュートやヴィオール属、ヴァイオリン属の弦楽器の中には、下のオックスフォードのアシュモリアン博物館に展示されている古楽器や ジロラモ・アマティの リラ・ダ・ブラッチョのように『 回頭機構 』を持った弦楽器があったことが私の念頭にあるからです。

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因みに、ヴァイオリン製作の歴史では イタリア最古の製作者として知られる アンドレア・アマティ( Andrea Amati  ca.1505 – 1579 )は プレヴェザの海戦の翌年である 1539年頃にクレモナに工房を設立したことが知られています。

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このアマティ家は 1740年に アンドレアの曾孫である ジロラモ Ⅱ( Girolamo Ⅱ Amati  1649-1740 )が亡くなるまで四代、およそ200年間にわたって ヴァイオリンなどの名器を製作し続けたとされています。

ですから アマティ工房で 黎明期に製作されたヴァイオリンなどにも『 回頭機構 』として ペグボックス に斜めに金属製ピンを通した跡を見ることができるのです。

残念ながら現代では これらの弦楽器のほぼ全てのピン穴は埋められてしまったため正確な検証が難しくなっていますので、ジロラモ・アマティの リラ・ダ・ブラッチョは本当に重要だと私は思います。

 

それでは、ここからこの『 回頭機構 』のような揺れにより得られる響きの検証実験についてご説明したいと思います。

この実験に使用するために 私は アレッサンドロ・ボルティーニ氏が 1985年に製作したヴァイオリンと、サンドロ・アジナリ氏が 2000年に製作したヴァイオリンを用意しました。

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Alessandro Voltini(  born in Cremona, 1957 ) violin  1985年http://www.voltini.it/bio.htm

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さて 実験は簡単です。私たちが日常的に使用している輪ゴムを 1回の実験で 1本使用しますので 数本準備します。そして、まずなにもしていない状態で鳴らします。それから写真にあるように輪ゴムをかけて同じように試奏してみます。

私はこれまでこの手法を頻繁に試して その結果を知っていますので‥ 皆さんが ご自分のヴァイオリンで試した場合でも響きの差は 驚愕するくらいに違うと思います。

この時 なるべく比較し易いように私は輪ゴムをかけた状態で 1分くらい鳴らしたら、それをハサミなどで切ってはずして すぐにまた試奏をして違いを確認しています。『 無し→有り→無し 』で1回で 、これを2回くり返し 響きの変化を聴き分ければ 実験としては十分だと思います。

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なお‥ 私が 実験に使用した輪ゴムは下写真にあるものです。

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それから サンドロ・アジナリ氏が製作したヴァイオリンに取り付けられたペグは 輪ゴムが引っ掛かりにくかったので市販されているセロテープで止めました。

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この実験は輪ゴムの張力( 0.36kg )で ヘッドの回転運動などのゆれや響胴のねじりを増やしたことによる響きの変化を確認するものです。

そして‥ 今回 実例として挙げさせていただいた ヴァイオリン 2台を用いた実験でも響きの差は劇的な違いがあったことをここにご報告しておきます。

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Sandro Asinari(  born in Cremona, 1969 ) violin  2000年
https://www.facebook.com/sandro.asinari

 

最後に この実験のリスクについての考察をしておきたいと思います。

下図にあるように もしペーター・インフィールドの4本セットを張っていたヴァイオリンで、E線を コレルリ・アリアンス・ヴィヴァーチェに変更すると約 0.5kg 張力が増えます。

これとは逆に張力が約 8.3kg のペーター・インフィールドE線を張力が 7.2kg 程とされているドミナントのE線にすれば約 1.1kg 減ることになります。

私は このような状況でヴァイオリンは使用されていて それでも 強度上の大きな問題は起っていないことと、輪ゴムの張力が弦 4本の合計張力の 2%以下であることから‥ 特に問題はないと判断しています。

ただし、ご自分でこの実験を実施される場合は 当然ですが あなたの自己責任となりますので 慎重に状況把握をしながら行なって下さい。

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なお 剛体の『 運動 』につきましては 私の娘が使用した都立高校の物理の教科書を下に引用させていただきました。

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それから‥ 余談で恐縮ですが 私は 剛体の『 運動 』の具体例として私は いつもバトン・トワリングのバトンのお話しをしています。

バトンは中央の棒をシャフトと言い両端のおもりは大きい方がボール、小さい方はティップと呼ばれています。 そしてこの道具で最も重要なのは ボールとティップの重さが異なることで重心がシャフトの中心からずらしてあることです。

この結果‥ バトンを空中に回転させながら投げあげると回転運動を持続しながら落ちて来る現象が生じます。もし両端が同じ重さだったら 重心が中央に来てしまうので 回転運動だけでなく並進運動もおこりやすくなり 安定した回転運動が得られなくなってしまいます。 これはブーメランなどにも共通しています。

   

ヴァイオリンなどの弦楽器でもゆれを持続させることで より低い音域の響きがうまれる条件がそろうために‥ つりあいにくくする工夫がいくつもなされています。

たとえば ヘッドに糸巻きが交互に取り付けられていたり、響胴やF字孔が微妙な非対称とされていることなどが それにあたります。

私はこれらの実験により 新作イタリーに限らず現在 製作されているヴァイオリンの多くが “ねじり”が不足していることで 多くの不具合が生じていると考えています。

それから 私は『 オールド・バイオリン 』ではない 現代のヴァイオリンにおいても その仕組みの一部は継承されているので ‘節’と’腹’の役割を踏まえバランスをとれば 18世紀ころの豊かな響きはある程度は再現が可能と思っています。

 

 

今日はここまでといたします。
ありがとうございました。

2016-7-21         Joseph Naomi Yokota

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2010-12-12 16:20  /  Opening
2013- 8-24 16:08   /  50,000 passing
2013-12-04 13:25  /  60,000 passing
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2014- 6-17  22:34  /  80,000 passing
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2016- 7-17  18:45 /  150,102 passing
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あなたの楽器とビニールテープで『 オールド・バイオリン 』の響きを疑似体験してください。

弦楽器裏板内側の帯状羊皮紙と 軸組について

『 オールド・バイオリン 』の時代に製作された ヴァイオリンやリュートなどの弦楽器で 裏板内側に帯状に貼られた羊皮紙( The parchment covering )についてお話ししたいと思います。


Jacob Steininger ( c.1751-1823 )violin  Mainz 1781年
“DIE MAINZER GEIGENBAUER”


Jacob Steininger  /  violin  Mainz 1781年

これは ヴァイオリンの場合では 裏板の中央付近に 幅が 6~7mm 程で、長さが 31cm 前後の帯状に貼られていたりします。

このような羊皮紙の利用方法を誰が発案したのかは正確にはわかりませんが、たとえば チロル地方の Absam の弦楽器製作家 Jacob Stainer( ca.1617-1683 )のヴァイオリンによく用いられたことは知られていますし、他の地域で製作された弦楽器でもめずらしくはありません。

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私がこの羊皮紙に着目したのは 1993年に Bologna で出版された ” Strumenti musicali europei del Museo Civico Medievale di Bologna ” に掲載された コレクション番号 97の 下にあげたテナー・リュートの写真を目にしたからです。

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これは Hans Frei in Bologna のラベルが入っていて 1597年製作の テナー・リュートとされています。

私は この写真で ジョイント部ではない中央付近にこのように羊皮紙が貼られているのを目にして‥ 強い衝撃を受けました。

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リュートは ジョイント部が剛性が高く、そのうえに下の製法のようにジョイント部の厚みはそのままにしてフラット部を溝状にスクレープされたことにより メリハリが大きくなるようにして仕上げられています。

    

ですから‥ 上図で羊皮紙が貼られている位置が重要な意味をもっていると 私は直感したのです。 そこで改めて 羊皮紙が貼られたヴァイオリンを調べてみたところ、センター位置から微妙にずれた位置が選ばれていることが分かりました。

その時から私は 音響上の判断としてどのような基準で その位置が選ばれたかを真剣に考えはじめました。

意外とこれは難問で 実際に表板をあけないで F字孔から羊皮紙を貼る実験をして それが実行不可能であることを確認したり‥ さまざまな試行錯誤が続きました。

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たとえば 弦楽器にとって ニカワで接着されている表板を剥がす作業は当然ながらリスクです。上写真の ヴァイオリンと出会った時期に私は『  ヴァイオリン内部に羊皮紙を貼るためだけに表板がはがされる事はあったのか? 』という設問について長考していました。

私は このヴァイオリンの幅の狭い羊皮紙跡を『 大急ぎで剥がしたかのような跡 』と解釈し‥  この楽器は内部の羊皮紙を貼りなおすために表板が剥がされ 幅の狭い羊皮紙をはぎ取り すぐに 幅広の羊皮紙を貼り その直後にふたがされたと判断しました。

これらの羊皮紙については いつ貼られたかの証明が事実上不可能なので あくまで個人的な見解としてですが‥  私は 羊皮紙は製作時だけでなく弦楽器の音響調整としても用いられていたと考えています 。

『 オールド・バイオリン 』などを調べてみると 下画像のシュタイナーのように製作時の位置そのままの可能性がある楽器もありますが、組みあげたときに不調和だった時は新品であっても表板をはがして位置の変更などの調整が必要となったと私は推測します。

なお‥ 話がそれて恐縮ですが、私は皆さんに 下のリンクでこの画像をご覧になることをお奨めしています。

状況証拠ではありますが ‥ 私は Rudolf Hopfner 氏のこのサイトの ” Measuring( 測定 )”の click here. にある羊皮紙下の印の存在は 私も意味深いと思います。

http://www.violinforensic.com/visualizations/measuring
Underneath the parchment covering the center joint of the back of the violin by Jacob Stainer mentioned above, five marking points are hidden. Their distance from the lower end of the body can be measured precisely. To run a video of this procedure click here.
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さて、ここから本題のお話しに入りましょう。
この技術でもっとも重要なのは羊皮紙を貼ることで得られる音響上の効果を事前に予測することです。 そこで私は 表板をはがさない状態で羊皮紙を貼る位置を探る実験方法を考えました。

これは 羊皮紙の効果を市販のビニールテープを利用して推測するものです。

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上写真のように ヘリを 2mm程折り返した状態で ビニールテープの粘着力を低下させるためにケント紙などにまっすぐに貼り 31cm程でカットします。

それから 実験に用いるヴァイオリンのニスを傷めないために‥ 何度か貼ったり剥がしたりをくり返して必ず軽く付着する程度まで粘着力を調整してください。

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粘着力の調整が済んだら カッターで幅が 6.0mm程にカットしてください。
因みに、私が この実験に使用したビニールテープ( 310mm × 6mm )の重さは  0.4g でした。

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ビニールテープの準備が済んだらヴァイオリンを用意します。
なお‥ 私はこの投稿写真を撮影するために 新作イタリー・ヴァイオリンを使用しました。

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これは日本国内で クレモナの製作者がつくったヴァイオリンとして販売されている標準的なグレードのものです。

さて実験は まずなにもしていない状態でヴァイオリンを鳴らし‥ その後で下写真のように裏板の中央より少し左側( E線側 )の位置で、上下ブロックの間にあたる部分に 先ほど準備したビニールテープを貼ります。

そしてこの状態で ヴァイオリンを試奏します。それから、このビニールテープをゆっくり剥がしてから‥ また試奏をします。これを数回繰り返し 響の変化を確認してください。

羊皮紙を貼るためのシュミレーションとしては、ビニールテープを貼る位置を少しななめにしたり左右にずらしたり、あるいは 5mm 位ずつ切って短くしていきながらヴァイオリンの響き方によって最良の位置を決定します。

私が実際に このシュミレーション結果に合わせて 表板を剥がしてからビニールテープの反対側の位置に同じサイズのティンパニーの薄皮を接着する加工を、自作ヴァイオリンやオールド・ヴァイオリンでおこなった限りでは‥ ほぼ同じ効果がみとめられました。

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私は このシュミレーションを皆さんに経験していただければ この投稿のタイトルとした  ” あなたの楽器と ビニールテープ 0.4g を使って 『 オールド・バイオリン 』の響きを疑似体験してください! ”  が 大袈裟な表現ではないことが理解していただけると思っています。
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結果としてこのシュミレーションによって 私は響胴中央部の軸組の設定を学び、製作に活かせるようになりました。

では‥ 本日はここまでという事にさせていただきます。
ありがとうございました。

 

2016-10-20     Joseph Naomi Yokota

本日よりブログを再開します。

old-violin-5-l2016-10-18   Joseph Naomi Yokota

過去ブログ

750-jahre-berlin

 

私は J.F. ケネディが 1963年6月 西ドイツ・ シェーネベルク市庁舎前で 『 自由世界にいきる我々は、どこにいても ベルリン市民である。』 とした演説に共感をおぼえた世代です。

1989年11月9日 雑誌取材でコラムニスト『 えのきどいちろう  』は ベルリンにいました。 彼は『 ”壁”がある東西ベルリンを取材中に”壁”の崩壊に立ち会い、俺って持ってると思った!』 といっていました。 その彼のお土産が 東ドイツ発行の『 ベルリンの街が誕生して 750年 記念切手 』でした。

昔のことですが、私は 1987年の西ドイツ・フランス合作映画 、ヴィム・ヴェンダース監督作品 『 ベルリン天使の詩  』がお気に入りで、有楽町の古びた映画館に4、5回は通いました。守護天使のダミエル( ブルーノ・ガンツ )が カシエル( オットー・ザンダー )に別れを告げ舞い降りた” 流れの瀬 ” で飲むコーヒーを幸せな心持でながめていました。

映画の冒頭のハントケの『 わらべうた 』 にショツクを受けたのをいまでもよく覚えています。

ベルリン天使の詩( うた )

子供は 子供だった頃
腕をブラブラさせ
小川は 川になれ
川は 河になれ
水たまりは 海になれと思った

子供は 子供だった頃
自分が 子供とは知らず
すべてに魂があり
魂は ひとつと思った

子供は 子供だった頃
なにも考えず
癖もなにもなく
あぐらをかいたり とびはねたり
小さな頭に 大きなつむじ
カメラを向けても 知らぬ顔

子供は 子供だった頃

皆さんもご存じなように 1961年8月13日から建設が始まった 『 ベルリンの壁 』は 1989年11月9日開けられ、1990年10月3日 統一ドイツが誕生しました。

私は 時折この切手をながめては 『 時が経つとは、こういう事か…。』 と思っています。

(  2010-11-17  blog より  )

○   このヴァイオリンは 私が側板を復元しました。

 

弦楽器製作における 失われた技術について ‥‥ その確認方法

 

2014-10-22 Cello - B L
私は 18世紀末までの弦楽器製作者は 響胴の’節’と’腹’の原理をほぼ正確に理解し、実際に用いていたと考えています。

この投稿では 黄金期の弦楽器製作技術の特徴を見ていただき、そのあとで検証実験についてお話ししたいと思います。

Matteo Goffriller (1659–1742) Cello Venice 1705年 - 1 L
数年前に亡くなった ヤーノシュ・シュタルケル(János Starker  1924 – 2013 )さんが使用していたチェロは、1705年にベネチアで Matteo Goffriller ( 1659–1742 )  が 製作したものとされています。

Matteo Goffriller Cello Venice 1705年 MONO - 1 L
このチェロにはへり部分の’傷’が 沢山( おそらく200個程‥ )ありますので、A ゾーンと B ゾーンの’傷’もたやすく確認できます。

Matteo Goffriller (1659–1742) Cello Venice 1705年 - 3 L
この部分の’傷’は ストラディヴァリ・ソサエティの エドゥアルド・ウルフソン( Eduard Wulfson 所有し、ナターリャ・グートマン( Natalia Gutmanさんが使用している グァルネリ・デル・ジェスが製作したとされる チェロとも共通しています。

Guarneri 'del Gesù' cello 1731年 - C L
Guarneri 'del Gesù' cello 1731年 - B L
Bartolomeo Giuseppe Guarneri ( 1698-1744 )
Violoncello  1731,  ” Natalia Gutman ”

このガルネリが製作したチェロは  A ゾーンと B ゾーンの’傷’がとくに深くつけられています。

Domenico Montagnana Cello 1730年 - B L

それから 1982年にニューヨークで生まれたチェリスト、アリサ・ワイラースタイン( Alisa Weilerstein )さんが 2014年から使用しているチェロにも同じ特徴があります。

Domenico Montagnana Cello 1730年 - C MONO L
この楽器は Domenico Montagnana が 1730年に製作したとされています。そして この楽器ではA ゾーンとB ゾーンの傷が 確認できるとともに、C ゾーンの ‘深い傷’ も見ることができます。

Domenico Montagnana Cello 1730年 - A L
因みに C ゾーンの傷は、ヨーヨー・マさんが使用している Domenico Montagnana が 1733年頃に製作したとされるチェロにも ついています。

Domenico Montagnana Venezia ( Yo-Yo Ma ) 1733年頃 - A MONO LDomenico Montagnana Venezia ( Yo-Yo Ma ) 1733年頃 - A L

また C ゾーンの傷には このチェロのように ‘修復’として埋められていても、アーチの特徴などから 見分けるのはそれほど難しくない事例も多いようです。

Old Italian Cello c1680 - 1700 ( F 734-348-230-432 B 735-349-225-430 stop 403 ff 100 ) - A L
Old Italian Cello    1700年頃
( F 734-348-230-432,  B 735-349-225-430, stop 403 ff 100 )

これらの特徴的な’傷’が『 オールド・バイオリン 』の時代の弦楽器に認められることを 皆さんはどうお考えになるでしょうか。

私は 同時期に製作されたへり部分がオーバーハングしていない弦楽器に 答えをもとめました。

joachim-tielke-1641-1719-viola-da-gamba-1683%e5%b9%b4-hamburg-1-lJoachim Tielke ( 1641-1719 )  Viola da gamba  / Hamburg   1683年

joachim-tielke-1641-1719-viola-da-gamba-1683%e5%b9%b4-hamburg-2-lJoachim Tielke ( 1641-1719 )  Viola da gamba  / Hamburg   1683年

giovanni_dandrea_lira_da_braccio_1511_khm-2-lLira da braccio  by  Joannes Andreas ( Giovanni d’ Andrea) , Verona

giovanni_dandrea_lira_da_braccio_1511_khm-1-lLira da braccio  by  Joannes Andreas ( Giovanni d’ Andrea) , Verona

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bartolomeo-giuseppe-guarneri-1698-1744-guarneri-del-gesu-carrodus-1743%e5%b9%b4-p-l

私は下の写真のように これらは ‘節’としての ‘折れ軸’を調整した痕跡と考えています。

jiyugaoka-violin-cello-r-l
ところで 私は チェロを製作するとき ‘座標’や ‘折れ軸’としてこれらの線分を 表板で 100本、裏板は 60本設定し利用しています。

言うまでもなく、これらは 私が「オールド・チェロ 」などの分析から導き出したものです。

Matteo Goffriller (1659–1742) Cello Venice 1705年 - 3 L

mirel-iancovici-a-lmirel-iancovici-b-l
ルーマニア生まれのチェリスト Mirel Iancovici さんが使用しているチェロもこんな感じです。

これらの軸は弦楽器にとって’節’の要素も兼ねる重要な条件だと 私は考えています。

そこでここから その効果を確認する実証実験についてお話ししたいと思います。

viol-1-l
皆さんは ヴィオール・オイル( Viol )をご存じでしょうか。ポリッシュオイルでは定番の ドイツ製の磨き油です。なお、現在の税込定価は2,160円となっています。

この製品がいつから輸入されているのか正確には分かりませんが、少なくとも私は 34年前から使用しています。

穏やかなポリッシュオイルで 成分的にも安定しているため、弦楽器工房はもとより 多くの演奏家にも愛用されています。

viol-a-lこの ヴィオール・オイルの一般的な使用法は 布に少量をしみこませ ニス部に塗布して、その後に別の柔らかい布でふき取るように磨きあげるそうです。

残念ながら 効力が続くのは  2~3日ですが、ヴィオール・オイルで丁寧に楽器全体をみがくと、明らかに音色が良くなる場合が多いようです。

viol-2-l
さて本題ですが、私は 皆さんに この ヴィオール・オイル( Viol )と綿棒を使って ‘折れ軸’の検証実験をすることをお奨めいたします。
viol-b-l
viol-p-l実験は簡単です。綿棒を使って 私が 【 No. 2 model 】と呼んでいる図の 14本の赤線部に ヴィオール・オイル( Viol )を線状に塗布します。
viol-c-l上写真のように 紙定規を使えば なおさら良いですが、私の経験では フリーハンドでも十分効果があると思います。

下図のように 裏板は 2本ですが、表板は 7本ですのでよろしくお願いいたします。
viol-q-l私の経験では 綿棒を用い 下の写真に指定したように 白字の番号順で、14本の軸にヴィオール・オイルを塗布するのに必要な時間は 約1~2分位だと思います。

viol-j-l
私はフリーハンドで塗っていますが、下のように 紙定規で目測をたててから ガイドとして線状に塗布する作業のほうがやり易いとの意見もありました。

viol-d-l

viol-o-l私の研究では この【 No. 2 model 】は ヴァイオリンなどの2番線を中心に音色を改善する効果がみとめられました。

また、チェロや ビオラなどの場合は 下にあげた【 No. 3 model 】で試すことを私はお勧めします。
viol-r-l【 No. 3 model 】は 裏板の線分AB の角度がすこし違います。こちらのパターンは チェロなどの3番線、そして4番線の改善が見込めるのではないかと 私は思っています。

viol-n-l

この実験では ヴィオール・オイルを塗布していない状態で音階を弾いたあとで、 手早く塗布して すぐに試奏し その後柔かい布でふき取ってから もう一度試奏する。

これを 2セットほど繰り返せば実証実験としては十分ではないかと思います。なお、ヴィオール・オイルは ほとんどのヴァイオリンやチェロのニスに適合しますが 念のために 実験を終了する際には柔かい布でふき取るように磨くのを忘れないでください。

また、この実験は フルサイズ弦楽器だけでなく 分数サイズのヴァイオリンでも コントラバスでも効果が確認できると思います。

なお新作イタリーのようなアーチがフラットな弦楽器だと より劇的な変化が楽しめるのではないでしょうか。

contrabass-1-l   contrabass-2-l

CONTRABASS - B
これらの軸は響胴に一定のバランスを生みます。

それは例えればバランスが取れずに歪みが溜まり振動板として機能出来なくなったコントラバスの表板に、下写真のように バスバーの形状を工夫して線分 abと 線分cdの曲がりを誘導し 表板に振動板としての機能を回復させるのに似ているのではないでしょうか。

CONTRABASS - F
冒頭で述べましたように 私は 18世紀末までの弦楽器製作者は 響胴の ‘節’と’腹’の原理をほぼ正確に把握し利用していたと考えています。

そしてその本質的な証明は ヴィオール・オイルを塗布する実験方法で、ある程度は可能と考えています。

これは 先程例示した【 No. 2 model 】と【 No. 3 model 】を選択する過程でわかったのですが、ヴァイオリンやビオラ、チェロを演奏できる状態で準備して、塗布していない状態で音階を弾いたあとで 下の表板図から線分を一本だけ選びヴィオール・オイルを塗布したあとで再び音階を鳴らしてみてください。

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ヴィオール・オイルによって’軸線’と’響き’の関係を一本づつ確認するこの実験には 多少の時間と根気が必要になりますが、その結果は 皆さんに 弦楽器音響システムの意味を十分教えてくれると私は信じます。

jiyugaoka-violin-cello-f-l

この投稿は以上といたします。
ありがとうございました。

2016-10-12    Joseph Naomi Yokota

 

弦楽器システムの最後の理解者 レアンドロ・ビジャッキについて

この他に私はネックや指板について考える場合 1910年頃に ミラノで  レアンドロ・ビジャッキ(  Giuseppe Leandro Bisiach   1864 – 1945  )氏が製作したヴァイオリンに助けられています。 これは所有者の方が 23年程前に 当時 ‥ 一般的に認識されているレアンドロ・ビジャッキ作 ヴァイオリンの販売価格の2倍くらいの値段で購入されたものです。

すばらしい事に 1910年に ブリュッセルで開催された万国博覧会にイタリアから出品されゴールド・メダルを受賞した製作当初の状況がほぼそのまま保たれています。

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このヴァイオリンは 1910年のブリュッセル万国博覧会の写真と 2012年に私の工房で撮影した写真をつき合わせると 指板の左右表板の『  演奏キズ  』や 表板C型部センター・バウツ付近の『  弓の打撃痕  』や それ以外のへりについている『  キズ  』も製作時の加工によるもので、裏板やヘッドのニスが剥がれている『  景色  』も製作時に加工されたことが確認できます。

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ちなみにブリュッセル万国博覧会は 1910年 4月23日から 11月7日までベルギーの首都ブリュッセルで開催された国際博覧会で 会期中に 1300万人が来場したそうです。 この博覧会にイタリアから出品されたレアンドロ・ビジャッキ(  Leandro Bisiach  1864 – 1945  )が製作したヴァイオリンのラベルには 1910年にミラノで製作したと書かれています。 これはおそらく 4月からの万国博覧会出品のために前年にはあらかた完成していたヴァイオリンに このラベルを貼って仕上げたものと 私は推測しています。

私はこのヴァイオリンを 100年前の『  標準型  』として参考にしています。 ネックや指板などもとても興味深い設定です。

Giuseppe Leandro Bisiach (  1864 – 1945  )  /    violin   1910  Milano

表板 サイズ          351.0 mm  –  165.2 mm  –  107.6 mm  –  205.0 mm
アーチ 17.0 mm
裏板 サイズ          351.5 mm  –  165.7 mm  –  107.6 mm  –  204.6 mm
アーチ  16.6 mm
ネック長さ      129.0 mm
ストップ          192.5 mm
ネック高さ( 表板からトップ・エッジまで )E-side 6.2 mm :  G-side  6.5 mm
(  指板エッジまで  )                  E-side 10.1 mm  :  G-side 10.5 mm
ネック厚さ  17.0 mm –  20.2 mm
指板端の高さ(  表板から  )   17.9 mm
指板                23.1 mm –  42.3 mm –  266.5 mm
ナット(  1-4 スペース )     16.3 mm
サドル           34.5 mm( 7 – 20.5 – 7  )、H 5.0 mm( 1.0 )、D 5.5 mm
F字孔間       39.4 mm
F字孔長さ    L 68.5 mm  –  R 69.0 mm
ボタン           20.9 mm  –  H 12.3 mm
側板 Eサイド    N 28.2 mm  –  28.8 mm  –  C 29.4 mm  –  C 29.3 mm  –  29.4 mm
側板 Gサイド    N 28.3 mm  –  28.2 mm  –  C 29.2 mm  –  C 29.4 mm  –  29.4 mm
ヘッド      106.5 mm (  38.0 mm  –  68.5 mm  )
アイ      39.5 mm
ペグ・ホール位置  N-side 16.0 mm  – 14.0 mm – 23.5 mm – 13.0 mm
パーツ無し重量     374.0 g

ただし 念のために申し上げないと私にはどういう事情かは分かりませんが、このヴァイオリンは 彼のどのヴァイオリンよりも特別です。

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弦楽器製作者として ペグホール位置について思うこと

 

フランス、ボルドーの高名なメドック地区にあるポイヤックのシャトー・ラフィット・ロートシルトの赤ワインは、フランクフルトに発し200年以上金融界に君臨するロスチャイルド家のひとつ フランス・ロスチャイルドが1868年より保有するクラレットなのはよく知られています。

そしてもう一つの シャトー・ムートン・ロートシルトは 1853年にイギリス・ロスチャイルド家の所有となった為に 1855年のランクインが見送られ1973年 シラクによって正式にクラレットとなりました。

このように彼らは 金融、鉱業、鉄道、保険、石油、マスコミ 、製薬 、ワインなどの他にも 鳥類標本を集めれば一つ博物館 ( ウォルター・ロスチャイルド動物学博物館 )ができる収集家があらわれるほどのこだわり方と 『 目利き 』が知られています。

このロスチャイルドの一人 バロン・ナタニエル・ロスチャイルドは 1890年に ストラディヴァリの 1710年作といわれているチェロ “Gore – Booth ” を購入しました。

ペグホールの位置を考える場合に「 非常に興味深い 」そのスクロール写真を 1987年にクレモナで開催された 「 ストラディヴァリ没後250年祭 」の展示会資料集として1993年に Charles Beare がロンドンで出版した ” Antonio Stradivari – The Cremona Exhibition of 1987 ” の 165ページより引用させていただきました。

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ところで このチェロのペグボックスの外側に 4番線から2番線のペグホールまで一筋の”線”が入っています。  このスジ状の”キズ”は 弦楽器製作者が 目にすると「 あっ!」と思うくらいの意味があるものだと私は思います。

このスジ状のキズが見やすいように 右側に赤線を入れた画像を並べました。

ヴァイオリンなどの製作経験がある方だと おそらく同じ意見になると思いますが 『  2番線と4番線のペグホールの中心はライン上で、1番線と3番線は外接円として穴をあける。』 と読めます。  そして、実際に ペグホールの位置をこのように設定したヴァイオリンやビオラ、チェロは たくさん残っています。

この位置に ペグを取り付けると 張られた弦がナットの溝からペグまでの間で 3番線ペグや1番線ペグと接触する状態になることがあります。  そして現在これを避けるために「ブッシング」と呼ばれていますが ペグホールを埋めた上で、穴の位置を移動する “修理” が世界中で行われています。

j-a-gagliano-1754-j-1726-1793-a-1728-1805-1 Giuseppe Gagliano 1726-1793  &  Antonio Gagliano 1728-1805   Violin  1754年

さて、このヴァイオリンは 15年前となりますが‥  私が最後にペグホールを “移動する修理” をした ガリアーノ兄弟( Giuseppe Gagliano 1726-1793 , Antonio Gagliano 1728-1805  )が 1754年に製作したヴァイオリンです。

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因みに、このヴァイオリンは以前にも穴を埋めたうえで穴位置の変更がなされていました。そこで わかり易いように最初のブッシング部に 丸く白線をいれました。

そして 右側には比較対象として1980年に出版された V.E.Bochinsky の弦楽器写真集 “Alte Meistergeigen / Band Ⅴ Neapel  Schule” の 123ページから長男の Ferdinando Gagliano ( 1706-1784  )の 1761年製作のヴァイオリン ヘッド写真をならべました。

ferdinando-gagliano-napoli-1761-1706-1784-356-1685-118-2085-stop197-side30-31-alte-meistergeigen-1Ferdinando Gagliano  ( 1706-1784 )  Violin, Napoli  1761年

このヴァイオリン ヘッドでも「 私以外のだれか…。」 が同じようにペグホールを埋めて、位置を移動したうえで 新たな穴が開けてあります。

これらの ヴァイオリンのペグ位置設定の共通性により、製作時の設定は それなりに理由があったという事は 皆さんに同意していただけるのではないでしょうか。

そして残念ながら 私も含めて これが 留意できなかったのが 現代の弦楽器工房の実力だと思います。

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さて告白の時間です。 私は 15年前 この ガリアーノを販売した際に 上写真のように引き渡し前の ”サービス” として一晩でペグ穴のブッシングをして位置を移動しました。

上右の画像は ペグ穴を埋める作業にはいった その日の 夜8時頃  私が 業務用コピー機で直接横にしたスクロールをコピーし、その後 エンピツと赤ペンで “修正位置” を計算したものです。

移動前の穴が G 線ペグと E 線ペグのグループと A 線ペグと D 線ペグのグループの間が 34.0mm ほど離れて設定されているのが分かります。

着手時に私は この E 線ペグと D 線ペグのスパンを元々の 34.0mmから 23.0 mm とする予定で作業に入りましたが このヴァイオリンは ヘッド長が 109.4mmであることから考えを修正して 25.0mm とすることを選びました。

そして、このあと予定通り作業をすすめ 12時間後の 翌朝8時頃に弦を張りました。  そして この段階で「 半日前より  少し響が薄くなり、フレッシュになった。」ことに 初めて気がつきました。

もちろん家一軒ほどの価格で販売した名器ですから、 昨日と変わらない美しい高音域の響は そのままでしたが 、ペグの位置を変えただけなのに 昨日の 響から低音域の一部の音が消えていることが判りました。

私は頭をかかえる事になりましたが‥ 予定していたように 11時頃には受け取りにおいでになったので、購入者の方の意見をうかがったところ 許容範囲とのことで 上写真の状態でそのまま使用していただくことになりました。

当然ですが、私はその後も ブッシングは頻繁にやっていますが、 この事例で学んだので ” ペグ位置移動” は一度もやっていません。
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当時 私は 『 オールド・バイオリン 』などは ペグが「 上下2個、2個づつがグループになっている。」と表現していました。

実際に『 名器 』の響をもつヴァイオリン族の弦楽器は 最初にその位置にペグが取り付けられていた可能性が高く、たとえ移動されていても 上にあげた例のように埋めた跡がたやすく確認できる場合が多いのです。

例外としてペグホールを移動した事例です。

私はその後の研究により  優れた弦楽器はヘッドの面取りのさいに不連続面とすることで立体性を高め、ねじりがスムーズに生じるように設定してあることに気がつきました。

これらの事から 私は ペグの上下グループの間にスペースがあるのは ヘッド部が回転運動をおこしやすくし、”対” となってゆれる響胴の良質な響きをうみだすための仕掛けと考えるようになりました。

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私は このようにペグホールについては 弦楽器の音響システムをしっかり踏まえて設定するべきと考えています。

私の経験ではペグホールも含めて 音響システムの “写し”に成功した最後の弦楽器製作者は ミラノの レアンドロ・ビジャッキ(  Giuseppe Leandro Bisiach   1864 – 1945  )ではないかと思っています。

参照
弦楽器システムの最後の理解者 レアンドロ・ビジャッキについて

なぜなら‥  私の工房から徒歩で 15分くらいの場所にお住まいの方が  1910年にベルギー・ブリュッセルで開催された万国博覧会のコンペテーションに出品し メダルを授与された ビジャッキが製作した ヴァイオリンを所有されていて、私は その響きを知っているからです。

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これは所有者の方が 26年程前に 当時 ‥ 一般的に認識されているレアンドロ・ビジャッキ作 ヴァイオリンの2倍以上の値段で購入されたものです。

このヴァイオリンは 1910年に にイタリアから出品され メダルを受賞した製作当初の状況がほぼそのまま保たれていて、その響きも ジョヴァンニ・フランチェスコ・プレッセンダ( Giovanni Francesco Pressenda  1777-1854 )や ヨーゼフ・アントニオ・ロッカ( Giuseppe Antonio Rocca  1807-1865 )と並ぶ程すばらしい響きをもっています。

 

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Giuseppe Leandro Bisiach( 1864-1945 )Violin   Milano  1910年

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Giuseppe Leandro Bisiach( 1864-1945 )Violin   Milano  1910年

そのため 私はこのヴァイオリンを 100年前の最高技術で製作されたものとして参考にしています。

このヴァイオリンの ヘッド長は 106.5 mm で、ペグ・ホール位置  N-side 16.0 mm  – 14.0 mm – 23.5 mm – 13.0 mm となっています。

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私は 響から判断すると G 線ペグ、 E 線ペグのグループと A 線ペグと D 線ペグのグループの間が 23.5mm しかありませんが、ぎりぎりで “対の関係” が成り立たっている好例と考えています。

このヴァイオリンもペグボックスの中で 2 番線と 3 番線が ほかのペグに接触しています。ですから 現在でも他の専門家がこれを見るとペグ穴のブッシングをして位置を移動したくなるかもしれません。

しかし実際にこれが原因で弦が切れたりすることはほとんど無いのです。それなのに‥ これまでに なんと多くのペグ・ホールが移動されてきたことでしょうか。私はこの事を思うとき 本当に心が痛みます。

2016-10-20      Joseph Naomi Yokota

ヴァイオリンと能面の類似性について – 後編

長文となり恐縮ですが、ここからは弦楽器の “写し” の特徴についてお話ししてみたいと思います。

まず弦楽器のヘッドの事例を見てください。能面とおなじように みごとな非対称形状のものがたくさんあります。また、複雑なゆれを意図的に生じさせるために 傷や摩耗したような加工が多用されています。

giovanni-battista-ceruti-1791%e5%b9%b4-cremona-1755-1817-a-lGiovanni Battista Ceruti ( 1755-1817 ),    Violin  1791年  Cremona   /  355-163-113-208  ‘Wurlitzer collection 1931’

1500年代半ばに登場した ヴァイオリンは 1700年前後には黄金期を迎え、弦楽器製作者が 技術の粋を尽くして 沢山の名器を製作しました。

しかし、当時 ヨーロッパ世界を恐怖に陥れたペスト禍や 相次ぐ戦争が 弦楽器製作の世界にも影をおとし、特にスペイン継承戦争でフランスとオーストリアの領地争奪戦に巻き込まれたロンバルディアの諸都市は 急激に没落していったと伝えられています。

‘三大ヴァイオリン製作者’ を輩出したクレモナも 実質的には このG.B. チェルーティを最後に技術の継承が途絶えたようです。

このヴァイオリンは 1931年の ‘Wurlitzer collection’ のなかでも 特別な楽器として扱われたもので、私は 彼の代表作と思っています。

写真のように スクロールの特徴ひとつとっても非対称技術のすべてを確認できるすばらしいヴァイオリンです。私はこの ヴァイオリンを作った G.B. チェルーティを、能面でいう”創作の時代” の 最後の弦楽器製作者だと思っています。
40623bcdc8be7303f55a6747dccc382eところで、ヴァイオリンや チェロのヘッドは錯視をまねき易い形状のようで、見る角度や撮影条件でかなり印象が変わります。

この上下二枚の写真は、 デジタル一眼レフカメラで 同じチェロのスクロールを撮影したものです。 上写真は 被写体距離が 約2.0m でしたが、下写真は 被写体距離が 約1.2mで 上写真より若干 見下ろす角度で撮影しています。

この楽器を実際に皆さんがご覧になると おそらく上写真のような印象になると思いますが、下のように少しズームアップされた写真は 私たちが二つの眼球でみる景色とは 違う視点を気付かせてくれます。

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因みに私が赤線でいれたような補助線は大切です。 ご覧のように これを書き加えると スクロールの角度設定などの確認が容易になります。

下に いくつかの事例をあげてみましたが、弦楽器は形状に加えてメープル材の虎目模様や 表板もふくむ木材の年輪、糸巻きなど 錯視の誘因条件をかかえているため 実相が捉えにくいという特徴を持っているからです。

1024px-cafe_wall_svg
カフェウォール錯視  :  水平の線が右または左に傾いて見える。
1024px-jastrow_illusion_revealed_svg
ジャストロー錯視  :  上のような二つの扇形では下の方が大きく見える。
delboeuf_illusion_svgデルブーフ錯視  : このように合同な内円( 黒 )が 外円の影響で違って見える。

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ツェルナー錯視  :    このように平行な線分に 羽を斜めに( 羽角度が 鈍角ほど顕著 )加える事によりおこる錯視。

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オッペル・クント錯視  :    等間隔の平行線 A,B,C が AB間に書き込まれた平行線によって ABの間隔のほうが BCより広くみえる。

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ポッゲンドルフ錯視  : 斜線を描き、その間の形跡を別の図形で隠すと その直線の始まりと終わりがずれて見える錯視。

この他にも錯視につながる条件がいくつもありますので 弦楽器の特徴を理解したいとお考えの方に 私は写真撮影をおすすめしています。

例えば 下画像はストラディヴァリウスのスクロールに 私が 白線を正中線として 傾斜角度をみるために赤線を入れその角度を書き込んだものです。

私はこれらの傾斜角度は 弦を張る前の木組みを含めた基本設定の段階で決定され 実行されたと考えています。意図的にこの角度差を彫り込むには かなり高度な技術が必要なのは 想像に難くないと思います。

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Joseph Thomas Klotz ( 1743-1809 ) ,  Violoncello piccolo  Mittenwald  1794年

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Nicola Gagliano ( ca.1710-1787 )   Violin,  Napoli  1737年

そして 弦楽器をみる時にもうひとつ念頭におかないといけないのが、弦を張ったあとの調整痕跡です。

その事例として このスクロールの右側突起部に注目してください。この部分は 製作された後の “修復” によって 現在この状態となっていると考えられます。

これは この ニコラ・ガリアーノが製作したヴァイオリン・ヘッドの “修理部分の損傷”( 下写真右側 )が、同時期に製作されたヴァイオリンの摩耗痕跡( 下中央 )と おなじように製作時に加工されていた可能性が高いことが 状況証拠となっています。つまり この “修理” は 製作時の加工があまりに大胆であったために、後年‥ はじめからと気がつかなかった担当者によって ていねいに修復されてしまったものと 私は判断しました。

それにしても、音響上の理由とはいえ この摩耗加工は‥  たとえば 千利休( 1522-1591 )の “わび茶” を端とする茶道において、 成型した灰型の最後にすじ棒などで崩す( 流派による差異はあります。)所作に似て、美学としても 十分に 意志的と 私は感じます。

まさに、「古( いにしえ )の 弦楽器製作者 恐るべし!」といったところです。

 

 

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Johann Jais  Viola  Tölz ( 1715-1765 )    Viola   1760年頃

弦楽器ヘッドの非対称性については、このビオラのように おそらく着手時に大胆な設定として選択されたと考えられる 事例もありますが 、摩耗痕跡を複数の作品で比較してみると 一定の加工原理としてとらえることが出来るようです。

antonio-stradivari-violin-1715%e5%b9%b4-lipinski-a-lAntonio Stradivari  ( ca.1644-1737 )    Violin  Cremona  1715年
“Lipinski”   /   Giuseppe Tartini ( 1692 – 1770 )

たとえば このヴァイオリンは、1700年代に ヴァイオリンソナタ『 悪魔のトリル (  Devil’s Trill Sonata ) 』で有名となった 作曲家 ジュゼッペ・タルティーニ( Giuseppe Tartini  1692-1770 )が使用したと言われている すばらしい ストラディバリウスです。

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私は クレセント・カット(  Crescent cut  )と呼んでいますが 三日月型の” 激しい摩耗痕跡 “があります。

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そして右写真はイタリア・クレモナに展示されている 有名なヴァイオリンです。クレセント・カット部には 修復痕跡が認められます。さて、これは どう考えるべきでしょうか?

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残念ながら このような摩耗痕跡を 『 演奏するためのチューニングなどですり減った。』 と思っている方も多いようで、実際にその判断の誤りにより このように ‘修復’ されてしまう弦楽器もあとを絶ちません。

 

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Antonio Stradivari  (  ca. 1644-1737  )   Violin  1677年  “Sunrise”

これは、 ストラディヴァリが製作した装飾文様入りの有名なヴァイオリン “Sunrise” です。 彼が初期に製作した作品ですが 装飾加工も含めて製作時の状況がよく保存されていることでも知られています。

このヴァイオリン・スクロールにもクレセント・カットが入っています。ところがその周りには他に摩耗したような痕跡はあまり見られません。私は このヘッドにみられる摩耗部とその周りの’落差’ を不自然と感じます。

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これは オーストリア国立銀行が ウィーン・フィル( Wiener Philharmoniker )のコンサートマスターに貸与している 1709製ストラディヴァリウス ”ex-Hämmerle” の ヘッド写真です。

2008年に定年退団するまで ウェルナー・ヒンク氏( Werner Hink  1943 – ‥ )が使用し、その後 1992年から コンサートマスターに就任していた ライナー・ホーネック氏( Rainer Honeck 1961- ‥ )が 演奏に用いている有名な楽器です。

このヴァイオリンで摩耗部とその周りとの’落差’ を ご説明したいと思います。下画像のように 私はスクロール部を 1段目、2段目、3段目と区別していますが、摩耗痕跡が 1段目のエッジ部でみとめられるのに 2段目、3段目のエッジ部は 完成時のままであるかのように フレッシュです。

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もし チューニングでスクロールに触れたことが“摩耗”の原因だとしたら 「 この景色 」はあり得ないのではないでしょうか。

これらを検証した結果、私は ストラディヴァリは 摩耗加工を 多少不自然になるのを承知のうえで 音響上必要とおもわれる最低限にとどめた弦楽器製作者だと考えています。

さてヴァイオリン族のなかでも ヴァイオリンと ビオラは 演奏者がスクロールに触れることがある訳ですが、チェロのスクロールは人が触れることは殆どありません。  ところがオールド・チェロの中には 制作者が 前出のストラディヴァリウスのヴァイオリン・スクロールと同じように 二、三段目はそのままで一段目を”激しく摩耗させた” チェロが存在します。

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私も プロのオーケストラで2列目に座っているチェリストから 『 演奏の最中に目の前のチェロのヘッドをいつも眺めているけど”激しくすり減った” 理由が何度考えてもまったく解からないんだけどどうして?』 と聞かられた時には 『 うぅーん…。』でしたが、同じような質問を何人かから受けて本腰をいれて調べました。 オールドのチェロは本当に現存する台数がすくないですから結構大変でした。

 

 

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この写真は 1997年に ヴェネチアの南西80㎞程の街 Lendinara で開催された展示会カタログ ” Domenico Montagnana – Lauter in Venetia ” Carlson Cacciatori Neumann & C. の 109ページに掲載されている 1742年に Domenico Montagnana が制作したチェロのヘッドです。

クレセント・カットの意味が解かりやすいので引用させていただきました。  十六、十七世紀にヴァイオリンやチェロを製作した人は イタリア語 Liutaio やフランス語 Luthierであるように リュート製作者でした。 つまり リュート 、シターン や テオルボ 、キタローネや ヴィオラ・ダ・ガンバ をよく知っている弦楽器製作者だったのです。 右側に1993年に ボローニャの博物館カタログとして出版された ” Strumenti Musicali Europei del Museo Civico Medievale di Bologna ” John Henry van der Meer の105ページに掲載してある十七世紀に製作されたと考えられる テオルボのヘッド写真をおきました。 後ろから見たときに中心軸が右側に曲がっていくのが特徴です。

左右の写真を見比べれば同じ軸取りがしてあるのが理解していただけると思います。 下に資料映像をならべておきますが古楽器からヴァイオリン族まで胴体の中央軸線とネックの中心軸線ははじめから 『 く 』の字に組まれていました。

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[ 恐縮ですが ここからは 書いている途中です。]

”クレセント・カット”は制作者が スクロールを後ろから見たときの右曲がりの中央軸の傾きをより「 強化 」するために手を加えたものです。

 

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このように 弦楽器は 響きの立ち上がりのすばやさや 持続性、そして響きの豊かさを達成するために、徹底した音響条件の集合体となっています。

このため 16世紀から18世紀末までに製作されたクオリティの高い弦楽器は、あまりにも複雑な設定がなされているために19世紀後半になるとその音響機構を理解できる人がほとんどいなくなりました。

 

フランス、ボルドーの高名なメドック地区にあるポイヤックのシャトー・ラフィット・ロートシルトの赤ワインは、フランクフルトに発し200年以上金融界に君臨するロスチャイルド家のひとつのフランス・ロスチャイルドが1868年より保有するクラレットなのはよく知られています。 そしてもう一つの シャトー・ムートン・ロートシルトは 1853年にイギリス・ロスチャイルド家の所有となった為に 1855年のランクインが見送られ1973年 シラクによって正式にクラレットとなりました。  このように彼らは 金融、鉱業、鉄道、保険、石油、マスコミ 、製薬 、ワインなどの他にも 鳥類標本を集めれば一つ博物館 ( ウォルター・ロスチャイルド動物学博物館 )ができる収集家があらわれるほどのこだわり方と 『 目利き 』が知られています。  このロスチャイルドの一人 バロン・ナタニエル・ロスチャイルドは 1890年に ストラディヴァリの 1710年作といわれているチェロ “Gore – Booth ” を購入しました。

ペグホールの位置を考える場合に「 非常に興味深い 」そのスクロール写真を 1987年にクレモナで開催された 「 ストラディヴァリ没後250年祭 」の展示会資料集として1993年に Charles Beare がロンドンで出版した ” Antonio Stradivari – The Cremona Exhibition of 1987 ” の 165ページより引用させていただきました。

これはどういう事かを少しお話しすると‥  たとえばこれを研究したとします、私事で恐縮ですが 私の場合は 実験考古学の考え方で解明しようと 2004年11月11日に 独自に研究をはじめました。

 

先程お話しした ヘッド部の非対称加工については、その4カ月後である 2005年3月16日に下記の実験をおこないました。

弦楽器の特質上その条件変更の評価は最終的に響きで確認するしか方法がありません。

そこで私は 自分の娘4人が使用していた 4/4、1/2、1/4、1/8サイズの ヴァイオリン・スクロールで 試奏と削りを 五つの確認工程に分け実施しました。最終の補修工程は翌日でしたので 一台につき 四つの確認工程が終了すると、下の写真のような状態になりました。

実験結果が分かりやすいように 意図的な削りとしていますのでケガをしてるようですね。翌日違和感がないよう成形してニスの補修をおこない このヴァイオリンの実験痕跡が 他の方がご覧になっても分からない仕上げとしましたが、私の感覚としても いやなものでした。

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それはさておき、実験目的の方は 予想していたように「 一カ所ずつ 鑿(のみ)を入れて すぐに試奏する。」ごとに、この日 実験に立ち会った5人とも 感激のショックを受けるほどすばらしい響の変化が確認できました。

あまりにも劇的な効果でしたので 「こんなに簡単に ヴァイオリンの響きが改善できるのであれば 私の研究の完成は そんなに遠くないのでは‥ 。」と思ってしまった程でした。余談ですが 実際にこの研究が最終的な結論が得られ終了したのは 2015年12月26日でした。
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ともあれ‥ ヘッドの非対称加工の結果に意を強くした私は 翌日から数カ月に渡って、不都合な事情がないヴァイオリンやチェロに この加工をおこないました。その総数は30台ほどにおよびました。

しかし その試みは この年の秋には一旦 中止することになりました。なぜなら 重要な情報が この加工を加えたチェロを使用している人からもたらされたからです。

それは『 この加工による劇的な効果が3カ月程したら薄くなってしまった。』というものでした。非対称加工をする前より 状態が悪くなったわけではありませんが、すばらしい響きを一度自分の楽器で体験していると その喪失感は辛いものです。

このため私は 原因を徹底的に検証し ヴァイオリンもチェロもその響きは響胴が “ゆるむ” ことで生じている‥ という点から考えて 、一般に使用される弦楽器によくみられる ‘つり合いの破れ’ が生じ響胴にひずみが溜まったことが原因との結論に達しました。

この実験では ‘十分条件’ となり得る 響をうみだす響胴の音響条件の変更ではなく ‘必要条件’ のひとつを改善しヴァイオリンの響きを良くできました。しかしスクロールで私が試みた “まね”では すぐに限界が露呈するという事がわかりました。

着目は正しかったのですが、私は「 はじめから豊かな響きを持ち それが弦の交換だけで 何年間も安定した性能のまま使用できるヴァイオリン 」を作るために研究をはじめた訳ですから 立ち止まってはいられませんでした。

私が経験したように 弦楽器製作者が  ヘッド部の非対称性を検証しようとすると おそらく同じような一喜一憂があり、それは果てしない道のりに続いていると思えます。

18世紀中期から19世紀はじめにかけて産業革命により 社会構造の変革がおこり時代が 近世から近代に移行するなか 、弦楽器製作者も その流れのなかで立ち止まるのがむずかしくなったということだと思います。

さて話を戻しますが‥ このような事からも分かるように 弦楽器のもっとも重要な特性は響胴部の条件にあります。ピアノなどの鍵盤演奏する弦楽器もふくめて すべての弦楽器は 弦が加える圧力を支えきり、振動板の条件を安定的に維持するのが 最難関の課題となります。

歴史をながめると 多弦楽器において この問題を解決するための研究は 結局‥  弦数を減らしながら 低音域の共鳴音をとりこむ試行錯誤のなかで それぞれの完成形に達したようです。

例えばこれを コントラバスで見てみると 3弦型に行き着きます。

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黎明期には 合奏で低音域を担当する弦楽器は 5弦や 6〜7弦の バス・ガンバが 一般的だったのですが、 それが現在の 4弦ないしは5弦のコントラバスとなる手前の19世紀前中頃には 3弦のものが 主力として活躍していました。

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ハイドンや ベートーヴェンとの親交で知られる ドメニコ・ドラゴネッティ ( Domenico Carlo Maria Dragonetti  1763-1846 ) の晩年である 1840年代の写真や、コントラバスにフランス式運弓法を取り入れ この楽器が多様な音色をもった立派な独奏楽器たり得ることを示した ジョヴァンニ・ボッテジーニ ( GIOVANNI BOTTESINI  1821-1889 ) の 1865年頃 といわれる写真には どちらも3弦のコントラバスが写っています。

3弦のコントラバスは 楽曲演奏に対しての適合性は 別として、より明瞭な共鳴音が見込めるので、ある意味では「 響の完成形 」だと 私は思っています。

これは低い音域の響きを生むには 振動部の面積がどうしても広くなってしまうので システム損失が生まれやすく、この変換効率が落ちる条件のもとで振動部に 30.9~41.2ヘルツあるいはそれ以下の音高につながる運動をさせるエネルギーが要求され、その最終的な解答として製作されたのが 3弦の弦楽器だったからです。

もちろんこれには 幾何剛性を変化させるチューニング( 低い方から A、D、G の四度調弦と G、D、Aの五度調弦が一般的だったようです。 )など 演奏家の工夫に支えられた側面も大きかったと思います。

因みに ボッテジーニは後年 4弦コントラバスにシフトして通常チューニング [  高い方から 中央ハの1オクターブと完全 4度下の ト( G )、以下完全4度ごとに 二( D )、イ( A )、ホ( E )]より 長2度高くする ‘ソロチューニング’ を考案し通常チューニングとともに普及させたそうです。

ともあれ 物理学で最も基本的な法則とされるエネルギー保存の法則( 変換前のエネルギーの総量と変換後のエネルギーの総量は変化しないこと。)があるわけですから、 コントラバス響胴の剛体運動のためのエネルギー総量を弦のゆれのみで 調達するのは至難の業だと私は思います。

 

 

こうした弦楽器製作の繁栄は 残念ながら 19世紀になると急激に変化します。そしてこの時期以降の弦楽器を検証すると これらの音響設定を理解できる人が激減したことがわかります。

また演奏環境の変化( 18世紀の音楽ホール事情 )も影響して 弦楽器製作は『 オールド・バイオリン 』などの弦楽器が製作された時代が終わり、『 モダン・イタリー 』などと呼ばれる弦楽器を中心とした時代となりました。

そして現代では「写し」の特徴である 弦楽器の傷跡状の加工や 製作時の工夫の多くが「 工具痕跡 」と呼ばれるようになりました。これはどうやら 刃物使いなどを失敗したと考えた方の命名のようですが、名工がこんな失敗をするでしょうか?。

そういうことで 弦楽器の特徴を理解するために ここから 私が これを 意図的につけてあると考えた理由をお話ししたいと思います。
Domenico Montagnana( 1686-1750 )  Cello   Venezia   1739年

例えば 1739年に製作されたこのチェロヘッドの背中下側の “工具痕跡” に着目してみましょう。これは 4番線のペグ取り付け位置より少し下についています。

まず ドメニコ・モンタニャーナが 1742年に製作したチェロ・ヘッド後部をまっすぐに撮影した写真 ①を下に置きます。

その下の②は 上の斜め写真の1739年製で ③は フランチェスコ・ルジェーリが 1695年に製作したものです。 三台のチェロに共通するだけでも偶然ではないと理解していただけると思いますが、この位置に同じ ” 工具痕跡 ” をもつオールドの弦楽器はめずらしくありません。

①  Domenico Montagnana( 1686-1750 ) Venezia   Cello 1742年

②  Domenico Montagnana( 1686-1750 )Venezia    Cello  1739年

③  Francesco Rugeri( 1626-1698 )Cremona   Cello  1695年

但し、すべてのオールド弦楽器についているわけでもありません。 下に例として4台のチェロをあげさせていただきました。④のベルゴンツィは上と同じ “工具痕跡” をもっていますが ⑤の “工具痕跡” は中央尾根の真上ですし ⑥と⑦のガダニーニはジグザグを強くしこの位置の軸の中央尾根の高さをさげることで同じ効果が得られるように工夫してあります。

 ④  Carlo Bergonzi( 1683-1747 )Cremona   Cello  1731年

 ⑤  Domenico Montagnana( 1686-1750 )Venezia  Cello  1739年 ” The Sleeping Beauty ”

⑥  J. B. Guadagnini( c.1711-1786 )Cello  1743年頃製作  ”Havemeyer ”

⑦  J. B. Guadagnini( c.1711-1786 )Cello  1777年   ” Simpson ”

それから上の画像を検証すると中央尾根だけでなくチェロ・ヘッドのヒールが楕円を基本型としている事がご理解いただけると 思います。 私はこれを ヘッドのゆれ( = 剛体運動 )の ふたつの運動のうち 回転運動をふやす( = ゆれる時間を長くする )工夫と考えています。

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cittern-%e3%80%80-english%e3%80%801600%e5%b9%b4%e9%a0%83-1-l 説明は省きますが  私はこのような軸組が分かりやすい弦楽器の特徴から 考察して、非対称の楕円部は ねじりを生じさせる仕掛けとなっていると思います。

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Antonio and Girolamo Amati    Violin  1595年頃製作  ” The King Henry IV ”

そして アマティ兄弟が 1595年頃製作したとされる ヴァイオリンです。このスクロール・エッジ部にある段差も  “工具痕跡” とよぶのは無理があると、私は思います。

 

上のスクロールと この 1603年頃に製作された アマティ兄弟のスクロールを比較すると『 段差加工 』は 8年後の方が 少しなめらかな削りとされていることが ご理解いただけると思います。

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Matteo Goffriller (1659–1742)    Violin,    Venezia 1702年

また、 このヴァイオリン・ヘッド右側( Bass side )にも段差加工を見ることができます。

それから 1742年製 とされるドメニコ・モンタニャーナのチェロでも ヘッド右側( Bass side )にも段差加工を見ることができます。

 

domenico-montagnana-vc-venezia-1742%e5%b9%b4-1686-1750-1-lDomenico Montagnana( 1686-1750 ) Venezia   Cello 1742年

私は 性能的に優れた弦楽器のヘッドは ゆれやすいように斜めに不連続面を構成して「 ねじり軸 」を設定していると考えています。
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『 オールド・バイオリン 』などの弦楽器では、その軸がエッジをまわりこむ位置に 下の写真の 点 A, 点 Bのような傷跡状の加工をみることが よくあります。

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Jacob Stainer ( 1617-1683 )  Violin  Absam Tirol   1678年

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Jacob Stainer ( 1617-1683 )  Violin  Absam Tirol  1659年
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Nicola Gagliano ( 1675-1763 )  Violin Napoli 1725年頃
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彼らは弦楽器の発音メカニズムを熟知していたため 中には下のカルロ・ベルゴンツィ( Carlo Bergonzi  1683-1747 )が何台か製作したヴァイオリンのようにヘッドのヒール部分を切り取ることで その条件を調整したものがあるくらいです。



イヤハヤ‥ 頭が下がります。 私は カルロ・ベルゴンツィを本当にすばらしい弦楽器製作者だと思います。そしてパリで活躍した J.B.ヴィヨーム( Jean-Baptiste Vuillaume  1798 – 1875 )もそう考えたようです。カルロ・ベルゴンツィ( 1683-1747 )が亡くなって100年程のちに 下写真のヴァイオリンを製作したくらいですから‥ 。


Jean Baptiste Vuillaume    violin
( Nippon Violin )


この世の中の『 名器 』と呼ばれるすべての弦楽器を検証した訳ではありませんが 私の経験では ヘッド・ヒール部に弦楽器製作の名工達は ” 必ず ” 細やかな工夫を施していました。この事を知っていると『 オ-ルド・バイオリン 』の見分け方としても役立つと思います。

これをおおまかな言い方で表現すると ヘッド・ヒールの A部とB部をまず確認してください。とくに A部( 縁薄部 )は重要ですので焼いた針などの工具痕跡や段差の有無などもみていただきたいのですが‥ もっとも見分けやすいのは縁の厚みを薄く設定してあるかどうか? だと思います。これは B部の意図的に厚みが残してある部分と比較するとなおさら判りやすいと思います。

それからネック上端とヘッドの接合部の C部から斜め上方向( これらの画像の白い点線もそうですが 私は 33°を標準と考えています。)に『 ゆれ軸 』が設定されていないか?を確認します。この C部には焼いた針などでつけた工具痕跡がある場合が多いと思います。そして その上端にあたるD部は 縁がすりへったような加工により高さを低くしてあることが多いでしょう。また『 斜めゆれ軸 』の中央付近に 先ほど『 ヴァイオリンの工具痕跡 (  tool mark )について。』で私が指摘した 工具痕跡がある場合にはなおさら このラインの存在が確認しやすいと思います。

では参考のために 2011年の ” Masterpieces from the Parma 2011 Galleria Nazionale Exhibition ” に関連した研究書として 2012年に SCROLLAVEZZA & ZANRÉが出版した ” Joannes Baptifta Guadagnini fecit Parma ferviens  /  Celsitudinis Suae Realis ” ISBN 978-88-907194-0-0 より  J.B.ガダニーニ( 1711 – 1786 )のヴァイオリン・ヘッド写真を引用させていただきましたので観察してみてください。

①  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Franzetti ”  Piacenza   1742年

②  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Baron Knoop ”  Piacenza   1744年

③  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Dextra ”  Piacenza   1747年

④  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Zuber ”  Milan   1752年

⑤  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Curci ”  Milan   1753年頃製作

⑥  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Wollgandt ”  Milan   1755年

⑦  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Burmester ”  Milan   1758年

⑧  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Lamiraux ”  Parma   1763年

⑨  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Merter ”  Parma   1769年

 ⑩  Giovanni Battista Guadagnini ( 1711-1786 )  violin  ” Millant- Levine ”  Parma   1770年

これらの画像により J.B.ガダニーニのヴァイオリン・ヘッドには  A部の 縁薄部 、B部の意図的に厚くしてある部分と、ネック上端とヘッドの接合部の C部から斜め上方 D部までのライン上に『 ゆれ軸 』の要素となる特徴がみとめられるものが複数存在していることがご理解いただけると思います。

これらの特徴は『 オールド・バイオリン 』ではよく見られますので、私はヴァイオリンを精査する際のチェック・ポイントとしてきました。下に別の製作者事例としてジロラモ・アマティⅡ( ヒエロニムス・アマティ )が クレモナで 1710年に製作したヴァイオリンのヘッド・ヒール部の画像を貼らせていただきました。

⑪  Girolamo Hieronymus Amati Ⅱ ( 1649 – 1740 )   violin   Cremona  1710年

さすがアマティ家の製作者ですので 景色に調和する配慮が感じられますが、J.B.ガダニーニとおなじように音響上の設定はきちんと踏まえて製作していたという事がご理解いただけるでしょうか?

Girolamo Hieronymus Amati Ⅱ ( 1649 – 1740 )  violin


Giuseppe Tartini's - Lipinski Stradivarius 1715年 - A L
 Stradivarius   1715年   “Lipinski”  / Giuseppe Tartini’s
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『 オールド・バイオリン 』を見ていると似たような ” 修復 “がおこなわれているのをよく見かけます。例えば上写真は判断ミスでヴァイオリン・ヘッドが ” 修復?”された事例です。

 

Matteo Goffriller (1659–1742) Cello Venice 1705年 - 1 L
Matteo Goffriller Cello Venice 1705年 MONO - 1 LT
Matteo Goffriller (1659–1742) Cello Venice 1705年 - 3 LT
Guarneri 'del Gesù' cello 1731年 - C LT
Guarneri 'del Gesù' cello 1731年 - B LT
Domenico Montagnana Cello 1730年 - A LT
Domenico Montagnana Cello 1730年 - C MONO L
Domenico Montagnana Cello 1730年 - B LT
Domenico Montagnana Venezia ( Yo-Yo Ma ) 1733年頃 - A LT
Domenico Montagnana Venezia ( Yo-Yo Ma ) 1733年頃 - A MONO L
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Old Italian Cello c1680 - 1700 ( F 734-348-230-432 B 735-349-225-430 stop 403 ff 100 ) - A LT
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2014-10-22 Cello - B L
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